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アルビトリウム  作者: 新条満留
第五章 過去
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気づき

気づき


 マモルはシンジと別れると、ハルカを探しながらエルフ族の野営地を離れた。到頭、彼女を見つけることはできなかった。彼は城に帰る前に思慕川の河原で少し休憩を取ることにした。河原には沢山の綺麗な花が咲いていた。彼はシンジとも再会でき、この世界に来て本当に良かったと思った。河原に座って寛いでいると対岸に女性らしき人影が見えた。彼女が花を摘んでるように彼には見えた。

 ファルは人間の姿になって、彼の隣りで花を摘み始めた。

 「こうやって見ると、天使みたいだな。シンジの言う通りだ。ファルは俺には勿体もったいない気がするな」

 マモルは素直にそう思った。

 「ねぇ、このお花良い香りがするわ。ほら!」

 ファルは嬉しそうにその花を彼の鼻に近づけた。

 「ホントだ! …なあ、ファル、少し訊きたいことあるんだけどさ」

 「何を?」

 ファルは摘んだ白い花の香りを嗅ぎながら言った。

 「お前、マテリアにいた時に俺に言ってたことあるだろ? 


 〈『クラヴィス』の力で帰すことができるのは一人だけ。それはこの世界に十年間置かれても、その力が働くのはこの世界にそれが来た同じ日だけ。あなたの『クラヴィス』は香のそれと同じ日に来たから、彼女と同じ日に同じ場所に来てくれれば『アルビトリウム』に帰れます。その時に私もあなたと一緒に帰ります〉


 確かそんなを?」

 「ええ……」

 ファルはマモルに背中を向けた。

 「さっきシンジの話を聞いてて思ったんだけど、シンジの場合は『月の案内人』が部屋に来たって言ってた。あいつはマテリアにいた時『クラヴィス』が自分の知らない内に部屋に置かれていたって言ってたんだ。ということは『月の案内人』は自分が『クラヴィス』を置いた場所からこの世界に連れて行くってことだろ?」

 マモルは彼女の後ろ姿を見つめた。

 「うん……」

 ファルは力なく答えた。

 「最近気づいたんだけど、俺は自分の『クラヴィス』に十一個の石が埋め込まれていたのも確認してた。お前の言葉からも俺の『クラヴィス』はカオルたちと同じ日に同じ場所に来たってことになるよな? 

 俺はあの時、混乱してたんで気づかなかったけど、俺は最初『クラヴィス』はカオル、ハルカ、そして俺に渡ってきたと思ってたけど、俺の『クラヴィス』は最初から俺の物だったってことになるから、そして『月の案内人』が来るのはそれが置かれた場所に来るとしたら、お前はカオルたちが『月の案内人』から『クラヴィス』を受け取った同じ場所にいたんじゃないのか? そして俺はカオルと一緒にこっちの世界に来ることもできたんじゃないのか? そんな風に思えるんだけど…」

 マモルは川の対岸を見たがさっきの人影がいなくなっていた。ファルは暫く何も言わず花を摘む手も止まっていた。そして彼が再びファルの方に顔を向けると、彼女は彼を真剣な目で見つめていた。

 「ふぅ…そこに気が付いちゃったのね…気が付かなくても良かったのに……」

 ファルの目には涙が浮かんでいた。

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