表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルビトリウム  作者: 新条満留
第二章 アルビトリウムへ
PR
25/492

最後の夏休み

最後の夏休み


 「後少しだな。後一月もすれば全てが終わる。いや始まるんだ。あの砂浜で何か特別なことが起こるはずだ」

 護は終業式の日に仲の良かった友達に気持ちを込めて最後の別れの挨拶をした。彼らには伝わらないことは百も承知だった。でもそれでいいんだと彼は思った。真司とはまだ二人で海に行くという約束が残っている。だからまだ別れの挨拶を言う機会は残っている。今、護は染み染みと十八年という長くもあり短くも感じる人生を振り返ってみた。

 「考えてみれば人生って不思議だな。何も出来なかったような気もするし、色々と出来たような気分にもなる。たった十八年、でも十八年だ。

 俺は一体何だったんだろう。俺がいなくなっても世界は何も変わらない。そうだ。一人の人間がいなくなっても世界は進み続けるんだ。どこへ向かっているのかも分からないままに。一人の人間の存在や主義主張はきっとそんなものなんだ。自分が重要だとか思っているのは本人だけなんだ。そんなものはその人が死ねば、誰も重要には思わない。忘れ去られ、時間とともに消え失せる。人間社会に大きな影響を与えたような偉大な人物や偶々(たまたま)記録に残された人たち以外は名前すら残らない。人は自分を重要視し過ぎてるだけだ。自分の考えは正しいと思い込んでいるだけだ。そういうものは普遍性のない個人的なこだわりに過ぎないのに。自分の知っていることが全てで、知らないことは問題じゃないって思ってる。でも、それは生物としての本能のなせるわざだし仕方のないことだ。それが人間の限界でもある。

 「俺は十八年の間に何もできなかった。何の役にも立てなかった。俺が死んで悲しむのは両親だけだ。ごめんな、親父、お袋……俺は逝かなくちゃならない。育ててくれてありがとう。これは死じゃない。生きるために死んでしまった自分を壊しに行くだけなんだ! 本当の自分を取り戻すために!」

 護はそう自分に言い聞かせた。

 「香がいなくなってから俺は自分の出来る限りのことをやったつもりだ。後は香の所に行くのを待てばいいだけだ」

 梅雨の明けてない空はどんよりとした黒い雲で覆われていた。護はその日の夜、雨粒が屋根を叩いて消魂けたたましい音を立てているのを聞きながら眠りに就いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ