騒心
騒心
エルフ族の野営地を出たハルカは人族の地を散策してみようと思っていた。そして思慕川の河原で花を摘んで楽しんでいた。
「人族の地もエルフ族の地に負けないくらい綺麗ね。ここにマモルと一緒に来れたらどんなに楽しいだろう。」
ハルカはそんなことを思った。彼女はふと川の対岸に男性らしき人影が河原に座っているのに気づいた。隣りでは女性が自分と同じように花摘みをしていた。彼女は力を使って彼らを見た。エルフ族の目は遠くの物を拡大して見ることができる。
「あれはマモルじゃない!! わぁ、こんな所で会えるなんて奇跡だわ! でも隣りの女性は誰かしら? 凄く綺麗な人ね…でもどこかで見たことがあるような……うーん…思い出せない…とにかく、近くに行って彼を驚かせてやろう!」
ハルカはそう思って空高く飛び上がった。クリアフェザーは羽ばたく音がしない。だから気づかれずに彼らの後ろにある大きな木の葉の茂みに身を隠すことができた。
「ウフフ! 全然気づいていないわ。よく見ると女性の背中に翼があるわね。クリアフェザーとは違う透明な光の羽ね。エルフ族の支族かしら…? 少し様子を見てみよう」
ハルカはそう思って彼らの様子を窺った。すると何か女性が深刻な表情をして話し始めた……
カオルはその日の訓練を終えてマモルの邸に遊びに行った。
「留守か…こんな時間にどこに行ったのかしら? せっかく晩御飯作って上げようと思ってたのに…少し捜しに行ってみよう!」
彼女は城塞区の衛兵にマモルのことを訊ねた。するとエルフ族の野営地に行ったということだった。だがそこで彼を発見することはできなかった。彼女は彼が行きそうな場所を捜し回った。そして彼とちょっと前に来たことのある思慕川の河原で彼の姿を発見した。しかし彼の隣りに女性がいるようなので、遠回りをして木陰や草叢に身を隠しながら音を立てないように彼らに近づいて行った。ちょうど彼らの背後にある大木の幹に姿を見せないようにして近づくことができた。
「ふふ! 後ろから驚かすのも面白いかもね……でも彼女は誰かしら? うん? …凄く綺麗な人ね……ちょっと、あれってファルじゃないの!? 彼女って人にもなれるの? 知らなかった…マモルの奴、私にそんなこと一言も……彼女、深刻そうな顔をして、一体どうしたのかしら? …少し様子を窺ってみよう」
カオルはそう思って幹に身体を隠して半分だけ顔を出して彼らの様子を窺った。
カオルとハルカは偶然にも同じ大木の上と下に隠れて、ファルの話を聞くことになった。そして彼女の話に聞き耳を立てて、彼女の秘密を知ることになってしまった。その上、彼女らの覚えていない自分たちの過去までも。
彼女らはファルの話が進むに連れて嵐のように様々な思いが心の中を過ぎっていき、途中で何度も叫び声を上げそうになった。明らかになる覚えていない彼女らの過去、そしてファルの切ない胸の内、次々と知らなかった情報が耳に飛び込む度に心が騒めく。
一番衝撃を受けていたのはカオルだった。自分だけのものと思っていたマモルが意外な過去の渦の中に飲み込まれ、遠い存在になって行くのを感じた。彼女の目からはいつの間にか涙が溢れ出し頬を伝っていった。彼女は何度も口に手を当て、その場に頽れそうになった。




