妖虫のアジト
妖虫のアジト
マモルは旅を続けて妖虫たちとの戦闘を何度か経験していく内に戦闘に慣れていった。彼の進んでいる道はどこまで行っても一本道だった。どこまでも平地が続き邪魔するような建造物や障害物もなかった。しかし日毎に妖虫たちの数が増えてきていることに彼は気が付いた。村を出てから既に数十日が経過していた。空はどんよりとして雲が垂れ込め怪しい雰囲気が強くなってきていた。彼は妖虫族の巣に近づきつつあるのを確信していた。どこで何が起こるか全く予想が付かなかった。敵のアジトに辿り着けば、今までにない戦いになるだろうということは覚悟している。
それでも彼が挫けずに勇気を保てたのは、ファルが彼の傍にいてくれたからだった。彼女はかつて『ステラ』だった自分と様々な戦いを経験し、どんな場面でどうすればいいのかを知っている筈だった。きっとファルがいなかったら、自分はとっくに死んでいただろうと彼は思った。でも彼女に頼っていては強くなれないとも思った。彼は今では強い自分を早く取り戻したいと思うようになっていた。
彼の眼前に漸く行く手を阻む森が見えてきた。彼は森の中に入って行った。森の途中でそれまであった道が消え行き止まりになっていた。彼はそのまま真っ直ぐに茂みの中を進んで行った。すると遠くに妙に歪んだ大木が見え始めた。大人が四、五人で手を繋がなければ木の幹を囲めない程の太さがあり、前後左右に曲りくねりながら空に向かって伸びていた。その周囲だけ広々とした空き地が広がっていた。
「変な形をした木だな」
マモルはそう思いながら茂みを掻き分けて近づいて行った。彼がその空き地に差し掛かった時、その大木の根元から続々と黒い大きな蜘蛛が彼に向かって来た。彼はグラディウスを抜き放ち、上段に構えると蜘蛛たちに向けてそれを振り下ろした。剣から炎が飛び出しそれらは炎に包まれて焼失した。だが蜘蛛たちは大木から続々と走り出て来て彼に襲い掛かって来た。それらは彼に近づくなり空中に飛び上がり上から襲って来た。彼はそれを左右に躱しながら前に進んだ。それらは攻撃を躱されると今度は彼の後ろから襲い掛かって来た。彼はある程度進んだ所で空に向かってジャンプした。その跳躍で森の木々の先端まで飛び上がり、そこで身体を後ろに振り向け、蜘蛛の群れに向かって上空から剣を振り下ろし炎を叩き付けた。それらは大きな炎に包まれて焼き尽くされていった。大木からはもう蜘蛛たちも出て来なくなっていた。彼は着地すると今度はその大木に向かってグラディウスを横に薙ぎ払い炎を繰り出した。炎は一直線に木に向かって行った。木は燃え上がった。するとその木は根本から真っ二つ割れ、土の中から人の上半身と蜘蛛の下半身を持った巨大な妖虫が這い出して来た。マモルは剣先をその巨大な妖虫に向けて構えた。
「お前は何者だ?」
その化け物は驚いたことに言葉を発した。
「俺はお前を倒しに来た。お前こそ何者だ!?」
マモルはその化け物を睨み付けた。
「アッハハハ!!! 俺を倒しに来ただと笑わせるな! 人族の戦士如きにこの『ラドク』様が殺られるか!」
『ラドク』という蜘蛛の化け物は嘲笑った。
「試してみるか?」
マモルは自分の思ってもいない言葉が口から吐いて出た。
「小癪な小僧だ! 殺してやる!!」
『ラドク』は口を開き緑の液体をマモルに向けて吐き出した。彼は地面を蹴って飛び上がった。彼は軽く地面を蹴ったつもりだったが、森を見下ろす程の高さまで舞い上がっていた。彼は『ラドク』の攻撃を躱せたが、地面に着陸するまでに敵に待ち構えられたら不味いと思った。
「しまった!! 飛び過ぎた!」
マモルは叫んだが後の祭りだった。案の定『ラドク』は次の攻撃を準備していた。大きな耳まで裂けた口を開き彼に向かって緑の液体を再び吐き出した。彼は慌ててグラディウスを振り回した。すると思っても見ないほどの炎の渦が剣から飛び出して『ラドク』の緑の液体を飲み込み、そのまま敵に向かって行った。
「ヴギャアアアア!!!!」
巨大な炎の渦が『ラドク』の全身を飲み込み焼き尽くしていった。
マモルは自分の反射神経と脚力に驚いていた。身体が勝手に動いているような感覚だった。彼は着地すると『ラドク』がもがき苦しみながら焼かれていくのを見つめた。
「お前は一体…何者だ…?」
『ラドク』は炎に焼かれながら呻くように訊ねた。
「俺は…俺は…『ステラ』だ」
マモルは再び思ってもいない言葉が口から出てきた。
「そ、そんな…バ…バカなぁあああ!!! ギャアアア!!!」
絶叫しながら『ラドク』は焼失していった。
マモルは戦いが終わると呆然としていた。もう新たな敵が襲って来ることはなかった。
「お、俺は…一体……どうなっているんだ……」
「おめでとう、マモル! 私は何も助けてないのに敵の大群と首領をやっつけるなんて。これで分かった? これがあなたの力なのよ! でもこんなのは昔のあなたの力の欠片程度でしかないの。でもあなたは確実に力を取り戻して来ているわ。あの首領は妖獣族の中でも弱い部類よ。これからもっと強い敵とも戦っていかなくちゃならないわよ。頑張ってね! 私も協力するから」
ファルは彼の顔の前に現れて語り掛けた。彼女が羽を羽ばたかせる度に光が羽から舞っていた。
「あ、ああ…ありがとう、ファル…」
マモルはまだ放心状態から覚め切れずに答えた。




