カリバーン
カリバーン
マモルは目を覚ました。まだ夜の明けきらない朝方だった。
「……夢……でも、はっきり覚えている…」
マモルは自分の顔を触ってみた。涙に頬が濡れていた。彼は今見た夢が本当の夢であって欲しかった。だが彼の感覚がそれが現実だと告げていた。
「…俺がただの人形……ファルと出会ったこともカオルを愛したことも全て嘘だったというのか? じゃあ、この気持ちは一体何なんだ……俺はどうなるんだ……消えてしまうのか……彼と出会った時、俺の全てが消えてしまうのか……今持っている記憶も想いも…全部……分からない。でも…俺の心が告げている。彼と会わなくちゃいけないと…これが人形である証なのか……」
マモルがふと自分の身体の方を見ると、彼の胸の上で寝ていたファルが不思議そうに彼の顔を見つめていた。
「ファル……」
「どうしたの? 眠れないの?」
ファルが優しく訊ねた。
「ファル……俺がいなくなったら泣いてくれるか?」
マモルは声が震えていた。
「えっ!? 何を言ってるの?」
ファルは不安げな顔になっていた。
「俺は……消えてしまうかもしれない……」
「ねえ、ちゃんと話して、意味が分からないわ」
ファルはフワフワと飛び始め彼の隣りに降りると人形に変身した。マモルは上半身を起こして、俯き加減で見た夢のことを全て話した。
「そう……人形……でも、私はそれでもいい…私はあなたを……」
ファルは涙を浮かべて俯き、言葉を飲み込んだ。マモルには彼女の言わんとしていることが分かった。そして彼女を抱き寄せた。
「!! ……マモル……いえ、ステラ……」
ファルも彼の胸に顔を埋めた。
「! そうだ! ステラは二つの剣を合わせてみろと言っていた。やってみよう!」
マモルは彼の右側に置いてあった二つの剣を腿の上に横向きに置き、一つずつ鞘から抜くと両手で縦にして持った。そして剣を交差させて腹の部分を重ね合わせた。
すると眩い閃光が走り目を開けていられず二人とも顔を背けた。マモルは両手から剣の柄の感触が消えているのに気づいた。そしてゆっくりと目を開けると正面に向き直った。彼の目の前に横向きになって剣が浮いていた。
「これは…何だ? ……」
マモルの目の前に一つの柄から二本の剣身が並んで出ている二連ソードが浮いていた。
「これが『カリバーン』…なの?」
ファルも驚いていた。
「…『カリバーン』……これが……」
マモルは驚嘆していた。
〘そうだよ、パパ!〙
剣が話し始めた。
「喋った!!」
二人は同時に驚いた。
〘おはよう、パパ!〙
よく聞くと剣の話し声は少年のものように思えた。
「おはよう………そのパパって…俺のことか?」
マモルは胸に手を当てて訊ねた。
〘当たり前だろ、パパ〙
「何で俺がパパなんだ?」
〘だって、僕の生みの親だろ!〙
「はあっ!? 俺は君を生んだ覚えはないぞ!」
マモルは戸惑った。
〘嘘を言うな! 僕を作ってくれたのパパじゃないか!〙
「作った? …ちょっと待て、それはどれくらい前のことなんだ?」
〘分からないよ、そんなこと。僕は眠ってたし、どれくらい眠ってたのかも分からない。それに僕は時間を感知できない。昔、今、未来とか前と後とか、そういう大雑把な感覚くらいしかないのは、パパだって知ってるだろ?〙
「うーむ…ということはステラが作ったということなのか?」
〘あはは! おかしなこというパパだな。自分のことをそんな風にいうなんて…まるで他人のこと話してるみたいだ!〙
「まあ、今のところはそんな感じなんだ……ところで君は――」
マモルの話の途中でカリバーンが口を挟んだ。
〘パパ、その君っていうの止めてくれる? 僕はパパの息子なんだから『お前』とか、『おい』とか、『カリバーン』って名前で呼ぶとかして欲しいな!〙
『カリバーン』は抗議した。
「そうか…分かった。エンシャソードが何故お前になったんだ?」
〘おかしなパパだな…自分で作っておいて忘れちゃったの? エンシャソードは僕の隠れ蓑に過ぎない。僕を眠らせておくためのね。パパはこう言ってたじゃない〈時が来るまでお前は眠っていてくれ〉って。そして剣身が分けられ、僕は二振りのエンシャソードとなった。
それと僕が喋れるのは僕がパパの〘アニマ』で作られてるからさ。僕の中には本当のパパの『アニマ』が眠ってるんだ〙
「その『アニマ』って何だ?」
〘パパぁー、…僕は悲しいよ…うっ……そんな事も忘れちゃったなんて、パパは脳味噌が腐っちゃたんだね…うっ……〙
『カリバーン』は泣き声になっていた。
「違う! 記憶を失くしただけだ。昔のことを全部忘れてしまったんだ」
〘…そうか……だからか。どうもさっきから話してて前のパパと違う感じがしてたんだ。パパはもっと凛々しくて毅然とした口調だった。今のパパはまるで僕の兄みたいな感じがする。ちょっと複雑だな…〙
「もしかするとお前と俺は双子かもしれないぞ…まあ、そんな事はいいからその『アニマ』っていうのを早く教えろ!」
〘仕方ないなぁ。『アニマ』っていうのは『生命の息吹』のことだよ。パパはそれで僕を誕生させてくれた。だからパパはパパなんだ! そして本当のパパも僕の中に眠っている。僕にはその理由が分からないけど。僕は本当のパパを守ってるんだ。パパからそう頼まれた〙
「それは今、お前の中に眠っているのか?」
マモルはさっき見た夢のことを思い出していた。
〘そうだよ。封印されてるけどね。その封印を解けるのはパパだけだ〙
「ふむ。少しだけだが何となく分かってきたような気がするぞ。要するに今の俺はステラの抜け殻ってことだな…だけど……」
マモルは再び意気消沈した。
〘パパ、これで分かった? 僕はこれからまたパパと一緒に戦えるなんて嬉しいよ! よろしくね、パパ!〙
「そう言えばお前の鞘がないな。どうするかな?」
〘何言ってるんだ! 僕には鞘なんか必要ない。いつも腰にぶら下げられるなんて嫌だよ! 僕はパパの身体の中に入るんだ。僕に出てきて欲しい時は名前を呼んでね、兄貴みたいなパパ!〙
『カリバーン』はそう言うと姿が薄くなり空間の中に消えていった。
マモルは自分の胸を押さえた。隣りでは彼を心配そうに見つめるファルが座っていた。




