エルフ族の二人
エルフ族の二人
導師テオには迷っている暇はなかった。斥候の報告によれば敵の別働隊はブルキング族だという。恐らく戦況が不利なのを見て妖獣王バンロウが本隊を割いて差し向けたに違いないとテオは思った。
そこで彼は本隊を各種族ごとに半分に分け、それを左翼正面に向けて配置させるように命じた。二千弱のエルフ族の精霊には空中から、合わせて四千弱いる魔道士と人型には地上から、敵の別働隊を迎え撃つ構えを取った。
「どの道、物理攻撃に強いブルキングが相手では魔法攻撃の方が効果的だ。心配なのは敵の本隊に突撃し始めている騎乗隊の方だ。本隊の魔法攻撃の支援がなければ全滅する恐れもある。ここで本隊が足止めを食らうことになるとは大きな痛手だ。早く別働隊を叩かなければ戦局に大きく影響する。しかし、もし敵の別働隊の接近を許せば本隊が全滅しかねない。ここは一か八かの賭けになるな」
導師テオはそう思った。本隊の左翼前方には大きな森が広がっているのを見て、彼はさらにこう考えた。
「あの森から敵の別働隊が出て来たところで一斉に魔法を撃ち込めば、恐らく先鋒がやられたことで敵の進撃速度も鈍るだろう。そこで続けざまに後続部隊を叩いていけば何とか敵の出鼻を挫くことができる。問題は攻撃速度だ。魔道士、人型、そして精霊も次の魔法を繰り出すまでに詠唱時間が掛かる。上級兵になれば連続攻撃も可能だが、下級兵では次の攻撃を出すまでに敵の接近を許してしまう。最初にどれだけの敵を倒せるか、どれだけの敵の接近を許してしまうかでこの戦争の勝敗が決まる。犠牲が出ることになるのは避けられまい、たぶん多くの犠牲が出ることになるかもしれない」
その時、空を飛んでいたエルフ族の精霊からブルキングを視界に捉えたという報があった。導師テオは額に汗を滲ませて敵が森から出て来るのを待った。やがて微かに地響きが聞こえてきた。ブルキングが近づいていた。しかし気のせいか微かに叫び声も聞こえてきた。人間のものではない。恐らく妖獣族のものだと彼は思った。
「もうすぐよ、敵が森から出てくるわ! 皆、詠唱を始めて!」
精霊の一人が叫んだ。その指示に従い全員が詠唱を開始した。そして大きな地響きと共にブルキングたちが姿を現した。連合軍の兵士たちは敵に向けて一斉に魔法を放った。白城、青、赤、黄色、オレンジなどの光が混ざり目映いばかりの光が一斉に敵に向かって行った。
「ドゥギャァアアアア!!!!」
「ヴギャァアアアア!!!!」
「グガァアアアア!!!!」
先頭のブルキングたちが一斉に倒れ、その後から次々と後続部隊が現れていた。連合軍の次の攻撃は一斉という訳にはいかなかった。まだ詠唱を続けている者、連続して攻撃を続けている者、それぞれの能力差で攻撃の強さも速度の速さにも差が出ていた。撃ち漏らした敵たちが本隊に向かってどんどん近づいて来ていた。
その時、精霊たちの中から連続して弓を放っている者がいた。射族は全員敵の本隊の攻撃に回っている筈だった。それにブルキングは弓で倒せる相手ではなかった。だが、その兵士の弓はブルキングの急所を的確に捉えその身体を貫き一撃で敵を倒していた。テオがその兵士を確認しようと上空を見上げた。その兵士は男だった。彼は全身が光りに包まれていた。そしてその隣りには女性の精霊がいて詠唱していた。二人は協力し合って戦っていたのだ。
「いいぞ、ハルカ! もっと俺の力を増幅してくれ! 敵の数が多すぎる。このままだと接近を許してしまう!」
男の兵士は魔道士たちが撃ち漏らした敵たちに向けて矢を放っていた。
「あなたね、そんなこと言っても私だって限界あるんだからね!」
ハルカという精霊は苦情を言っていた。
「俺はこっちに来てそんなに時間が経ってないんだ! いきなりこんな大きな戦いに参加させられて勝手も分からないし、お前しか頼る人がいないんだぞ!」
男の兵士は凄い速度で矢を放ちながら文句を言った。
「だったら私の言うことに従って頂戴! 分かったかしら、シンジ君!?」
シンジと呼ばれた男は頷きながら必死に矢を放っていた。




