第43話:聞き違い
美香は、恥ずかしそうな様子で秀頼から少し距離を取って、源三郎の横に座り、目の前の変わった風体の男たちについて父に質問した。
「父さん、この人たちは…?」
「たぶん信じてくれないと思うが、言っていいか?」
「うん、言って」
「父さんは、正気だからな。決して気が狂ったとは、思わんでくれ」
「わかったわ。思わないから、早く言って!!」
美香は、彼らについてなかなか話してくれない父に、痺れを切らし、少し語気を強めた。
「実は、この方々は400年ほど前の世界から、タイムスリップされてこの世界に来られてな…」
父の言葉に、目を丸くして固まっている美香。信繁も秀頼も、心配そうに美香を見ている。
しばらくして美香は気を取り直し、父の方を向き、神妙な面持ちで父を問い詰める。
「なんか、そんなことだろうと思ったわ。ということは、あなたが、真田信繁さんで、こちらが豊臣秀頼さんだったりして…」
いきなり自分たちの名前を言い当てられて、目を向いて驚く二人。父、源次郎も空いた口がふさがらない。
「なぜわしらの名を知っておるのだ? そなたは、どこぞの巫女なのか? 神の力でも持っておるのか?」
信繁の言葉を聞き、座りながら後退りする秀頼。
「このような美しき方が、そのような力を」
美香は、冗談のつもりで言った言葉が、本当だったことにたじろぎ、両手を二人の方に向け、「待って待って」という感じで、二人に戻ってきて欲しいという合図を送る。
「嘘でしょ。本当に真田さんと豊臣さん?」
信繁と秀頼は、示し合わせたかのように同時に声を発する。
「うん‥」
「父さんどうするのこれ?まさか、二人ともこの家に住まわせるつもり?」
源三郎は、美香に大反対されることを覚悟しながら返事をする。
「そうしようと思ってる。ごめん、美香には、何も相談せずに。許してくれ。彼らには、もうどこにも行く宛がないんやから。な、頼む」
美香は、腕組みをして、しばらく源三郎を含む三人を怖い顔で睨みつける。
そして大きく「フゥ〜」とため息をついたかと思うと、ハイテンションで話し始める。
「そんなん、いいに決まってるやん! 父さんも私がどんだけ、戦国時代が好きか知ってるでしょ。大歓迎やわ!!」
源三郎、信繁、秀頼は、美香の発言に、一斉にずっこける。そんなことはお構いなしに美香は、信繁に近づき握手を求める。
「あなた様の豊臣への忠義に、私は感動しました。真田信繁さまと、こんなところでお会いできるとは奇跡でしかありません。他言は致しませんので、ご安心ください。真田さまも秀頼さまも、父と私が必ずお守りいたします」
「我が娘!よう言うた!!」
美香と握手しながら、信繁は、どうしていいかわからず、きょとんとしている。
続いて美香は、秀頼に近づき、両親指を床につけ、武家風の挨拶をする。
「私は、寺内源三郎が娘、美香と申します。私は豊臣が秀吉様の頃より大好きでございます。なにとぞ、私を信繁さまと同じく、家来にしていただけませぬか」
秀頼は、美香の凛々しさに感服し、やさしく答える。
「あい、わかった。こちらこそ、よろしく頼む。わしは、槍使いなど武芸はあまり得意ではないので、お父上にも言ったのだが、美香殿を書の道でお助けしたいがよろしいか?」
美香はその言葉を聞き、秀頼からの提案に満面の笑みで返答する。
「はい!喜んで!」
「それはよかった」
「秀頼様?」
「なんじゃ?」
「実は秀頼様は、私のタイプでございます。ずっとそばに居とうございます!」
と言って、一気に秀頼をハグする美香。その大胆さに驚き源三郎は、娘を必死で秀頼から離そうとして、美香の両腕を掴む。
「美香!無礼な真似をするでない!!」
源三郎のパワーに負け、美香は、源三郎の横に転げ落ちる。
美香は、我を取り戻し、もう一度きちんと正座する。
「申し訳ございません。この奇跡的な出来事に、どうしていいかわからず取り乱しまして。私の尊敬するお二方のためなら、父とともに何でもお手伝いいたします。まずは、この時代に慣れるところからはじめませんか?」
「わしも、それがよいかと。言葉遣いも、この時代にあったようにお教えいたしますので」
父と娘、二人の提案を快く受け入れる信繁と秀頼。
「かたじけない。この世では、我々は赤子のようなもの。一から学ばせていただきまする。そうでございますね、上様」
「信繁。その呼び方も、もういい。これからはそれぞれの歳に合わせた、この時代風な言い方でいい」
美香は、思いついたように二人に提案する。
「それなら、二人とも下の名前に近いニックネームみたいな感じからはじめましょうか?」
「ニックネームとは、なんでござるか?」
秀頼が美香に聞く。
「正式な名前ではなく、愛称という感じですかね。信繁さんなら、シゲさん。秀頼さんは、この中で一番年下だからヨリくんとか」
源三郎が、美香に怒る。
「ヨリくんって失礼な!」
「いいと思う。それで行こう! 肩の荷が降りた感じで軽くていい。のう、信繁」
「わしもいいと思います。ヨリくん」
源三郎は、少し納得がいかない様子だが、ここは美香の意見に従った方が、丸く収まると思いその提案に賛同した。
「じゃ、わしは源さんで。よろしくお願いします」
「それでもいいと思うが、わしは兄上と呼んでもよろしゅうござるか?」
信繁の突然の申し出に驚く源三郎。
「そんな、もったいない。あなたの兄だなんて、この私が」
「違うのだ。本当のわしの兄も、真田源三郎信之というのだ。真田の家を絶やさぬために徳川についた兄は、今でも私の尊敬する兄なのだ。だから、同じ名を持つお主は、この時代の私の兄になって欲しいのだ。これからは兄上の指示に従い、生きる道を見つけまする。よろしくお願いします」
「そこまでおっしゃるなら、私を兄と呼んでもらって結構です」
「父さんよかったね。シゲさんに兄なんて呼ばれた父さんは、この時代のつわものよ。私も誇らしい! じゃ、今夜は私が腕によりをかけた料理とお酒で、お二人のこの時代の門出を祝う、ウエルカムパーティーをしましょう!! イェーイ」
美香の言葉を聞き、秀頼と信繁は、ゆっくりと顔を見合わせる。そしてボソっと信繁がつぶやく。
「ウエルカメパーチーって、カメでも料理されるのでござるか?」
「この時代では、あたりまえなのかもな、シゲさん。でもカメはちょっと」
秀頼はそう言って、ちょっと嫌そうな顔をする。




