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アルビトリウム  作者: 新条満留
第五章 過去
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未来

未来あす


 カオルはファルの話を聞いてからマモルに会うことができなくなってしまった。彼にすがり付いてしまいそうで怖かった。そんな姿を見られたくなかった。あの戦場で再会した時、もう何の心配もないと思った。二人でずっと一緒に生きていけるんだ。そう思っていた。でもそれが足元から崩れ去ろうとしている。まるで砂で造られた楼閣のように。地面に積もった落ち葉のように。冷たく乾いた風に晒されて吹き飛ばされようとしている。

 ファルはやはりマモルを愛していた。それは自分も何となく感じ取っていた。それでも危機感を抱くほどのことはなかった。マモルの私に対する愛を信じられたからだ。私たちは愛し合っている。誰も入り込むことはできないだろうという安心感を心の片隅に持っていたからだ。

 でも現実はそうではなかった。マモルはステラだったということを忘れていた。ステラは昔の私を愛してないかもしれない。もしかするとファルを愛していたかもしれない。いや、もしかするとハルカかもしれない。

 マモルはステラに近づきつつある。だとしたらステラの記憶を取り戻すかもしれない。その時に私への愛を忘れてしまうかもしれない。

 全てが壊れようとしている。私だけの英雄じゃなかった。私は太陽を愛してしまった。私の手の届かない、誰にも等しく輝きを与え、暖かさで包み込む。自分の物には決してなり得ない太陽を。

 私は暗闇の中でなぎの大海原に浮かぶ小舟の上にいた。周りは硬い地面だと思い込み、どこにでも自由に歩いて行けるんだと勘違いしていたんだ。一度ひとたび太陽が昇ればどこにも行けはしないと分かってしまう。風が吹けば揺れ、波が立てば大きく揺れる。そして下手をすれば転覆してしまう。

 確かなものは私のマモルに対する愛だけ。それだけはどんなことがあろうと動くことはないだろう。仮令たとえマモルの私への愛が失われても、きっとあり続ける。

 でもまだ希望はある。現在いまという時間が私には残されている。そう、何もまだ変わってはいない。変えられてはいない。マモルがステラの記憶を取り戻すとは限らない。飽くまで可能性の問題よ。

 私にできるのは彼の心を確りと私に結び付けて放さないようにすることだけだわ。でも怖い。それがいつ崩れるのか。壊れてしまうのか。考えるだけでも恐ろしい。記憶なんて戻らなくていい。力なんて……

 もしかして、私の力が戻らないのは私自身の責任なの? 私の本能と心の奥底でこうなることを恐れていたからなの? それで記憶も戻らないの? 力も戻らないの?

 マモルと一緒にいるには力がいる。でもそれを取り戻した時、私は代償として今の記憶を失い、片想いだった頃の自分を思い出す。そして不安の中で過ごす。朝から夜眠るまで。そして私は彼と結ばれる淡い夢を見る。目が覚めれば壊れてしまう儚い夢を。

 ハルカは思い出しのだろうか? 彼への想いを。もし彼女の記憶が戻ったら、私と双子だったことも忘れて、私たちは昔のように争い合う。そんな悪夢のような未来は要らない。

 私には現在いましかない。過去も未来も今や敵となった。現在いまを精一杯生きよう。そして未来を塗り替えよう! 私色に染まった未来に!

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