遥の死
アルビトリウムへ
残されているのは希望だけ
この身は既に死体を担ぐ小さな魂
全ての物は色褪せる 愛を前にして
青く光る月が 静かに詠う
『永遠』はここにあるよと
遥の死
高校二年生になった護がその噂を耳にしたのは、夏休みが終わろうとしていたある日のことだった。あの砂浜でまた女性の死体が発見されたという噂だった。それは桜木遙だった。一年前の香が亡くなった同じ場所で、同じ日に。
護が知ったのは彼女が亡くなってから数日経ってからだった。彼は母親からそれを伝え聞いた。護はそれを聞いた時、彼女の死の理由がすぐに分かった。彼女は香の残した手紙を読み、そこから自分のすべきことを決めてそれを果たしのだと。
護は彼女らの両親のことを考えた。桜木家はこの一年の間に、二人も娘をを失ったのだ。その悲しみはきっと深いに違いない。しかしまだ高校生の護には子供を失った親の痛みや悲しみがどんなものか想像できなかった。それは実際に子供を持ってみないと分からないのだろうと思った。
護はこの一年の間に何度かその場所を訪れたことがあった。だが新たな発見は何もなかった。
しかし彼はこの一年の間に香の死から大分立ち直っていた。彼は彼女の残した手紙のお蔭で、彼女の死が必ずしも絶望的なものとは限らないと思い直していたからだ。それは遥についても言えることだった。彼女らはきっとどこかで生きている。そう思えるようになっていた。
町ではあの砂浜で双子の姉妹が同じ日に同じ場所で亡くなったということから色々と取り沙汰されていた。殺人ではないのか、何かの祟ではないのか、そして呪われた砂浜なんだと。護も新聞、メディア、そしてネットでもそんな記事を見た覚えがあるが、彼はそんなことを気にも留めなかった。
彼は確信に近い思いを抱いていた。いや信じなければならなかった。香が残してくれた手紙、そしてあの恋歌は彼女が恐れを抱きながら希望を持っていたことを示している。もうこの残骸となった自分に残されているものは彼女と再会できると信じることだけだった。
「俺は何とかして行かなければならない。『アルビトリウム』へ」
護はそう思った。




