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アルビトリウム  作者: 新条満留
第二章 アルビトリウムへ
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決意

決意


 護は家に帰ると『クラヴィス』というブローチをよく観察してみた。そして宝石の数とブローチから香の手紙のことを思い出した。

 「これは香が手紙で書いていた物に違いない! これはきっと香が十年間持ち続けていたブローチなんだ!」

 護はそう確信した。彼はそう思うと懐かしさと彼女が手にしていた物が今自分の掌の上に載っているという悦びで心がおどり始めた。

 護はその夜あまり寝つけなかった。彼はベッドから出て机の上の『クラヴィス』をもう一度手に取って観察した。

 彼は冷静になって考え始めた。よく考えてみると、なぜ香が最後に持っていた物が残っているのか不思議だった。なぜ自分の所に来たのかも分からない。彼にはおかしな事だらけに思えた。

 

 もっとよく考えてみよう。これが香が持っていたブローチだとすれば、香は死ぬ寸前までこれを持っていた筈だ。だが、警察の現場検証で彼女の遺品が残されていたなんて聞いたことがなかった。


 護はそこで考えが止まってしまった。そこで考え方を変えてみた。


 もしかすると香はこれをあの場所には持って行かなかったとしたらどうなるだろう。『アルビトリウム』に行くためにこれが必要という法はない。ただ彼女が大切に十年間これを持ち続けていたというだけで、これをあの場所に持って行かなければならないというのは俺の勝手な思い込みなのかもしれない。そうだ、彼女の手紙にもこれを持って行くなんて一言も書いてなかった。つまり、これは『アルビトリウム』に行く許可を得た証でしかないという解釈もできるんだ。という事は俺は『アルビトリウム』に行けるということになるのかもしれない。いや…きっとそうに違いない。

 じゃあ、どうやって俺の手に渡ってきたのだろう。香から俺に渡るまでの経緯はどうなる。遥は香と同じ場所で同じ日に亡くなった。つまり遥はこれを事前に持っていたということにならないか。もしそうだとすれば遥は香からこれを渡されていたということだ。そして遥は今度は俺の手に渡るように死ぬ前にあの外人に頼んでおいたんだ。彼女は俺に『アルビトリウム』に行ける許可を与えてくれたんだ。

 遥はこんなことを言っていた。

 〈これからあなたがどうするかはこの手紙を読んでから決めて下さい〉

 つまり遥は俺にどっちでも選べるようにしてくれたんだ。そして香が持っていた時は九個だった石が今は十一個になっている。

 〈このブローチは不思議なことに毎年その出来事があった同じ日の夜になると紅い光を放つの。そして光った後にブローチの表面には宝石のような紅く光る石が一つ埋め込まれるの〉

 香の手紙にはそう書いてあった。計算も合う。そうだ、間違いないこれは香が持っていたブローチなんだ。

 〈実は私も彼女から手紙を貰っていました。それで私は真実を知ることができたんです。そして私のすべきことも分かったんです。私はこれからそれをやることに決めました〉

 遥はそんなことを言っていた。そして彼女はすべきことを果たしたということなんだ。

 でも俺の気持ちはとっくに決まっている。俺は『アルビトリウム』へ行く。香のいる世界に一年後、あの場所から行くんだ。『アルビトリウム』という世界がどんな世界なのか知らない。きっと今生きている世界とは違っているだろう。死後の世界なのかもしれない。恐ろしい世界なのかもしれない。それでも香がいるならこの無意味に過ごしている世界に比べればずっといい。


 護はそう決意すると掌のブローチを見つめて強く握り締めた。

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