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アルビトリウム  作者: 新条満留
第六章 旅立ち
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伏兵

伏兵


 七百人の派遣軍が『千眼せんげん峡谷』に入る前に、マモルはソール隊を率いて崖の上から部隊の通ろうとする谷間を偵察することにした。そこは大人が並んで十人ほどがやっと通れるほどの谷間の道だった。崖の高さはその上に人が立っても黒い塊にしか見えないほど高く、そこから岩石でも落とされたら下にいる人間は原形を留めないほど圧し潰されだろう。また挟み撃ちにでも合えば逃げ場を失って全滅する危険性もあった。

 マモルは道の案内役を務める三人の仙獣族の伝令鳥を放ち、周辺に妖獣族の伏兵がいないかを偵察させた。そしてマモルとカオルは崖の上を視察し、残りの六人には谷間の道の確認と罠や伏兵がないかを探索させることにした。

 マモルとカオルは比較的足なだらかな岩場を登り始めた。

 「大丈夫か、カオル?」

 マモルは後ろを見下ろして訊ねた。

 「私のことは気にしないで大丈夫よ! あなたにどこまでも付いて行くわ」

 カオルは手で岩の安定具合を確認しながら答えた。

 「そんな大げさな……」

 マモルはカオルの言葉に不自然なものを感じた。

 「ううん、あなたの足手まといにはなりたくないの! そのために今まで苦しい訓練してきたんだもの」

 カオルは必死に岩場をよじ登っていた。

 「ファル、俺の方は大丈夫だから、カオルに付いていてやってくれ!」

 マモルは彼の肩に座っていたファルに頼んだ。

 「分かったわ!」

 ファルは笑顔で応えると少し下にいるカオルの所に飛んで行った。

 「大丈夫、カオル? 疲れたら言ってね。『インスタウロ』を掛けてあげるわ」

 ファルはカオルの顔の左側をフワフワ飛びながら言った。

 「『インスタウロ』?」

 「ええ、体力を完全回復する魔法よ!」

 ファルは笑顔で言った。

 「前に私に掛けてくれた奴?」

 カオルは笑顔で訊ねた。

 「ええ、一日に何回も使えるわけじゃないけど、私の体力を人に分け与える魔法なの」

 「ありがと、ファル! その時は頼むね」

 カオルは微笑んだ。

 「ええ!」

 ファルも微笑みを返した。

 彼らは無事に崖の上に立つと周囲を見回した。そこには平地が広がり小さな森が散在していた。マモルはその中の一つを睨み付けた。

 「どうしたの、マモル?」

 カオルは不思議そうに訊ねた。

 「何かいる!」

 「何かって何が?」

 「もしかすると伏兵かもしれない!」

 「どうして分かるの?」

 「今、あの森で鳥が一斉に飛び立っただろう?」

 「う、うん…そう言えば、そうかも…」

 「あれは何かに驚いて飛び立ったんだ。それもかなりの数の伏兵だ」

 「凄い! いつの間にそんなこと勉強したの?」

 「軍隊の隊長を務めるには、色々なことを知っておかないと部下を沢山死なせることになる。兵士というのは一人前になるのに十年以上掛かる。それを詰まらないことで失うわけにはいかないんだ。だから俺なりに色々と覚えたのさ」

 「マモル……」

 その時、マモルの言った通りその森から妖獣たちの一団が続々と森から出て来た。

 マモルはグラディウスを鞘から抜き取った。

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