ファル
ファル
護とその美女は暫くの間、何も言わずに見つめ合っていた。護は自分のことを全てい知っているという女性をまじまじと見つめた。彼女は彼を艶っぽい眼差しで見つめていた。彼には心なしか彼女が少し涙ぐんでいるように見えた。
「俺の全てを知っているって一体どういうことだ? 彼女を見る限り俺とそれほど変わらない年頃にしか見えない。生まれた時から俺を知ってるなんてあり得ない」
護はそう思った。
「…あ、あの、俺の全てってどういう意味ですか? あなたを見る限りそれほど歳が離れているようには見えませんけど?」
護は疑問に思ったことを彼女にそのまま訊ねた。
「あなたは『クラヴィス』を持っていますね?」
彼女は彼の質問には答えずに問い返した。
「『クラヴィス』って…どうしてそれを?」
護は眉を顰めた。
「私があなたに渡るように仕組んだからです」
彼女は抑揚のない声で答えた。
「一体どういうことですか? あなたは一体誰なんです!?」
護は声を張り上げて訊ねた。周囲にいた人たちが彼の声に驚いて彼を見つめた。
「あなたにあれを渡した外国人の男性は私の使いです。そして私の名は『ファル』です、本条護」
『ファル』と名乗ったその女性の瞳には哀愁が漂っていた。それに彼は彼女に呼び捨てにされても何故か嫌な気持ちはしなかった。
「ファル……あなたが仕組んだって…一体どういうことなんです? 全く分からない! 詳しく説明して下さい!」
護は首を左右に振って頭を抱えた。
「分かりました。その前に人のいない所に移動しませんか?」
ファルはそう言って微笑んだ。
「えっ…ああ、そうですね。それじゃ、あそこに空いてるガゼボがあるから、あそこで座って話しましょう」
護はファルの笑顔に魅了されて少し戸惑った。
「なんて綺麗な笑顔なんだろう!」
護はそう思った。
護とファルはガゼボに向かい合って座った。二人の視線が重なり合うと彼女は話を切り出した。
「それでは教えましょう。あなたが分からなかったこと、あなたや桜木姉妹に起こったこと、そしてあなたが知らないあなたのこと全てを。それは今のあなたが想像もできないような話です」
ファルはそう言うと真剣な眼差しになった。護は緊張して唾を飲み込んだ。




