安獣城
安獣城
エルフ族との同盟締結に成功したカオルは、次に仙獣族の城塞都市『安獣城』を目指した。 しかし仙獣族はエルフ族とは勝手が違う。同盟が締結できるかどうかはカオルの腕次第だった。
何故ならば彼らが獣族だからだ。仙獣族と妖獣族は同じ獣族で似ているところがあった。人族やエルフ族のような合議制で種族の方針を決めるのではなく、王政を敷きその権力は絶大だった。そして身分制も存在している。誇り高く他種族と一線を画して馴染もうとしないところがあった。
『安獣城』は険しく高い崖の上の高原にあった。彼らは自然を切り拓いて人工物を築くことはしない。自然にある物をそのまま使ってそれらしい人工物を造るのが上手であった。そのため城壁も野面積みの高い城壁を城の四方に巡らしていた。城の中も森林が所々にあり、自然にある大木に空いた穴や丘陵地の洞窟に家財道具を運んで住まう。道は住民が行き来して自然にできたものや石を敷き詰めて造ったりした。そして王宮もそれなりに大きいが自然の岩を積み上げただけの粗末な造りに見えた。
仙獣王バンライは獅子の顔をしていた。全身が白い体毛で覆われ豊かな鬣を持っていた。緑色の瞳が吊り目の中で光り鋭い目つきでカオルを見つめた。
カオルはバンライを前にすると最初は少し怯んだが、すぐに役目を思い出して彼を見つめ返した。そして彼女は彼に人族の同盟要請の書状を渡した。彼はそれをすぐに開くと読み耽った。その間、彼女はその部屋にいる衛兵や家臣たちの様子を窺った。
彼らは色々な獣の顔を持っていた。男たちは獅子、虎、狼、豹、牛などの大型の動物が多かったが、二足歩行で歩き走る時には手が肉球に変化して四足になる。王宮の中の女性は皆人型だったが、外には犬、猫、鳥、栗鼠、羊など小動物に変身しているのを見かけた。中には男たちように大型の物もいたが、比較的小型の動物が多いと感じた。
そして持っている武器は男は刀剣、槍、斧などの近接用武器で、女は人族の魔道士と同じように宝剣や法具を持っていた。要するに人族の戦士と魔道士の関係が性別で別れてるだけだと彼女は判断した。
バンライは書状を読み終えると思案顔になって暫く考え込んだ。更に沈黙が続いた。カオルはそこでここに着くまでに考えていた説得を試みた。
「もし我々の要請をお受けして頂けない場合、恐らく人族は妖獣族に敗北するでしょう。そして奴らはいずれ仙獣族にその牙を向けてきます。その場合、仙獣族が近くのエルフ族に救援を要請しても、人族に友好的なエルフ族は仙獣族を助けないでしょう。その時、仙獣族は単独で妖獣族と戦わなければならなくなりますよ。それでもよろしいのですか?」
カオルのこの説得はすぐに効果があった。
「いや、実は人族を助けるのが嫌なのではない。我々仙獣族の中には人族のことを良く思わない者も多い、その上、ここは大東原の辺境に位置し人族の地まで距離もあり道が険しい。それで行軍の困難、物資運搬の問題、そして民心が離れてしまわないかと心配していただけなのだ」
バンライ王は慌てて言い訳した。
「その点ならご心配に及びません。仙獣族が人族にお味方下されば、長老からも行軍と物資の支援は人族からも十分に行う用意があると言われています。民心がご心配ならば人族は仙獣族とはこれまでのような一時的な同盟を結ぶのではなく、その後も長きに渡り相互援助を惜しまない約束をしてくれた、そうお伝え下さい」
カオルは長老から申し付けられていたことを述べた。
「おお、それはありがたい。それならばわしに異存はない。では早速、一個中隊を送る準備に掛かることにしよう」
バンライ王は笑顔で言った。
「ありがたき幸せにございます!」
カオルは深々と頭を下げた。
「ところで、話は変わるが風の噂で『ソルジャー』が帰って来ると聞いたのだが、それは本当なのか?」
仙獣王は探るような目で訊ねた。
「はい、それに間違いありません!」
「そうであったか! それは嬉しい報せじゃ。わしは彼に会ったことがなかった。もし帰って来たら是非お会いたいものじゃ」
「分かりました。彼には王のお言葉をお伝えしておきます」
カオルは笑顔で言った。




