最後の夏休み
最後の夏休み
「後少しだな。後一月もすれば全てが終わる。いや始まるんだ。あの砂浜で何か特別なことが起こるはずだ」
護は終業式の日に仲の良かった友達に気持ちを込めて最後の別れの挨拶をした。彼らには伝わらないことは百も承知だった。でもそれでいいんだと彼は思った。真司とはまだ二人で海に行くという約束が残っている。だからまだ別れの挨拶を言う機会は残っている。今、護は染み染みと十八年という長くもあり短くも感じる人生を振り返ってみた。
「考えてみれば人生って不思議だな。何も出来なかったような気もするし、色々と出来たような気分にもなる。たった十八年、でも十八年だ。
俺は一体何だったんだろう。俺がいなくなっても世界は何も変わらない。そうだ。一人の人間がいなくなっても世界は進み続けるんだ。どこへ向かっているのかも分からないままに。一人の人間の存在や主義主張はきっとそんなものなんだ。自分が重要だとか思っているのは本人だけなんだ。そんなものはその人が死ねば、誰も重要には思わない。忘れ去られ、時間とともに消え失せる。人間社会に大きな影響を与えたような偉大な人物や偶々(たまたま)記録に残された人たち以外は名前すら残らない。人は自分を重要視し過ぎてるだけだ。自分の考えは正しいと思い込んでいるだけだ。そういうものは普遍性のない個人的な拘りに過ぎないのに。自分の知っていることが全てで、知らないことは問題じゃないって思ってる。でも、それは生物としての本能のなせる業だし仕方のないことだ。それが人間の限界でもある。
「俺は十八年の間に何もできなかった。何の役にも立てなかった。俺が死んで悲しむのは両親だけだ。ごめんな、親父、お袋……俺は逝かなくちゃならない。育ててくれてありがとう。これは死じゃない。生きるために死んでしまった自分を壊しに行くだけなんだ! 本当の自分を取り戻すために!」
護はそう自分に言い聞かせた。
「香がいなくなってから俺は自分の出来る限りのことをやったつもりだ。後は香の所に行くのを待てばいいだけだ」
梅雨の明けてない空はどんよりとした黒い雲で覆われていた。護はその日の夜、雨粒が屋根を叩いて消魂しい音を立てているのを聞きながら眠りに就いた。




