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アルビトリウム  作者: 新条満留
第三章 アルビトリウムの光
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妖虫族

妖虫族


 マモルは桜花村を後にした。ケラススは今回は一緒に行かないと言った。まずは彼一人でこの世界を旅して、少しでもその様子を自分の目で確かめた方がいいからだと彼女は言った。そして彼が『妖虫族』の首領を倒したら、一度村に戻って来るように彼女に言われた。

 彼は恐る恐る道を歩きながら、『アルビトリウム』の世界を観察した。『マテリア』とは全く違っていた。大自然がどこまでも広がり、町や建物が全く見当たらなかった。さっきの桜花村も集落という方が相応しい小さな寒村でしかなかった。

 ケラススは今歩いている道に沿って歩き続ければ、彼の向かおうとしている目的地が分かるようになる筈だと言っていた。

 「初めての世界でいきなりこんな試練って、これから俺はどうなるんだ? 死んじゃうかも…」

 マモルはそんな不安に駆られながらゆっくりと歩いた。彼は道の両脇に生えている植物を見ながら歩いたが、それらは見慣れない物ばかりだった。まるで生きているかのように風もないのに動いている。今にも地面から飛び出して歩き出すんじゃないかと思った。道に沿ってかなり進んだように思ったが、後ろを振り向くとまだ村が小さく見えていた。

 「まだ大して歩いてないのか…:」

 マモルはそう思って前に向き直った。その時、遠くで大きな物が動いてるのが見えた。彼は立ち止まって目を凝らして何が動いているのか確かめようとした。だが距離があってそれが黒い塊のようにしか見えなかった。彼は隠れる場所もないので身体を屈めてゆっくりとそれに近づいて行った。次第にその形がはっきりしてきた。

 「な、何だありゃ!? 蜘蛛くもの化け物じゃないか、俺より大きいんじゃないか!!」

 マモルはそれに気づかれないようにゆっくりと後退あとずさりし始めた。そしてある程度距離が空いた所で走って村に戻ろうと思った。だがその前にその蜘蛛がマモルに気づき物凄い速さで迫って来た。

 「ウワァアアアア!!!! た、助けてぇえええ!!!」

 マモルは大声で叫びながら村に向かって走り出した。

 「何だこれ…俺が走ってるのか!? 信じられない速さじゃないか!!」

 マモルは元々足は速い方だった。だがこの速さはそれとは違っていた。まるで風になったんじゃないかと思える速さだった。彼が後ろを振り返ると、蜘蛛の化け物がどんどん小さくなって行った。そして再び前に向き直った時、衝撃の光景が目の前に映った。いつの間にか彼の進路の道一杯に沢山の大きな甲虫が群がっていた。彼は立ち止まるしかなかった。甲虫たちも彼の存在に気づき彼に向かって走り寄ってきた。彼の後ろからは蜘蛛が迫って来ていた。彼は慌てて剣を鞘から抜いて構えたが、どうしていいか分からずにただ立ちすくんでいた。

 「『グラディウス』を虫たちに向かって振り下ろすのよ、ステラ!!」

 マモルの頭の中で女性の声が聞こえた。彼には考えてる時間がなかった。彼は慌てて剣を頭上に振りかざし、甲虫たちに向けて振り下ろした。彼が剣を上段に構えた時、剣は紅く光る炎を帯び、振り下ろした時に炎の渦が甲虫たちに向かって飛んで行った。炎は虫たちに到達するとその群れを中に包みこんだ。それらは炎に焼き尽くされ姿形が焼失してしまった。

 「一体どうなってるんだ!?」

 マモルは炎に包まれた剣を呆然と見つめた。

 「油断しないで、後ろにもいるわよ!!」

 マモルの頭の中に再び声が聞こえた。彼は急いで後ろから迫っている蜘蛛に向けて剣を薙ぎ払った。再び剣から炎が放たれ蜘蛛は炎に焼かれて消え去った。

 マモルは呆然と立ち尽くして虫たちのいた辺りを確認した。そこには何かがいたという痕跡もなかった。ただ道の上に黒い焦げ跡だけが残っていた。

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