開戦
開戦
妖獣族の先鋒隊が進軍を開始した。連合軍の先鋒隊のエルフ族の弓隊が一斉に矢を放った。その矢が宙を埋め尽くし空が黒く染まっていた。やがてそれらが二万を超える魔狼族とトビズ族の頭上に雨のように降り注いだ。初撃で千体以上の敵が瞬く間に倒れていった。弓隊は次々と矢を放ち、敵の先鋒隊はどんどん数を減らしていた。連合軍の先制攻撃は功を奏し開戦から数分で敵の先鋒隊の三分の一が倒れていた。しかし妖獣族は第二波、第三波と後続部隊を次々に送り込んで来た。やがて先陣を切った敵の第一波の先頭部隊がエルフ族の弓隊に迫って来ていた。弓隊は後方に退いて敵の後方部隊への攻撃を開始し、入れ替わりに人族の騎乗隊が先頭に現れ敵への進撃を開始した。騎乗隊が敵軍に接触し、双方激しく打つかり合い激戦が開始された。血飛沫が辺り一面に飛び散り、敵と味方の手や足が宙を舞っていた。トピズ族の口から飛び出す毒液が至る所で飛び交い、それを当てられた騎乗兵はもがき苦しみながら落馬し、その兵に魔狼族たちが群がりその肉を食い千切る。或いは馬に横乗りなって剣を振るって敵の頭を斬り飛ばし、その後ろにいた敵の身体に剣を突き刺し、そのまま馬を走らせてその胴体を斬り裂きながら走り回る戦士たちもいる。しかし敵味方とも身体に傷を負いながら怯むことなく戦い、押しつ押されつの攻防戦になった。だが時間が経つにつれて緒戦で数を大きく減らしていた妖獣族の方が次第に押し返され始めた。人族の騎乗隊はその機会を捉えて一気に攻勢に転じた。人族は剣、斧、槍を妖獣族の頭上から斬り付け敵の頭を斬り飛ばし、胴を両断し、馬の足で踏み潰し、敵の先鋒隊の只中を走り回っていた。敵は押し返されて戦線は大きく後退して撤退を始める部隊もあった。敵は徐々にその数を減らし、戦闘は連合軍に有利に展開していた。
導師テオは頃合いを見て本隊に進軍を命じた。戦列の先頭に配置されていた妖獣族の獣型が四足になって敵軍に突撃し騎乗隊を支援した。彼らはその前足で魔狼族を殴り飛ばし、或いはトピズ族を踏み潰しながら走り回った。魔道士部隊は味方の手薄な箇所に火炎弾、氷塊の礫、石弾を放った。エルフ族の精霊は敵の密集している場所に無数の風の矢を撃ち込み、また味方に支援魔法を掛けてその攻撃力や防御力を上昇させた。精霊の大きな特徴は自分や味方の能力を上昇させ、怪我を回復させることである。そして仙獣族の人型の女性は召喚獣を出現させて攻撃する能力がある。召喚獣は沢山の種類がありその能力によっては強力な幻獣を出現させることもできる。
戦場には敵味方の負傷兵や死体が随所に転がっていたが、その殆どは妖獣族だった。戦況はもはや一方的な展開になりつつあった。人族の立てた作戦通りに事が運び、残りは敵の主力である本隊をどう叩くかという場面に移っていた。
総司令官の導師テオは本隊をさらに前進させ戦線を押し上げた。しかし、そこに斥候からある報告が齎された。本隊の左翼から二千体ほどの敵の別働隊が迫っているという。彼は思わぬ伏兵に合い焦燥を隠せなかった。本隊には接近戦を不得意とする部隊しか残っていない。今側面を突かれたら本隊は総崩れになる恐れがあった。騎乗隊は既に敵の本隊に迫ろうとしていた。今、その一部でも引き返させれば敵の本隊が勢いづく可能性があった。
総司令官テオは突然の凶報に勝敗を覆しかえない究極の選択をしなければならなくなった。今や戦闘はどちらに軍配が上がるか分からない情勢になっていた。




