恋歌
恋歌
護は家に帰ると、早速さっき遙から受け取った手紙の封を丁寧に鋏で切り、便箋を中から取り出した。それは確かに彼女の筆跡で文章が綴られていた。彼は溢れてくる涙を慌てて拭った。
愛しい護へ
前略
多分これを読む頃には、あなたは姉の遥から幼い頃に私たち姉妹が体験した出来事を聞いた後になっている筈です。恐らくあなたはその話を信じられずに、どうしたらいいか迷ってるんじゃないかな。でもね、それは本当にあったことなの。だから遥を信じてあげて下さい。でも遥が私にそっくりだからって惚れたりしたら怒るわよ! それは冗談です。これを読んでるってことは、きっと私はいなくなっているってことだから、そうなったらそれはそれで仕方のないことと……
話が逸れてしまいました。私たち姉妹はその出来事の後、二人で色々と話し合いました。そして二人でこの事は誰にも話さないことに決めました。だってこんな話を誰にも信じて貰えないだろうから。でも、それは紛れもない事実です。私たち姉妹に何故そんなことが起こったのか私には分かりません。
でもその事の証拠である光の人が残していったブローチを、私は今も大切に持っています。私は何故かこのブローチを手放せなかった。それはきっと『アルビトリウム』が私に何か関係があるからだと思います。自覚はないけどね。
遥には内緒にしてたんだけど、このブローチは不思議なことに毎年その出来事があった同じ日の夜になると紅い光を放つの。そして光った後にブローチの表面には宝石のような紅く光る石が一つ埋め込まれるの。そして今それが九個になっています。またその日が来ると十個になる筈です。
護にこの事実を話さなかったのは、たぶん信じては貰えないだろうと思ったことも理由の一つだけど、それ以上にどんな事になるか分からない事にあなたを巻き込みたくなかったからです。あなたが私からこの話を聞いたら、きっとあなたのことだから一緒に行くと言うでしょう。だから言えませんでした。内緒にしていたことを許して下さい。
私はこの十年に及んだ謎を確かめたいと思います。正直、私は恐い。怖いよ、護! でも私は確かめねばなりません。本当はその場にあなたにもいて欲しい。でもあなたを危険に巻き込む訳にはいきません。だから一人で行くことにします。その日にあの場所に。それがどんな結果を招くか分かりません。
今の私を一番苦しめているのは、あなたに会えなくなってしまうかもしれないという可能性です。でも、こんなに怖いのに私の心は行かなくてはいけないって告げているの。だから行くことに決めました。
もし私に何かあった時には、この手紙を遥に託してあなたに渡すように頼んでおきます。これを読んでいる時がいつなのか私には分からないけど、遥には時間をおいてから渡すように頼むつもりです。もし私がいなくなってすぐに渡されても、混乱しているであろうあなたは、きっと落ち着いて読めないだろうって思うの。それに分かったところでどうにもできないだろうから。だから、あなたがその間、苦しむことになっていたら、それは私のせいです。ごめんなさい(謝)
最後に言っておきたいことがあります。それは世界中の誰よりも私はあなたを愛しています! あなたは私の全てです! あなたに出会えたことは私の人生で最も幸せなことでした。お別れの言葉を言いたくありません。だから、さよならはしません。きっといつかどこかで会えると信じます! See you , my Mamoru !
追伸
私がいなくなっても悲しみは最小限になることを願っています。もしもう会えなくなった時には……今こんなことを書くのは心が張り裂けそうだけど、あなたを幸せにできる女性が早く見つかることを祈ってます……
最後に私が作った恋歌をあなたに捧げます。(あなたは和歌に詳しくないだろうから意味を添えておきます)
君に逢ふ もとより知らむ 永遠の意を 近しく覚ゆ 今日の我かな
(昔から『永遠』という言葉の意味を知ってはいたけれど、愛しいあなたに出会った今ではそれを近くに自分で感じることができるようになったのです)
あなたを愛する香より
護の頬を止めどない大粒の涙が頬を伝っていた。彼は手紙を読みながら溢れてくる涙を何度も慌てて拭った。香の最後の手紙を汚したくなかった。彼女の想いが伝わってきて心が張り裂けそうだった。彼女がいなくなったあの日の痛みが再び彼の心に広がり始めた。
「クッソォオオ!!」
護は吐き捨てるように大声を上げた。彼は自分が彼女の覚悟に気づけなかったことに悔しさを覚えた。何度も心の中で自分を罵った。彼女はこんな思いを胸に秘めて自分と会っていたのかと思うと遣る瀬なさに心が締め付けられる思いだった。彼女がどんな思いだったかを考えると、切なさと悔しさが込み上げてきて自分の頭をかち割りたくなった。彼女の健気な想いが心に突き刺さってきた。
「お前以上の女性なんているものか!!」
護は涙に頬を濡らしながら声に出して叫んでいた。
〔第一章完――第二章へ続く〕




