第45話:ノブヒデファミリー始動!
年末の土曜日の夕方、高井オーナーのマンションに、カンゴーズの二人、芸能事務所社長の中川が集まっていた。高井は、窓の外に見える美しい大阪湾の夕焼けを、赤ワインを片手に持ち、静かに眺めている。
高井は、ワインを一口飲み、重苦しい空気が漂うみんなの方に振り返る。
「そういうことやねん。でもな、それが事実やねん。あの二人の、正式な芸能界デビューが決まった今、ノブヒデに最も近い、ここにいる全員は、全てを知った上で彼らの本当の味方になり、サポートしていく義務があると思う。そうでないと、彼らはこの世の中の流れに潰されるかもしれへん。そう思いませんか?中川社長」
それまで目を閉じ、俯いていた中川は、何かを決断したかのように、きりっとした表情で高井の顔を見る。
「しかし…今まで、よう一人で背負って来られましたね。いや〜、たいしたもんや。私も信長や光秀のような戦国武将は大好きですが、世の中を、日本史をすべてひっくり返すような一大事を、誰にも知られることのないように隠して、あの二人に、この時代での生きがいを与えるとは…」
「私も必死でした。あの二人に、『秘密を守るから、この令和でしっかり生きてください』と提案したのは私です。ここにいる人だけとはいえ、私がしゃべったとなれば、二人とも腹を切るかもしれません。でも、でもですよ! あの二人がここからさらに活躍するには、本気で彼らを支える仲間が必要なんです。それしかないんです!わたしだけでは、どこかで限界がくるに決まってます!」
ソファーに座る中川社長の背後に、高井は崩れるように泣きながら座り込む。中川は、高井からワイングラスを取り上げテーブルの上に置き、ソファーから立ち上がり、高井を抱え、ソファーに座らせる。
佳澄と恵は、心配そうに高井を見ているが、なかなか声はかけようとしない。中川は、泣いている高井の横に座り直し、カンゴーズの二人を見つめるが、二人とも視線を外す。
「佳澄ちゃんも恵ちゃんも、わかってあげようや、高井さんの気持ちを。この時代で、お互いと高井さんしか頼れるものがいない二人やで。可哀想と思わんか?」
「そやけど…」
佳澄がようやく中川と視線を合わせ、重い口を開く。
「一番好きな歴史上の人物が目の前にいるやんなて、頭の中で整理が付かなくて。今まで、ひどいことも言ったかもしれない自分が許せなくて…」
続いて、恵も、堰を切ったように話し始める。
「私なんか初めてノブさんにお店で会った時に、本物の信長とは知らずに『好きです!』って告白したんです。ああ、恥ずかしい!!」
佳澄も恵も言いたいことを言って、また俯いて黙り込む。
その様子を見ていた高井が、ふたりに優しくアドバイスをする。
「二人ともノブさんとヒデさんとは、仲良くしてたもんな。気軽に話していたことも、それでいいねん。好きやって告白しても、ノブさんは、自分のファンがこの時代にもいたことが嬉しそうやった。二人ともええ人や。この平和な時代にも二人はしっかりと馴染んでる。ただ、何かの世界のキングになりたいことは変わってないようやけど。これからは、ここにいるみんなが、ノブヒデの令和の家族や。ノブヒデが、いつでも帰ってこれる心許せるファミリーや。もう私も迷わへん!みんなで、二人に何があっても支えていくことを、みんながいる時に私から言うわ。それでいいよな?」
高井の話を聞いていたカンゴーズの二人の顔に、笑みが戻ってくる。恵が、ワイングラスを持ち、全員に提案する。
「ほんなら、新年会がいいんと違います。まず今のことを高井さんからノブさんとヒデさんに話してもらって、その後、みんなで二人が初めて出演した、元旦放送のテレビ番組を見るというのは?」
「いいね、それ。新年のスタートにぴったりやね」
高井は、ワイングラスを取り、ソファーから立ち上がって乾杯のポーズをする。
「よし、わかった。来年の新年会では、まずノブさんとヒデさんに、私から今日のことを言います。その後、みなさんのフォローお願いします。それでいきますね!」
中井もカンゴーズの二人も、ワイングラスを持ち頷く。
「では、今日は決起集会と言うことで、最後に乾杯しましょう。せ〜の、乾杯!!」
「(みんなで)乾杯ー!!」
新年会の“戦国バー・うつけの溜まり場”では、高井オーナーがノブヒデの二人に、中井社長、カンゴーズの二人、由美に、ノブさんとヒデさんの素性を話したことや、ノブさんとヒデさんがなんでも相談できる、本物のノブヒデサポートファミーリーが誕生したことを話し終えていた。その話を聞いてノブさんが、両手を床につきお礼の言葉を述べる。
「誠にかたじけなきこと。令和とは無縁のワシら二人のことを、そこまで思っていただけるとは。ありがたき幸せ」
ヒデさんも負けじと、両手を床につき、頭を下げる。
「このご恩は、生涯わすれませぬ」
ノブさんの近くに座っていた由美が、ノブさんに顔をあげてほしいと懇願する。
「信長さま。顔を上げてください。私は、今日のことを、みなさんより後に聞きましたが、ほんとに驚きました。
これまでのご無礼、お許しください」
ノブさんは、笑みを浮かべ頷く。しかし突然、由美は、ラフな態度をとる。
「と言うと思ったでしょ。でもこれからもよろしくお願いしますね。ここでは、私の方が先輩ですもの。
でも、これだけは言わしてもらいます。お笑いで、必ず天下をとってください!心から応援しています!!」
その態度を見て、高井が一言付け加える。
「そう!由美ちゃんの言い方が正しい!さすが、由美ちゃんやわ。みんな、天下の信長さまや光秀さまに臆することなく、これからも本気でノブヒデを応援しましょう!!」
カンゴーズの佳澄も、発言する。
「ノブヒデ最高!! よっ!日本一!! でもカンゴーズもよろしくね」
「よし!ノブヒデもカンゴーズもまとめて売ったるで〜。あ〜、今年は忙しくなるぞ」
中川社長も、そうやって二組にエールを送るが、カンゴーズの恵があることに気づく。
「そうや!、もう番組、始まるんと違う? オーナー、テレビ!」
「承知!!」
そう言って、高井は、テレビのリモコンを取り、スイッチをオンにする。
ちょうど始まった番組がスクリーンに映し出される。店内に反響する番組のタイトルコール。
『(テレビのタイトルコール)城ワングランプリ 乱世一番の城はどれだ!』




