クラヴィス
クラヴィス
高校に入ってから二度目の夏休みが終わり始業式を迎えた。式が終わると護はいつものように『紅葉通り』を家に向かって歩いていた。夕方と言うにはまだ早い時刻だったが、日は既に傾き秋の夕暮れが近づいていた。
護が公園の中央にある噴水に目を遣ると、その前にあるベンチに白人の中年男性が座っていた。彼は護を見つめていた。護は彼と視線が合った。外人はじっと彼を見続けていた。彼は気味悪くなって早足で家に向かって再び歩き始めた。少ししてから、彼はさっきの外人のことが気になって後ろを振り返った。すると彼の予感が当たりベンチに座っていた外人が距離を置いて彼の後ろを自分の方に向かって歩いていた。彼はさらに足を早めて外人を引き離そうとした。家の近くの橋に差し掛かる手前でもう一度後ろを振り返ると、外人がさっきより距離を縮めて付いて来ていた。彼は家まで付けられたら嫌だと思った。彼は立ち止まると、勇気を出して外人の方に振り向き追い返そうと思った。
「何か用ですか?」
護は毅然とした口調で言った。その外人は少し驚いた様子だった。
「あなたが本条護さんですか?」
外人は流暢な日本語で答えた。
「え、ええ……そうですが……」
護は戸惑いながら答えた。
「そうですか! やっぱり…Great! My guess was right!」
外人は嬉しそうに言った。
「ある人からこれをあなたに渡すように頼まれたのです」
外人はポケットに手を入れながら答えた。一瞬、護は凶器を出すのかとヒヤヒヤした。だが外人が手に持っているのはアクセサリーだった。
「これは?」
護は外人の掌の上に載った紅い小さな宝石が散りばめられた金縁のブローチを見つめた。
「『クラヴィス』です」
「クラ…ヴィス?」
護は聞いたことのない言葉に戸惑った。
「これをあなたに渡すように言われました。受け取って下さい」
外人は笑顔で言った。
「はあ……」
護は不思議そうにそれを見つめながら摘み上げた。
「確かに渡しました。じゃあ、私はこれで失礼します。So long , good looking boy!」
外人はそう言って立ち去って行った。
護は呆然として少しの間、遠ざかる外人の背中を見つめ続けた。そして受け取ったブローチを不思議そうに見つめた。よく見てみると紅い宝石は全部で十一個あった。




