あこがれと苦手意識
会議室の話その後です
「い、いやそれは……」
「ぜひ! できるなら!」
「……え?」
レオクリフと、デニスの言葉が被る。真反対の言葉が同時に聞こえてリナニエラは目をしばたかせた。
デニスの方は『召喚獣』という言葉を聞いて、目をキラキラさせているが、対するレオクリフの顔色は悪い。まるで反対の反応をする二人を見て、リナニエラは首を傾げた。
「あの……どうかしました……か?」
「い、いやっ!」
怪訝そうに尋ねれば、レオクリフは顔を引きつらせながら口を開く。目をうろうろと視線をさせるレオクリフは先ほどの話し合いの時に見た凛々しい姿とは違って、どこか落ち着きが無い。リナニエラの問いかけに、レオクリフはビクリと肩を揺らす。そして、何故か何もない空間を見ている。
「?」
意味不明な彼の様子にリナニエラが首を傾げれば、レオクリフとのやり取りを傍らで見ていたデニスが少し落ち着きが無い様子で、リナニエラに視線を向ける。
「それで、オースティン嬢の召喚獣は、フェンリルと、ブラックドラゴンでしたな。ぜひ見せていただきたい!」
先ほどと同じように、興奮した様子で話をするデニスの様子に、リナニエラは若干引き気味に、クリストファーの顔を見た。そうすれば、兄は呆れた顔をしてデニスを見つめている。
「隊長……」
咎めるようにクリストファーがデニスを呼べば、彼は我に返った後をした後、苦笑いを浮かべた。
「すまない。学生時代から召喚獣というやつにあこがれていたんだ。だが、魔力が足りなくてな、魔法科の連中が召喚獣を連れているのが羨ましくてな」
恥ずかしそうに話をするデニスの言葉に、リナニエラは先ほどの自分の言葉に何故彼が食いついたのかを理解する。
『それに、フェンリルとドラゴンだしねえ』
自分の召喚獣を思い浮かべて、リナニエラが生ぬるい顔をする。恐らくデニスは、元々召喚獣に対して憧れの感情があった所に、自分の召喚獣の事を聞いて興奮してしまったのだろう。なんとなく想像がついた。だが……
「先ほどはああ言いましたが、召喚獣を教室に呼び出す事は学園では禁止されているんです」
『だからすみません……』と断りの言葉を続けようとしたのだが、その言葉へ重ねるように、デニスが口を開く。
「では、私が教師の方に話をします! オースティン嬢には迷惑をかけません! ですからっ!」
ガタンと大きな音がして、ぐいと顔を近づけてくるデニスに、リナニエラは咄嗟に距離をとった。素早く距離をとった自分にカインと、レオクリフは少し驚いた顔をする。
「ダメだろうか? オースティン嬢!」
それでも食い下がって来るデニスにどうすれば良いのか分からなくて、リナニエラは助けを求めるように、クリストファーや、レオクリフ、カインに視線を向けた。だが、彼らは困った顔をして、顔を見合わせるだけだ。
「リナニエラ、こうなると団長は話を聞かない……」
ため息まじりに兄の言う言葉は、言外に『諦めろ』と告げるクリストファーの言葉に、リナニエラはため息をついた。これは、もうデニスの言葉に従うしかない。
「……わかりました――」
この後の事を考えると頭が痛くなるが、ここはもう仕方が無いだろう。だが、ここに召喚獣を呼ぶとしても、問題がある。リナニエラの召喚獣はマロ(フェンリル)とトープ(ブラックドラゴン)の二匹だ。
元々どちらも大型な種族だ。フェンリルも成獣になれば、体高はゆうに二メートルを超える。今はまだ子供だが、身体は順調に育っている。先日、演習仲間と一緒に森に入った時は紀州犬ほどの大きさだったのだが、今は更に大きくなって、超大型犬の大きさだ。前世の犬の大きさでいえば、ピレニアン・マウンテンドッグ位の大きさだろう。だが、マロは件の犬とは違って、三角の耳をしていて見た目自体は狼や、日本犬のような姿をしている。
『けど、あの子は大きさを調整する事は出来ないからなあ』
マロを呼び出す事は簡単だ。だが、マロはまだ子供のせいか身体の大きさを調整する事が出来ない。この教室の中にマロを呼び出したら圧迫感もすごいだろう。そうなると……
『呼び出すのはトープだよねえ』
彼はブラックドラゴンではあるが、魔力調整ができる為、体の大きさを調整が出来る。リナニエラの自宅にいる時は小さな姿でいられるから、ここに呼び出しても問題は無いだろう。
「トープ、おいで」
自分の視界の斜め上方向に目をやった後、リナニエラは手をあげると自分の召喚獣の名前を呼ぶ。そうすれば、一拍の間の後、何もない空間に黒い小さなドラゴンが姿を現した。
「ギュイ『主』」
小さく鳴いてトープは羽を動かしながらトープは嬉しそうな声を上げてリナニエラの元までやって来ると肩に止まると嬉しそうに顔を擦り付けてきた。甘えるトープに、リナニエラは笑顔を見せて顔をすり合わせれば、周囲の兵士から声が上がった。
「っ!」
近くにいたレオクリフがビクリと肩を揺らすのを横目に見ながら、リナニエラはトープの頭を撫でる。暫くそうやって撫でていれば、今までの自分達の様子を見ていたデニスがキラキラとした顔をして、こちらを見つめていた。
呆れた顔をして、クリストファーがデニスを見て呟く。その声が届いたのだろうか、リナニエラに甘えていたトープが顔を上げた。
「ギュイ!」
声を上げるのと同時に、トープが肩から飛び上がる。そして、羽をはばたかせながらクリストファーも方向へと飛んでいく。そして、何を思ったのかクリストファーの頭の上へと飛び降りた。
「わっ!」
クリストファーの頭の上に飛び降りたトープは何を思ったのか、クリストファーの頭の上で足を踏みしめる。そのせいでクリストファーの前髪はぐしゃぐしゃになっていく。
「あ、こら!」
慌てた声を上げるクリストファーは何とかトープを振り払おうとするが、何故かトープは彼の頭の上から退く事は無い。その間もトープはクリストファーの髪の毛を蹴散らしていく。そして、トープが満足して、クリストファーの頭から退いた時には、彼の髪の毛はぐしゃぐしゃになっていた。
「なんで最近、トープは髪の毛をぐしゃぐしゃにしてくるんだ」
乱れた髪の毛を整えながら、クリストファーが文句を口すれば、リナニエラは生ぬるい顔をする。そうなのだ。ここ最近トープはクリストファーの髪の毛をくしゃくしゃにするのだ。どうやら、彼にとっては、親愛の情だと思うのだが、クリストファーにしてみれば、迷惑極まりないだろう。
「――おそらくは親愛の証ですわ」
「えぇぇぇ」
自分の言葉を聞いて、クリストファーは情けない顔をした。暫く足を踏みしめて気が済んだのか、トープはクリストファーの頭の上から、再びリナニエラの肩の上へと戻った。その様子を、デニスはじっと見ている。レオクリフはどこかびくびくした様子だ。
「トープ、挨拶して」
そう言えば、トープはデニスとレオクリフの顔を見て『キュイ』と声を上げると、首を傾げた。どうやら、身体の小さな自分を意識してかわいらしさを強調するつもりのようだ。その様子にデニスは顔を崩し、レオクリフは『ヒッ』と小さな声を上げる。その声を耳にして、リナニエラは一つの可能性に当たる。
「先輩はもしかして、召喚獣が苦手なのです……か?」
思い当たった言葉を口にすれば、レオクリフはビクリと肩を揺らす。そう言えば、魔法科の人間は召喚獣を持っているのに、彼にはその気配が無いのだ。そこから思い至ったのだが、どうやら図星だったようだ。ちらりと顔を見れば、彼は少しバツが悪い顔をして顔を逸らした。
「……すまない、実は――父には召喚獣がいるのだが、幼い頃にからかわれた事があってから召喚獣が苦手に――」
ぼそぼそと話をする言葉聞いてリナニエラは納得した顔をした。どうやら、彼自身は幼い頃からずっと召喚獣と一緒にいたようだが、どうやら子供扱いされたりからかわれたりしていたようだ。
『まあ、そんな事もあるか……』
そんな事を考えながら、リナニエラはそっとトープから目を逸らすレオクリフを見つめながら、生ぬるく笑みを漏らした。
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