巡る想い
巡る想い
マモルは彼女に笑顔を向けた。
「あ、お久しぶりです! あの時はありがとうございました。あなたが色々と教えてくれたお蔭でこの世界に戻れました!」
「うふふ! 別に改まらなくてもいいわ。私はカオルに頼まれてたことをしただけだから」
ハルカは微笑んだ。そしてファルの方に顔を向けて言った。
「あの時はありがとうございました、ファルさん」
「えっ!?」
ファルは驚いていた。どうして彼女が自分の名前を知っているのか分からなかった。
「驚きましたか? 私がどうしてあなたの名前を知ってのかって?」
マモルにはハルカの目が若干凄みを帯びてるように見えた。
「ええ…まあ…」
ファルは彼女の目を見つめて次の言葉を待った。
「私、聞いてしまったんです。あなたの話を」
ハルカは少し声音を落として言った。
「えっ!? あの話って……」
ファルの顔に不安げな表情が浮かんだ。
「勿論、昨日の夜、河原であなたたちが話していたことです」
ハルカは笑顔で言った。
「……」
ファルは彼女から目を逸らして自分の摘んだ花束を見つめた。
「盗み聞きしてたのか?」
マモルはファルの気持ちを察して口を挟んだ。
「盗み聞きなんて…偶々、そこに居合わせただけよ。あなたも気づいてたんじゃないの? あなたたちの対岸で花を摘んでいた私に?」
「…あれは君だったのか…まさか……だったら姿を見せればよかったじゃないか!」
マモルは怒声を含んだ声で言った。
「最初はちょっと驚かせようと思って、そっと近づいただけだったの。そしたら、ファルさんの様子がおかしかったので、少し様子を見てからにしようと。
それで彼女が話を始めたので、聞いていたら私にも関わる話だったので思わず聞き入ってしまったの。黙って聞いてしまったことは謝ります。ごめんなさい。
でも別にその話の内容について私はこれといって文句があるとか、そういうことではないの。寧ろ、私は感謝したいの。だってあの話で私は自分の過去を知ることができたわ。そして私に不利だった状況が決してそんなことはないんだと思えたんだもの」
ハルカは嬉しそうに言った。
「不利だった状況って…一体…どういう…?」
マモルは不思議そうに訊ねた。
「私はこの世界に戻って程なく、自分の記憶が少しだけ戻ったの」
「どんな…?」
「あなたを好きだったってことよ」
「!! ……」
「私はマテリアにいた時、あなたと初めて会った時に不思議な気持ちになったの。もしかすると私はこの人を好きになるかもしれないって。そして二回目に会った時にそれが正しかったと思った。既にその時、あなたを好きになってしまっていた。でもその時はあなたの心にはカオルしかいないと思っていたから、諦めの気持ちが強かった。でもこの世界に帰ったら記憶が戻ってきて、私はずっと昔からあなたが好きだったんだと思い出したの。 でも私は出遅れてしまっていることも分かった。あなたとカオルの間に入り込む余地はないような気がしていた。
だけどファルさんの話を聞いてたら、あなたと最初に会った時の気持ちの理由が分かってきた。そういうことだったのかと。
つまり私は決して出遅れてるとかそういうことじゃないんだと思えたの。だってカオルよりずっと前にファルさんの方があなたを好きになってたと分かったから。だったら私にもまだ機会はあるかもって思えるようになったの。だってカオルに止められなければ、私はあなたに気持ちを伝えることができた筈だから。つまり昔の私はカオルよりあなたに近い位置にいた。
でも、私が今日ここに来たのは、誰が一番先にあなたを好きになったとか、そんな子供みたいなことを言いに来た訳じゃないの。ただ私だけがあなたに気持ちを伝えられずにいる状況を何とかしたいって思っただけよ。過去はもう取り戻せない。だったら今を変えていくしかないでしょ? カオルもファルさんもあなたに気持ちを伝えている。私だけが伝えられてないなんて酷いじゃない! だから今日はそれをちゃんと伝えに来ました!」
ハルカは真剣な目でそう言った。
「……」
ファルは身動きもせずにずっと花束を見つめていた。
「……」
マモルもハルカの言っていることが間違っているとも言えず困惑していた。
「マモル、いえ……ステラ! 私はあなたが好きです! だから私のことも見て下さい! ……すぐに返事ができないのは分かってます! だってあなたは私のことを何も知らないんだもの。でも結論を出すのは私のことを知ってからにして欲しいの! 私のことを何も知らないままで三人のうちの誰かを選ぶことだけは止めて欲しいの!
本当はこのまま樹海城に戻らず、ここであなたの側にいて私のことを知って欲しいと思ってます。しかしそれは許されません。でもいつか必ずあなたの所に来ます。それまでどうか結論を出さないで欲しいの! 私をもっと知ってから選んで欲しい! その上で駄目なら私も諦めが尽きます。このままでは私の想いは終われません。
どうかお願いします! 私の気持ちも分かって下さい! 色々と一方的に話してしまってすみません。でも、今日のところはお別れです。またお会いしましょう!」
ハルカは頬を赤らめていた。そして深々と頭を下げて、空中に舞い上がり、飛び去って行った。
ファルは彼女が去ってからも暫く哀しそうな目で花束を見つめていた。マモルは彼女の気持ちが分かるような気がした。彼女は誰にも知られたくないことを人に知られてしまった。そして彼女の話を聞かれてしまったことで事態がややこしくなってしまった。それは身の置き所がなくなるような思いだろうと彼は思った。
「ファル、お前が気に病むことはないんだ。これは俺の問題なんだからな」
マモルはそう言うと、ファルの頭を自分の胸に引き寄せた。




