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アルビトリウム  作者: 新条満留
第一章 アルビトリウムの伝説
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桜木遥

桜木遥


 護は後数十mでその女性のいる場所に辿り着こうとした時、彼は突然歩を緩め始め、やがて歩みへと変わった。彼は近づくに連れてその女性が香ではないことに気づいた。香とよく似ているが彼女ではなかった。

 その女性は護が近づいて来る間、ずっと彼を見つめていた。そして彼が彼女の数歩前で立ち止まると彼の目をじっと見つめた。彼らは少しの間、互いに見つめ合ったまま沈黙していた。最初に沈黙を破ったのは女性の方だった。

 「あなたは本条護さんですね?」

 「…え…ええ、そうです……」

 護は息を整えながら小さな声で答えた。

 「私の名前は桜木遙です」

 香と似ている女性はそう名乗ると更に言葉を続けた。

 「ここにいれば、あなたに会えると思っていました」

 護は彼女の顔立ちと桜木遥という名前から、彼女が香の姉だとすぐに分かった。香が双子の姉がいると言っていたことを、彼は今になって思い出した。しかし姉の名までは聞いていなかった。彼女に会ったのはこれが初めてだった。それは彼女は全寮制の高校に入っていて家にはいなかったからだった。だが彼女が何故彼に会おうとしていたのか、彼には見当が付かなかった。

 「か、香から双子のお姉さんがいることは聞いていました。あなたは香のお姉さんですね…あ、あの…俺を待ってたんですか?」

 護は遥の顔を不思議そうに見つめながら訊ねた。彼はそう訊きながら香と『紅葉通り』で最初に遭遇した時のことを思い出していた。あの時も不意打ちで驚いたがこれもそうだ。俺はきっと桜木姉妹とは不意打ちで出会う運命にあったんだろうな。彼は少し考える余裕が出てきてそんなことを思った。

 「ええ、そうです」

 遥は彼と出会ってからずっと彼から視線を逸らさなかった。彼は彼女とこうしていると、本当の香が前にいるような錯覚に囚われた。遥はそれほど香とそっくりだった。だから彼女にじっと見つめられていても嫌ではなかった。むしろ心地良かった。

 「どうして俺を……?」

 「香からあなたのことはよく聞いていました。彼女は素敵な恋人ひとができたと自慢げに話していました」

 遥は彼の質問には答えず、香の生きていた頃の話を始めた。

 「香がそんなことを……」

 護は彼女の話で冷静になった。そしていつもの自分に戻り、香のことが思い出され胸に熱いものが込み上げてきた。

 「私が今日あなたを待っていたのは、ある事を報せたいと思ったからです」

 「ある事……?」

 護は彼女が真剣な表情になったので少し緊張した。

 「ええ…香の死の理由わけを」

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