甦る力
甦る力
マモルたち七人の兵士は森を抜けて、広大な草原を前にしていた。そこが『猛禽の草原』と呼ばれる銀狼族のアジトだった。既に斥候から報せを受け取っていたと見えて銀狼族は三列の横陣に陣形を整えていた。
「横陣とは驚いた。やっぱり狼型は頭が悪い。せめて鶴翼の陣でないとすぐに陣形が崩れるぜ。ここは中央突破といきましょう! そこに群れを従えるボス級の奴が隠れてる筈です」
副隊長の斧戦士ウヌスが提言した。
「それにしても大きいな。俺たちよりデカいんじゃないのか?」
マモルは剣の柄に手を掛けた。
「まあ、大きいには大きいがそれだけです。ただ奴らの爪には気を付けて下さい。あれには毒が含まれていて、もし一撃でも食らうとその毒が身体に回り運動能力を徐々に奪われていきます。毒ですぐ死ぬようなことはありませんが、放っておくと身体が麻痺して動けなくなり敵の餌食にされてしまいます」
ウヌスが答えた。
「そうか、分かった! じゃあ、こっちから先制攻撃を仕掛けるとしよう! よし、進めぇ!!」
マモルは心が奮い立っていて何か妙な感覚がしていた。そして彼はウヌスの提案に従い敵の陣形の中央に向かって走り始めた。
「おい、冗談だろ!? 何だあの速さは……」
槍戦士のドゥオが驚いていた。
マモルは走り出すと忽ち隊員たちを引き離していった。彼がグラディウスを抜き放ち敵にもうすぐで辿り着こうという時、ウヌスたちはまだ彼の半分の距離しか走っていなかった。マモルが剣から炎を繰り出して敵を五、六体ほど倒したところで、漸くウヌスとドゥオは敵と剣を交えるところだった。
銀狼族もその予想外の速さに不意を突かれたようだった。あっという間に総崩れになった。
しかしマモルも驚いていた。
ウヌスが身体を左右に回転させながら大きな斧を振り回すと、大風が巻き起こり何体もの敵が空中に吹き飛ばされていた。その風で狼の身体は切り傷だらけになり地面に落ちる頃には血を流して死んでいた。
ドゥオの方は長槍を振り回して敵を斬り刻み、時折剣先を地面に叩き付けて狼たちの足元に地割れを発生させた。敵がその穴に落ちていくと地面は元に戻ってしまった。
敵は中央が突破されそうになるのを見て、両翼の群れがマモルたちに向かって突撃を始めていた。
トレスを始めとした魔道士たちは、元いた場所とマモルたちが戦っている場所のちょうど中間地点に横一列に並んで立ち、彼らに襲い掛かろうとしている敵を単体魔法攻撃を繰り出して支援していた。
しかし敵の両翼がマモルたちのいる場所に向かって動き出したのを見て、列の両端にいた女魔道士のカトルとクインクが、彼らが包囲されるのを防ぐため、それぞれ敵の両翼に向き直り攻撃を始めた。
カトルは両手を前に突き出し火炎を発生させ、それを彼女の身体と大きさにまで膨らんだところで、それを左翼の敵に向かって撃ち込んだ。それは徐々に大きく成長し走っている敵に近づく頃には数倍の大きさになり数十体の敵を呑み込んだ。敵は忽ち炎に焼かれて消滅していった。
クインクは右翼からマモルたちに迫ろうとする敵に向かって無数の小さな氷塊の弾丸を放った。それらは数十体の敵の身体を貫通して敵の命を奪っていった。
マモルたちソール隊の連携攻撃は鮮やかとしか言いようがなかった。マモルは戦いながらも時折そうした隊員たちの様子に目を配った。彼は初めて人族の能力の真髄を見たような気がした。
「成る程、これなら七人でも十分に大群と戦える訳だ。あのカトルとクインクが繰り出している攻撃が範囲魔法というやつか。話には聞いていたが見たのはこれが初めてだ。凄すぎる!」
マモルはそんなことを思った。そうして敵は徐々に数を減らしていった。
しかし両翼の敵は今度は魔道士たちに向かい始めていた。合わせて百体ほどいると思われた。
魔道士たちの支援のお蔭でマモルたちの周囲にはもう殆ど敵は残っていなかった。
「今度は俺と戦ってくれるんだろう?」
マモルは後ろから聞こえた声の方にに振り向いた。そこには他の狼と比べると一回り大きい奴が大きな口をまるで笑っているかのように開いて立っていた。その左右には合わせて十体ほどの狼が横一列に並んでいた。
「ウヌス、トレスたちが危ない! お前たちは彼らの援護に向かってくれ! 俺はこいつらをやる!!」
マモルは後ろにいたウヌスとドゥオに向かって叫んだ。
「分かった! 一人で大丈夫か、隊長! そいつはこの群れのボスだぞ!」
ウヌスが訊ねた。
「ああ、身体も温まってきたところだ! ちょうどいい!」
マモルはまた思ってもない言葉が口から出た。
「よし、後は任せた! 行くぞ、ドゥオ!」
ウヌスたちはトレスたち魔道士の方へ向かって走り始めた。
「さあ、始めようか。クッ……ど、どうしたんだ…か、身体が熱い…や、焼けそうだ……」
マモルは突然苦しみ始めた。
「どうしたの、マモル!?」
ファルがマモルの身体から出てきた。
「身体の中で何かが燃えてるみたいだ…く、苦しい……」
マモルは跪いて左手を地面に付いた。
「どうしたんだ、俺と戦うのが怖くなったのか?」
銀狼族のボスがほくそ笑むように言った。
「クッ…だ、駄目だ……動けない…」
マモルはうつ伏せるように倒れた。
「マモル! マモル! 立って、マモル! きっと、あなたの力が蘇ってきたからよ! 力に呑み込まれないで、そのままでは暴走してしまう! 力に使われないで、あなたが力を制御するの、それがあなたの力なの!」
ファルは必死に彼に訴えた。
「……わ……わか…った……やって…みる……」
マモルはグラディウスで身体を支えてヨロヨロと立ち上がった。
「どうやら、満足に立つこともできなくなったようだな。だったら引導を渡してやろう!」
銀狼族のボスはそう言うと大きく口を開けた。そして口の中から紫色の毒液を彼に向けて噴射した。
「ウ…ウオォオオオオ!!!!」
マモルは大きな叫び声を上げた。すると彼の全身が爆発でも起こしたように紅い閃光が四方に放たれ、次の瞬間竜巻のような暴風が辺り一面に巻き起こった。その風で毒液も彼の前にいた銀狼族のボスもその取り巻きも遠くに吹き飛ばされた。
マモルの身体は赤い光に包まれていた。目が赤く光り輝き、髪も真っ赤に染まり天に向かって逆立っていた。
「こうなってしまったからには、もうお前は終わりだ! あばよ、クズ野郎…」
マモルはそう言って笑みを浮かべた。そしてグラディウスの剣先を銀狼族のボスに向けた。すると剣身を覆っていた炎が激しく燃え盛り、大きな炎の柱が銀狼族のボスたちに向かって飛んで行った。炎の柱は進みながらさらに大きくなりボスたちを全て炎の渦に巻き込み一瞬で焼き尽くしてしまった。




