桜花村の案内人
アルビトリウムの光
『アルビトリウム』は待っていた
英雄の帰りを 彼の目覚めを
一万年の危機が迫っている
封印が解かれた時 『ステラ』は甦る
桜花村の案内人
マモルは意識を取り戻し、自分がベッドの上に寝かされていることに気が付いた。彼は身体を起こすとベッドの縁から足を落とした。彼は部屋の中を見回した。部屋は木造で見たこともない家具や道具が置かれていた。彼は自分の着ている服が変わっていることに気づいた。綺麗で滑らかな青色の生地に幾何学模様が描かれたローブを着ていた。彼は身体に違和感を感じた。自分の身体を手で触りながら見回すと全身が逞しく大きくなっていた。身体も軽く感じられた。
「どういうことだ?」
マモルは立ち上がると部屋に置かれていた姿見に自分を映した。彼は自分の変化に驚いた。髪と瞳が仄かに赤みを帯びていて顔も鼻筋が少し高くなり、身体つきもがっちりしていてまるで別人のようだった。
「これが俺なのか?」
マモルは自分の変化に戸惑いを感じて、角度を色々と変えて姿を確認し続けた。そうしていると部屋の戸が突然開いた。
「気が付いたようね」
西洋の可愛い民族衣装のような服に身を包んだ女性が部屋に入って来た。
「あなたは?」
マモルは彼女を見つめた。
「私はケラスス。桜花村の案内人です」
彼女はそう言って笑みを浮かべた。
「案内人…ですか?」
マモルはその言葉の意味が分からなかった。
「私はあなたをこれから『白仙城』まで案内します」
「『白仙城』…どういうことです? どうして俺はここにいるんでしょうか?」
マモルは戸惑っていた。
「そうですね。今のあなたでは分からないことばかりでしょう。少しだけ教えてあげます」
ケラススはそう言うと説明し始めた。
あなたは『月の扉』からこの世界に戻って来ました。今のあなたの姿は『アルビトリウム』にいた時のあなたの本当の姿です。『マテリア』に行って人間となったあなたは全てを失ってしまった。身体、記憶、そして能力も。あなたは『マテリア』の人間として成長しました。でも、あなたは元々『アルビトリウム』の住人、『マテリア』にいてもその成長過程で『アルビトリウム』にいた頃の姿を僅かながら取り戻していくんです。でも『マテリア』の人間でいる限りは記憶や能力までは戻ることはありません。しかしここに戻って来るとそれらも徐々に取り戻すことができるんです。
あなたはこの世界の英雄『ソルジャー』だった。あなたの真の力は絶大だった。でも今のあなたはその力をほんの少し取り戻したに過ぎない。
あなたはこれからその力を取り戻していかねばなりません。でも記憶が取り戻せるかどうかは個人差があります。今あなたは『マテリア』の者であった時の記憶をそのまま持っている筈です。その記憶が妨げとなって元の記憶を戻り難くするために差が出てくるんです。でも力は試練を乗り越えることで、徐々に取り戻すことが可能です。
あなたには早くその力を取り戻してこの世界の危機を救うことが求められています。
マモルはケラススの話を聞いても実感が湧かなかった。しかし現にここにいる以上は彼女の言葉を信じるしかないと思った。彼はここは『マテリア』とは異質の世界『アルビトリウム』だということを何となく実感し始めていた。それにもう戻りたくても元の世界には戻れない。ここで生きていくしかないと彼は覚悟を決めた。
「ちょっと訊きたいことがあるんです。カオルはどこにいるんですか?」
「カオル…? …ああ、人族の『フロース』のことですね。彼女ならちゃんとこの世界で生きていますよ。彼女はあなたがこれから行く『白仙城』であなたを待っています」
ケラススは笑顔で言った。
「本当ですか!? やったぁあああ!!!」
マモルは歓喜して飛び跳ねた。
「まあ…ウフフフ、あなたは相当彼女に会いたかったんですね。前はそんなんじゃなかったのに…」
ケラススは口に手を当てて笑った。
「えっ…どういうことですか!? あなたは俺のことを知ってるんですか?」
マモルは飛び跳ねるのを止めて真顔になった。
「ええ、知ってるわよ。良ぉーくね! …そうねぇ、今のあなたにはきっと言っても分からないでしょうね。でもその内に思い出せるようになるかもしれないわ。本当のあなたがどんなだったかをね。その時どんなことになっても私を恨まないでね」
ケラススは意味ありげに言った。
「……。…ところで俺はこれからどうすればいいんでしょう?」
マモルは訊ねた。
「それじゃあ、早速始めましょうか。ここから『白仙城』に着くまで私があなたに試練を与え城まで案内します。そこに着くまでに少しでも力を取り戻さねばならないからです。いえ、取り戻さねば城に辿り着くこともできません。
まずこの桜花村は『妖虫族』に狙われています。『妖虫族』というのは『妖獣族』の支族です。この村の周囲では奴らが屯していて通行が妨げられているの。この村の戦士たちは全て奴らに殺されてしまって戦える者が一人もいません。あなたにはまず村人の通行を妨げている幼虫たちを追い払い、奴らの本拠である巣を探し出してその群れの首領を倒して貰いたいんです。
『ソルジャー』だった頃のあなたならそんなことは簡単にできた筈ですが、今のあなたではきっと苦しい戦いになる筈です。十分に気を付けて下さい」
ケラススは真剣な顔で言った。
「でも戦うと言っても、戦いなんてしたこともないのにどうやって戦うんです?」
マモルは怖気づいた。
「あなたにこの剣を授けます。これは『グラディウス』という剣です。剣の使い方は戦っている内に分かるようになります」
ケラススは彼に手に持っていた剣を手渡した。
「戦っている内にって…剣なんて使ったことないのに…もし使い方を覚える前に殺られたらどうするんですか!?」
マモルは剣を受け取ると剣身を鞘から出してその刃を見つめた。
「ウフフ…大丈夫です。もっと自分を信じなさい。言ったでしょ、あなたの力は少しだけ戻ってるって! それにもし危なくなってもあなたには強力な味方がいるから大丈夫です。安心して戦いなさい」
ケラススはそう言って微笑んだ。
「マジかよ…とんでもない事になっちまった……」
マモルは身体の震えが止まらなかった。




