夏の計画
夏の計画
後数日で夏休みを迎えようとしていたある日、護は真司に買い物に誘われた。海水パンツを買いに行くためだった。護がそれを承諾すると、一度帰宅してから落ち合うことになった。
護が家に帰ると母親から彼に会いに女性が訪ねて来たと告げられた。母は見覚えのないとても綺麗な女性だったと言っていた。二年前なら香がよく遊びに来ていたが、今では護をわざわざ家に訪ねて来るような女性に彼は心当たりがなかった。
護は母親に真司と買い物に行くことを告げて外出した。彼は『紅葉通り』を歩きながら何気なく遥と出会った『運命の丘』の上を見た。すると、遥が立っていたと同じ場所に女性が立っていることに気づいた。彼のいた所から丘まで距離があったので顔までは分からなかったが、彼女が自分の方を見ているるような感じがした。彼は気の所為だと思い、そのまま歩を進めて真司との約束の場所に向かった。
男の買い物というものは簡単なもので、女性のように色々な店を巡り、あれこれと迷って買うようなことはしない。予め欲しい物が決まっている時以外は、行った店で目に付いた一番気に入った物を買うという感じである。護も真司もそれほど服に拘るタイプではなかった。買い物はすぐに終わり、そのデパートにある喫茶店で休憩を取ることにした。彼らは好きな飲食物も殆ど同じで、一緒に食事に出かけると同じ物を注文する傾向があった。彼らは男二人がそれではあまり好ましくないと思っていた。そのために相手が何を注文するかを見極めてから、自分は違う好きな物を注文するという暗黙の了解があった。
その日は護がコロラドアイスコーヒー、真司はアイスコーヒーフロートを注文した。
「なあ、ちょっと訊いていいか?」
真司は護の顔を見つめた。
「ああ、何だ?」
護は真司が改まった訊き方をするので不思議に思った。
「あのさ、訊き難かったんで今まで訊けなかったんだけど、もう時間も経ってるし、もう大丈夫なんじゃないかなと思って……」
真司はストローをグラスの中でクルクル回した。
「どうしたんだ、お前?」
護は首を傾げた。
「噂で聞いたことがあるんだけど、お前が二年前に桜木香と付き合ってたって本当なのか?」
真司は真面目な顔をしていた。
「ああ、本当さ」
護は思いもしなかった質問をされて、古傷を弄られているような感覚に襲われた。
「やっぱり本当だったのか…彼女は病気で死んだって聞いたんだが、どんな病気だったんだ?」
「心不全…らしい」
護は今ではそれを信じていなかったが、話がややこしくなるので警察の公式見解を告げた。
「そうだったのか…ごめんな変なこと訊いちゃって。少し気になってただけなんだ。俺はお前を親友だと思ってる。だからお前のことをもっと知っておきたいと思ったんだ」
真司は彼の様子を見てタイミングを間違えたと思い後悔した。
「別に、構わないさ。もう昔のことだよ」
護は自分の気持と逆のことを言った。彼はそれを昔のことだと全然感じていなかった。寧ろこれから彼女に会うための準備さえしているところなのだ。でも真司にそのことを話しても分かって貰える筈もないと思った。自分だけの問題だと思った。
「お前が彼女を作らないのはその所為じゃないのかなって思ったからさ。俺から見てもお前って顔立ちはしっかりしてるしカッコいいって思ってる。それなのに彼女もいないなんて勿体ないって思ったんだ」
真司は優しい口調で言った。
「…俺は自分がカッコいいなんて思ったことないよ。俺にはそんなことどうでもいいことなんだ。確かに前は外見を重要に思ったこともある。香を好きになったのも最初は綺麗だと思ったからだ。でも俺は彼女に教えられた。外見は重要じゃない。価値はあるかもしれないが、それが全てじゃないって。外見で好きになっても内面が酷かったら長続きしない。彼女は俺にそれを教えてくれた。俺は彼女の全てが好きだ。忘れるなんて絶対にできない!」
護は話している内に声が大きくなっていた。店の中にいた客たちは驚いて彼を見つめた。
「お前ってホントに熱い奴だよな。あんまり大きな声でそんな恥ずかしいこと口にするな。聞いてる俺の方が恥ずかしくなる」
真司は苦笑して言った。
「ごめん。あいつの事になるとつい…でも俺はお前にだけは分かって欲しいんだ。俺が香をどう思っていたかを」
「そうか…でも嬉しいよ。お前にそんな風に思われてたことが。俺もお前のことを好きだ。因みに変な意味じゃないからな! 親友としてだ。お前といると何故か分からないが懐かし気持ちになるんだ。ずっと前から知り合いだったんじゃないかってな。彼女のことは気の毒だったと思う。あんな美人は滅多にいないからな。俺のクラスでも評判だったんだ。どうしたら落とせるかなんて考えてた奴も沢山いた。そんな彼女をモノにしたのがお前だったんだ」
真司はそう言ってストローを口に入れた。
護はもしかすると真司も香のことを狙ってたんじゃないか思った。だが今となってはそんなことは重要じゃない。それにもし香が生きていたら、真司となら三人で楽しくやっていけるような気がした。
「モノって……香をそんな風に言うなよ。あいつのことを知ったらそんな風には言えなくなるぞ。あいつは普通の女子とは違う。上手く言えないが、何かそういうものを感じさせない存在なんだ。付き合っているとさ、異性とかそういうものを超えた何か…やっぱり上手く言えないな」
「お前、ホントに彼女のことを好きだったんだな。俺にも気持ちが伝わってくるよ。でも分かるようなきがするな。俺も彼女を初めて見た時、何か他の女子とは違う何かを感じた。それが何だったのかは分からないが、きっとお前はそれを彼女と付き合っていて実感したんだ。お前が羨ましいぜ。そんな女性と付き合えたんだからな」
護と真司はドリンクを飲み終えるとデパートを後にした。彼らは家に帰る道すがら夏休みの間に二人で海に行く約束を交わした。




