ダメと言われたらやりたくなる病
教師が出て行ってからの教室の中の様子です
上官ががんばっています
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バタバタと足音が遠くなっていくのを、教壇に立つ騎士団の上官は無言で聞いていた。そして、それが完全に聞こえなくなった所で、一つ息を吐く。その吐息に一体どんな意味が込められているのだろうか、リナニエラには想像がつかなかった。
「――、さて、邪魔者がいなくなった所で、本題の演習の事に入ろうと思う」
『邪魔者』という単語を聞いて、生徒からも、騎士団の面々からも笑い声が上がった。どうやら、今までのやり取りを見て、おおよそどちらの面々も、厄介事を押し付けているのはどちらだか理解していたようだ。少し緩んだ空気を感じながらリナニエラはそんな事を考えた。そんな様子を上官は笑って見つめた後、表情を真顔に戻した。
「先ほどの話の通り、演習の場所は例年演習を行われている森の近くにある平原になる。だが、危険なのは変わりがない。なにせすぐ近くに暴走する事が確定している森があるのだからね」
そう説明した後、上官は先ほど黒板へとはりつけた地図を指さした。
「この草原の中は、安全な獣が出現する事がほとんどで魔獣が出る事は少ない。駆け出しの冒険者が採取クエストなども行っている場所だ。今までの演習よりも余程安全だと考えられるだろう。だが……」
「今の状況ではいつ危険になるかはわからない……と」
上官の言葉を繋げるように、レオクリフが呟く。しんとした教室の中に、二人の言葉は響いた。
「ああ、そうだ」
しんとした教室の中、上官が肯定するように返事をする。
「正直、何が原因で魔物が暴走するかが分からない状態だ。その為、我々騎士団は森と平原の縁に展開する事になる。君達には、生徒が森に入らないように注意して欲しい。そして、有事の時には生徒を率先して誘導して欲しい」
上官の言葉は、はっきりとした口調で教室の中に響いた。上官の言葉を聞いて、生徒達も今の状況がどれだけまずいかを察したのだろう。張りつめた空気が室内に満たされていくのが分かる。
「冒険者の資格を有している君らには負担をかけるが、よろしく頼む……」
そう言うと、上官は一呼吸を置いた後、頭を下げた。いきなり騎士団の上官に頭を下げられた生徒達は戸惑ったように顔を見合わせる。戸惑った空気が流れていく中、リナニエラは一つ息を吐いた。
「少しいいですか?」
「何だ」
手をあげながら発言すれば、上官が視線を向けた。
「リナニエラ?」
隣に腰掛けていたクリストファーが戸惑った声を上げるのを無視して、リナニエラは立ち上がる。
「説明の途中ですみません。私たちが、生徒が森に入らないように注意するのは分かりました。通常の草原であれば、駆け出しの冒険者でも比較的安全な場所でしょう。ですが、子供の好奇心は『ダメだ』と言われれば、逆に行きたくなるものです。間違いなく意図的に森に向かおうとするものがいるでしょう。状況が分かっていない人間ならなおさらです。幸か不幸か、今回の演習ではそういった考えをする生徒もいるようですし……」
リナニエラの言葉に、教室内の空気は『ああ』というような空気が流れた。恐らく、リナニエラが話をしている対象の顔が浮かんだのだろう。教室内の人間の瞳が生ぬるくなったのを見た後、リナニエラは苦笑いをした。そして、再び上官へと目を向ける。
「まず間違いなく、森に入る生徒は存在します。『ダメだ』と言えば余計に行きたくなる人間がいる。ましてや、理由を知ってしまえば、自分の力を過信している者なら禁じられているとはいえ、森の中へ入ろうとするでしょう。それが、他の人を危険に晒す事があります」
「確かに、その通りだな」
リナニエラの言葉に、上官は納得するように頷いた。この教室にいる人間の頭の中には、一人の人物の顔が頭に浮かんでいるのだろう。皆の顔が渋い物にになった。
「自分達や、騎士団の方々が注意していても必ずそのラインを突破する生徒が現れます。その時に、私たちと騎士団の方の連絡が直ぐに取れるようにしたいのです。騎士団の方が連絡を取る方法は一体どんなものですか?」
「え? あ、我々の?」
いきなり問いかけられて、上官は目をしばたかせる。そして、腕組みをしたまま、首を傾げた。
「我々が遠征や討伐に出た時の連絡は、もっぱら伝達や、狼煙だな……、後は魔法か――。だが、緊急性が高い時に、狼煙や伝達は現実的では無い――。魔法を使って飽和寸前の森のバランスを崩して、魔物の暴走を助長させる事は現実的では無い――か」
難しい顔をして、上官が言葉を口にする。
「何か、状況を変えずに、連絡を取る事が出来る魔道具のような物があれば――」
ぶつぶつと話をする上官の言葉だけがしんとした教室の中に響く。その言葉を聞きながらリナニエラは『ふむ』と考え込んだ。
確かに飽和状態の森へ魔法をぶち込む事になれば、魔物の暴走が起きてもおかしくない。森に刺激を与えないように、素早く連絡が取れる方法があれば良いのだが。
『スマホや、無線みたいな物があれば良いのに——』
前世の記憶の中に残っている連絡方法を思い出して、リナニエラは考えた。ここはゲームの世界に非常によく似た世界だ。その為、前世と被る物もあるが、リナニエラの記憶ではスマホや無線のような物があった記憶が無い。やはりその辺りは仕方ないのだろうか――。
「あ」
そんな時、ずっと黙り込んでいたレオクリフが何かを思い出したように声を上げた。
「何だ?」
レオクリフの言葉に反応した上官が声をかけてくる。彼は難しい顔をしながら口を開く。
「あの……、少しよろしいでしょうか?」
さっきまでの自信がありそうな様子とは打って変わって、自信がなさそうな顔をしながら、手をあげた。
「君は……」
レオクリフの顔を見て、上官が首を傾げるのを見てレオクリフは少し背筋を伸ばした後、口を開いた。
「レオクリフ・カルヴェといいます。父は魔術師団の団長をしています」
「ああ、カルヴェ伯爵の……」
レオクリフの名前を聞いて上官は『ああ』といった顔をする。どうやら、彼の父親を知っているらしい。教室内の視線が集中する中、レオクリフは少し面食らった顔をしながら周囲を見回した後口を開く。
「あの……、父からの話を聞いただけなのではっきりとした情報では無いのですが、その……、魔法部の方で魔道具を今開発しているのですが、確かそれが通信の魔道具だったと……」
自信が無いのだろうか、最後は尻すぼみになっていく。だが、レオクリフの言葉を聞いた直後、上官の目の色が変わった。
「本当か?!」
「は、はい」
ほとんど食い気味に尋ねてくる上官の言葉に押されてレオクリフは返事をする。それを聞いてうなずいた上官は、席に座っている一人の兵士に目配せをした。その視線の意味を察して、席を立つ。
「これで、通信の魔道具が手に入ればかなり状況が変わる」
そう言ってにやりと笑う上官の顔は、やけに悪い顔をしていた。
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