秘密
秘密
「何か…あったのか?」
マモルは只ならないファルの様子に戸惑った。
「これから言うことは、あなたを混乱させることになるかもしれない。ショックを与えるかもしれない。そして、私のことを嫌いになるかもしれない。でも私ももう限界なの。だから本当のことを教えてあげる」
話はずっと昔まで遡るわ。私もどれくらい前なのか覚えてないくらい遥か昔のことよ。
私たち幻霊族はアルビトリウムのずっと東の果てにある島に住んでいる種族なの。私たちは自分の契約の相手が見つかるまでは、あなたたちと同じように自由に生活しているの。幻霊族の地から他種族の地はあまりにも離れているために、船で海を渡るととても時間が掛かってしまうの。でも、契約の相手が見つかった時に通る『時の扉』という『諸族の城』に通じている通路を通ると一瞬で往き来できるのよ。でもそれを通ることが許されるのはその主が見つかり契約を交わす時だけ。
だけど私は他の世界を見たくて内緒でその扉を通って『諸族の城』に遊びに来たことがあるの。私たち幻霊族は契約を交わすまでは、姿形はあなたたち人間と殆ど変わらないために城の中を歩いていても怪しまれることはなかった。私も他の世界を見ることができたら、すぐに帰るつもりだった。あなたに会うまでは。
その頃既にあなたは『諸族の城』で有名な戦士だった。私はあなたが『テネレ』の称号を戴くのは時間の問題だという噂を耳にしたの。私はあなたがどんな人なのか見てみたくなった。城中を捜し回って、漸くあなたを見つけたの。そして、あなたの後を密かに付いて行った。その時はただ興味本位だったの。
でも偶々(たまたま)その時に妖獣族の群れが城に襲来してきたの。私はあなたの戦いを見てから帰ることにした。私は城壁の上に登ってあなたを見ていたら、あなたは一人でで敵に突撃して行った。とても驚いたわ。敵は強力な妖獣王が率いる数万にも及ぶ大軍だったの。それをほんの僅かな時間で全滅させてしまった。その時、私は自分の目を疑ったわ。そんな強い人がいるなんて信じられなかった。
でも、もうそれ以上は城に留まることができなくて仕方なく帰ることにした。でも帰ってから、ずっとあなたのことが頭から離れなかった。その時はまだ自分の気持ちに気づいてなかった。
それから少し経ってから幻霊族に報せが届いた。数十年ぶりに『テネレ』の称号を与えられる兵士がいると。幻霊族の長は契約者を募った。私にはそれがあなただとすぐに分かった。だから私は迷わずそれに応募したわ。そして私は合格して再び『諸族の城』に行くことになった。私が思った通り契約者はあなただった。私は嬉しくて有頂天になった。あなたを守護できることに誇りを感じていた。そして契約してから間もなくあなたは私にこう言ったの。
『そんなに一生懸命にならなくてもいい。お互い仲良く楽しくやっていこう』
私は嬉しかった。その時、私は義務感ではない別の感情を感じていたんだって思ったわ。でもそれが『恋』という感情だとは知らなかった。
その後、次第に妖獣族の活動が活発になり始めて脅威になっていった。諸族の間にも争いごとが増えてきたために『ポルソアメオ』が結成されることになった。あなたはその組織の隊長に任命された。そして隊員には今のカオル、ハルカ、そしてシンジ君も入っていた。
「ええっ! シンジもメンバーだったのか!?」
マモルは思わず大声を上げた。
ええ。シンジ君はエルフ族の中でも間違いなく最強の射族だったわ!
『ポルソアメオ』は全部で七人の小隊編成だった。隊員たちの結束は固く、戦闘で敵う者など誰もいなかった。その中でもあなたは次元の違う強さを誇っていた。
私は幸せだった。あなたと共にいられることがこの上なく嬉しかった。共に戦い、共に悩んで、共に悲しみ、そして楽しみも分かち合った。
そんなある日のこと、私は自分の感情が何だったのか自覚させられることになった。
その日『ポルソアメオ』は妖獣族の大軍と戦って誰もが疲れ切っていた。食事も済ませて、もう後はお風呂に入って寝る準備をするだけだった。
「今日は疲れたよ。いつものやつ頼むよ、ファル」
「はいはい! 仰る通りに致しますよ、ご主人様」
「どうしたんだ、ファル? 何か言いたいことでもあるのか?」
「いいえ、たまにはお風呂でも入ったらどうですか?」
「お前に浄化されると心が安らぐ、それに凄く気持ちいいんだ。時間の節約もできるしな」
「私は便利な道具じゃないんだからね」
「道具なんて思ってないさ。俺とお前は一心同体。お前なしの生活なんて考えられないよ」
「そ、そんな言葉に…誤魔化されませんよーだ」
「本当のことだよ」
「ほ、ほら、もう巫山戯てないで立ち上がって下さいな!」
「はいはい! ――ああ、気持ちよかったぁ! ありがとな、ファル。さて、もう寝るかな」
そう言ってあなたはベッドで横になるとすぐに寝入ってしまった。
「まったく、困ったご主人様ね!」
私はいつものようにあなたの胸の上で横になった。
その時、大きな話し声が聞こえてきた。私が廊下に出てみるとカオルとハルカの部屋から聞こえてきた。彼女らは少し興奮気味に大きな声を出していた。
最初にハルカの大きな声が聞こえてきた。
「どうして好きって言っちゃ駄目なの!?」
「当たり前じゃない! ポルソアメオの掟を忘れちゃったの!?」
「個人的感情で任務に支障をきたしてはならない、って!?」
「そうよ! もしそんなこと言って結束がおかしくなったらどうするのよ!?」
「そんなことにはならないわ! ステラは強い人だもの!」
「ステラの性格知ってるでしょ!? 彼があなたのことをどう思ってるかは分からないけど、彼のことだからメンバーの結束を第一に考えて悩むことになるわよ!」
「あなた都合のいいこと言っても、私は分かってるんだからね!」
「な、何のことよ!?」
「あなたもステラを好きだってことがよ!!」
「そ、そのことはこの件に関係ないでしょ!」
「関係あるわ! 私はあなたに先を越されたくないだけ!」
「私は言うつもりはないわよ! ステラが困ることになるもの!」
「じゃあ、いつになったら言うつもりなのよ!?」
「それは言っても大丈夫だと思った時よ……」
「大丈夫な時っていつよ!?」
「それは『ポルソアメオ』のメンバーでなくなった時…じゃないの…」
「じゃあ、約束して! それまでは絶対に言わないって!」
「分かったわ、絶対に言わない! これでいい?」
「いいわ、じゃあ私もそれまで言わない」
私は慌てて部屋に戻った。心臓が高鳴っていた。私は自分の気持ちが変なことに気づいたの。それまでに感じたこともない感情だった。それから少し考えてそれが何なのか気づいた。それが『嫉妬』だと言うことに。
ファルはそこで一旦話を切った。マモルは何も言えなかった。彼は自分で覚えてない昔の話が自分に直接関係してるというのは妙な感じだった。
ファルは哀しい目をしていた。そして再び話し始めた――




