謎の美女
謎の美女
護と真司は夕方まで海水浴を満喫すると『紅葉通り』で別れた。護は『運命の丘』の正面に差し掛かると昼間の女性のことを思い出し、ふと『運命の丘』に目を遣った。驚いたことに昼間の女性が同じ場所に立って彼の方を見ていた。
「まさか、ずっとあそこに立っていたのか?」
護は思わず立ち止まり、目を丸くしたまま彼女を見返した。そして彼はその女性が自分を呼んでいるような気がした。彼は彼女にゆっくりと近づいて行った。彼女に近づくにつれて彼はその美しさに驚かされた。今までこんな綺麗な女性を見たことがなかった。香とは違う美しさだった。香のそれを百合に例えるなら、彼女は胡蝶蘭という言った感じだった。香が可愛らしさの頂点に立つ存在だとすれば、目の前にいる女性は凛とした美の完成形だと思った。
透き通るような白い肌の中にある綺麗な水面を思わせる水色に輝く瞳、そして銀色に光る長い髪がそよ風の中で揺らいでいる。小さな桃色の唇の上にある程よく高い真っ直ぐな鼻筋は、その程よく丸みを帯びた輪郭の中でこれが調和というものだと教えてくれていた。彼女は一見コーカソイドのような顔立ちに見えるが少し違っていた。神秘的な雰囲気を漂わせた第六の種族だと彼には思えた。
「ステラ……」
その女性は護が手の届く距離まで近づくとそう呟いた。
「ステラ? …一体何ですかそれは?」
護はキョトンとして訊ねた。
「いえ、何でもありません、本条護」
「ど、どうして俺の名前を知ってるんです!?」
「私はあなたの全てを知っています。あなたが生まれた時から今まであなたが何をしてきたか。何を考え、何を感じ、何に興味を持ち、何を大切にしてきたか。その全てを」
夕暮れの美しい紅が町並を彩り油蝉と鈴虫の合唱が始まっていた。




