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アルビトリウム  作者: 新条満留
第四章 愛戦士
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赤光の戦士

赤光の戦士


 「ハア、ハア、ハア…もう無理だ……」

 シンジは撃ち疲れて息を切らしていた。

 「もう、頼りにならないのね!」

 ハルカはむくれてそっぽを向いた。

 「そんなこと言っても……」

 シンジは肩を落として疲労困憊ひろうこんぱいの様子だった。

 「ねえ、ちょっとあれを見て、森の中! 何かしら?」

 ハルカが遠くを指差して言った。

 「はあ? 何だ、あれは……!?」

 シンジは目を丸くして彼女が指差した方を手庇てびさしを作って眺めた。

 森の遠くで赤く光る物が物凄い速さでこっちに向かって近づいて来ていた。


 地上では連合軍の兵士たちが攻撃を続けていたが、既に何体かのブルキングが本隊に取り付き彼らに襲い掛かっていた。それでも彼らはひるまずに襲い掛かって来た敵やまだ続々と森から出てくる敵に向かって攻撃を続けていた。上空にいる精霊たちも攻撃に参加したり、地上の部隊に回復魔法や支援魔法を送って被害が拡大するのを防いでいた。

 導師テオも戦闘に参加し始めていた。彼はかつて剣戦士だった。腰の剣を抜き放って味方の兵士たちを殺し回っているブルキングと戦っていた。彼の剣は敵の硬い身体を物ともせず一撃で倒していた。

 森から出て来る敵の様子がおかしかった。何かから逃げているように森を出ると四散し始めていた。テオはいち早くそれに気づき、本隊に突入して来た敵と戦いながらも、時折森の方の様子を窺った。森から本隊までの間は既に敵が列をなしていて隙間なく埋まっていた。だが森の近くにいる敵は本隊の方ではなく左右に分散し始めて逃げ惑っているように彼には見えた。森の中で木々の間から赤い光が漏れているのが分かった。彼はそれが新手の敵ではないかと危ぶんだ。

 やがてその光が突然激しさを増して森から出て来た。同時に森の近くにいた敵たちが何体も宙に吹き飛ばされた。光は進路にいる敵を吹き飛ばし、時々激しい炎を放ちながら本隊に向かって近づいて来ていた。彼はその赤い光の正体が人の発するものだと段々と分かり始めた。光は右に左に炎を放ちながら敵をその炎の中に包み込み消失させて行った。彼の後ろにもう敵はいなかった。逃げ失せたか、焼かれて掻き消されてしまっていた。彼の目にもその炎の正体が剣だと判別できる位置に光の人が近くまで来ていた。その光が彼の前で急に動きを止めた。既にブルキングはいなくなっていた。本隊に突入していた敵も既に兵士たちの餌食にされていた。

 その赤い光に包み込まれた人が誰なのか誰にも分からなかった。敵ではないと分かったが、味方と言っていいのかどうか誰も判断できずにいた。そして誰もが今では事態の推移を見守ろうとして動くのを忘れていた。

 暫く沈黙が続いた後、光が徐々に薄くなり姿がはっきりし始めてようやく皆が安心した。それはマモルだった。だが様子がおかしかった。光は段々と消えていったが真っ赤な髪は逆だったままで目は真っ赤な怪しい光を放ち瞳も見えなかった。そして微動だにせず、剣を斜め下に構えてただそこに立っていた。

 その時、森の中から六人の兵士が本隊に向かって走って来るのが見えた。誰もが彼らの方に視線を向けた。そしてそれがカオルの捜索に向かったソール隊だと分かって皆が安心した。マモルの傍に幻霊のファルが現れ彼を心配そうに見つめていた。

 「ハア、ハア、ハア……まったく……突然敵を追い駆け始めるんだもんな……」

 ソール隊の副隊長ウヌスが息を切らして、マモルの所にヘトヘトになりながら歩み寄った。

 「お前たち、どうしてこんな所に!?」

 導師テオは驚いて訊ねた。

 「いや、それが…隊長と一緒にカオルを探して森に入ったんですが、さっきの敵の大軍が森の中を走っているのを発見したんです。隊長はカオルがそいつらにさらわれたに違いないっていい出して、急に『ソルジャー』に変貌して追い駆け始めたんです。隊長を放っておくわけにもいかないから、俺たちも慌てて追い駆けたんですが速いの何のって、俺たちの足じゃとても追い付けなくて、差はどんどん広がるし見失うしで何とか敵の足跡を辿ってここに来たという訳です…フゥ……」

 ウヌスは説明した。他の隊員たちも疲れ切った様子でヨタヨタと近づいて来た。

 「皆、ご苦労だった! それでこのマモルはどうしたんじゃ? ずっと動かないままだが……?」

 テオはマモルを見つめながら訊ねた。

 「ああ、前もそうだったんですが、一度ソルジャーになるとなかなか戻らないんですよ。もう少しで戻ると思うんですけど……」

 ウヌスがマモルを見ながら説明した。

 少し経つとマモルの髪が元の赤みを帯びたような黒髪に戻り、目の光も次第に消えていった。

 「フゥ……すみません、テオ様…ようやく戻れました。まだ力の使い方に慣れてなくて…」

 マモルは申し訳なさそうに言った。

 「お…おお、いいんじゃ、いいんじゃ、お前のお蔭で助かった! 本当にいいところに来てくれた。ところで、お前に頼みたいことがあるんじゃがのぅ」

 導師テオはそう言ってマモルに微笑みを向けた。

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