表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルビトリウム  作者: 新条満留
第五章 過去
PR
81/492

告白

告白


 そして今から二十年ほど前、マテリアであなたに話した通りあなたの力を恐れた妖獣皇帝『サムン・マールム』が数十万の大軍で『諸族の城』を襲撃して来た。恐らくこの世界で史上類を見ない程の大きな戦いだった。

 開戦後たった数日で『諸族の城』は陥落の危機に晒されたの。あなたは何十回もの出撃を繰り返し疲れ果てていた。でも城の兵士は全滅寸前で『ポルソアメオ』のメンバー以外に戦える者はいなくなっていた。でもあなたは満身創痍まんしんそういになりながらも単身で最後の突撃を試みた。

 その戦いぶりは凄まじかった。それまでの戦いの中でも最も激しい戦い方だった。驚くことにあなたはたった一人で殆どの敵を全滅寸前まで追い込んでしまった。でもあなたは疲れ果て皇帝の魔力に圧倒されようとしていた。でもそれは皇帝も同じだった。皇帝は恐れをなして『月の扉』を出現させ、あなたをそこに吹き飛ばしてしまった。

 マテリアに落ちると同時に私たちは引き剥がされた。アルビトリウムの契約が解かれた。あなたは全身傷だらけだった。弱り切ってあの『運命の丘』で倒れていた。私の姿は幻霊族の所にいた時の姿に戻っていた。だからあなたを回復させてあげることもできなかった。

 でも私の頭にあることが過ぎった。今なら自分の気持ちをカオルやハルカより先に言えるって。契約が解かれたんだから許されるんじゃないかって。でも弱り切ってるあなたにそんなことは言えなかった。そして私はあなたを回復させるにはどうしたらいいか考えたの。『クラヴィス』を持ってないし帰ることもできない。だからあなたを人間として転生させるしかないと思ったの。私は力を使って急いで胎児を探し、あなたの魂をそこに融合させたの。

 そして私はあなたを見守ることにした。そして私があの砂浜でこれからのことを考えていた時、カオルとハルカが『月の扉』から落ちて来た。彼女らも傷だらけだった。彼女らはあなたを追って自ら『月の扉』に落ちて来たの。私は彼女らにあなたの行方を訊かれた。私は全てを話したわ。そしてハルカが言ったの。

 「この世界では私たちはもう『ポルソアメオ』じゃない! 機会は平等よ。ここで互いの運命を決しましょう!」

 そして驚いたことに彼女らは自分の力を使って、あなたの家の近くに双子の胎児がいることを発見して、そこに自分たちの魂を融合させてしまったの。

 私はあの時、彼女らの話を聞いていたから彼女の言った意味がすぐに分かったわ。私もどうするか迷った。私にも彼女らと平等になる機会が巡ってきたと思った。私にだってそれが許されてもいいんじゃないかって思った。でも私にはできなかった。私がそんな事をしたら彼ら三人を『アルビトリウム』へ帰せる者がいなくなってしまうと思った。そこで私はそれを断念した。そしてこれからのことを考えた。

 マテリアの者たちは、何百年も生きられる私たちとは違って年を取るの早い。だからあなたたちが成長するのを待って、その間に『クラヴィス』を手に入れる方法を考えようと思ったの。私はマテリアの人々から見えないように姿を消して、あなたたち三人を見守り続けた。

 やがて私は気づいた。『ポルソアメオ』であるあなたたちをアルビトリウムの者たちが放っておく訳がないって。『五族評議会』が『月の案内人』に命じて彼らを迎えに来る可能性は高いと思った。私はひたすら待ったわ。彼女が来るのを。

 そして六年の歳月が経って、あの砂浜でいつものように『月の案内人』を待っていると、偶然桜木姉妹が遊びに来た。彼女らがいつまでも遊んでいるので誰かに襲われはしないかと心配して見張っていると、遂に『月の案内人』がやって来た。その時の嬉しさは言葉に表せない程だった。そして彼女は桜木姉妹に『クラヴィス』を二つ残していった。彼女らは怖がっていて『クラヴィス』を拾うと急いで帰ってしまった。

 私は『月の案内人』がその内に私の存在を感知するだろうと思った。そしたら彼女はすぐにそこに戻って来た。彼女は私に『クラヴィス』を渡すとシンジ君の行方を訊ねた。私は彼もマテリアに落ちていたとは知らなかった。

 彼女に事情を聞くと、彼はカオルとハルカを追って自ら『月の扉』に落ちたということだった。でも彼は落ちた場所がずれてしまったみたいだった。そして彼女は彼を探しに去って行った。

 その後、私は時が来るのを待った。

 成長していくあなたたちは、徐々に『アルビトリウム』の姿を取り戻していった。それを見ているだけで嬉しくなったわ。

 でも十年後、私にとって衝撃的なことが起こった。それはあなたがカオルと付き合い始めたことよ。異世界で生まれ変わっても『アルビトリウム』の者同士は惹かれ合うの。でもまさか愛し合ってしまうなんて思ってもみなかった。

 正直に言うわ。私はその時に嫉妬で身を焦がしたわ。そして後悔した。私も人間に生まれ変われば良かったって。あなたに幻霊ではない私を見て欲しいと思った。

 でも一番可愛そうなのはハルカだわ。彼女はあなたとは違う高校に行っていて、マテリアでは知り合うことすらできなかった。あの手紙を渡した時にあなたと初めて出会って、その記憶を持ってこの世界にいるんだもの。

 私はあなたに『クラヴィス』を渡そうと思ったけど、カオルとハルカがどうするつもりなのかを確認することにした。カオルはあの『クラヴィス』を大切にしていて、あの場所に行く決心をしていた。でもハルカの『クラヴィス』もカオルが持っていた。それをカオルがどうるするつもりなのかが分からなかった。でも十年目のあの日が近づくと、カオルがハルカに手紙とクラヴィスを渡す用意をしているのが分かった。でもカオルはハルカと一緒に帰るつもりはないということも分かった。私はその年にあなたと帰るのを諦めることにしたの。ハルカが帰るつもりがないように思えたから。そして私はカオルが帰るのを見届けた。

 その後すぐ私はハルカの前に姿を見せたの。彼女は驚いていたわ。当然よね、全然知らない人が突然現れて誰も知る筈のないことを話すんだもの。私は彼女を脅してしまった。

 「あなたが『クラヴィス』を持って、その日にあの場所に行かなければ、あなたは死ぬことになる」

 そうでも言わなければハルカは次の年もそこに行かないだろうと思えたからよ。私はあなたに『クラヴィス』をどうやって渡そうかと考えた。でも私はカオルがいなくなってからのあなたに衝撃を受けた。

 カオルが死んだと思い込んで、悲しみ打ちひしがれてる英雄の姿。私が初めて『諸族の城』であなたを見た時とはまるで違ってしまっていた。私の心を魅了した勇姿の欠片もなくなっていた。数え切れない妖獣王を倒してきた私の英雄。あなたを悲しみのどん底に陥れたのは恐ろしい妖獣王なんかじゃない。たった一人の女性。あなたの心にはカオルしかいなかった。本当なら私がカオルようになれたかもしれない。そう考えて心が壊れていまいそうだった。激しい後悔の念が私の心を掻き乱した。あなたを恨んだわ。そんなに彼女を愛していたなんて。

 そして十一年目の夏が来た。私はハルカが帰るつもりになっているのが分かっていた。だからその気になればあなたも彼女と一緒に帰すこともできた。だけど私はそれをしなかった。いえ、出来なかった。あなたが『アルビトリウム』に帰ればカオルと会うことになると分かっていたから。私はあなたを彼女に会わせたくなかった。私にもあなたと二人だけで過ごす機会があってもいいんじゃないかと思ってたの。だからせめて一年だけでいいからあなたと二人だけで平穏の中で過ごしたいと思った。

 そしてハルカは帰って行った。悪いことをしてるのは分かってた。『アルビトリウム』の皆があなたを待っている筈だった。でも私は自分の望みを優先させてしまったの。私はあなたを見ているだけで幸せだったわ。本当にこんな幸せなことはないって思ってたのよ。契約に縛られない二人だけの時間。そう思うだけでも幸せだったわ。だけど一年はあっと言う間だった。その後のことはあなたも知っている通りよ。

 

 ファルの話は終わった。そして彼女は涙に濡れた目でマモルに告白した。


 『私はあなたのことが今でも好き! 大好きなのよ!!』


 ファルは両手で顔を覆うと声を上げて泣いていた。


 二人を月明かりの薄い暗闇が覆っていた。空には星々が煌めき虫たちの鳴き声が静かに音楽のように響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ