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アルビトリウム  作者: 新条満留
第一章 アルビトリウムの伝説
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護と遥

護と遥


 十月も間もなく終わろうとしていた。護は『紅葉通り』の両側を彩る鮮やかな紅と黄のコントラストを楽しみながら、少し冷たくかわいた陸風の中を家に向かって歩いていた。紅葉の葉はカサカサと耳に心地良い音楽を奏でながら、風の中で微かに揺れていた。

 護は今日、再び遥と会うことになっていた。香の死の真相を教えて貰うために。


 「…香の死の理由わけ……!?」

 護は顔を殴り飛ばされたような感覚に襲われた。遥の言葉が衝撃的過ぎて、その意味するものが心にみ渡るまで少し時間が掛かった。

 「どういう事だ!! 死の理由って……どういう事だ!?」

 護は思わず大声を張り上げた。〈香の死の理由〉――それは彼が頭の中で何度も問い返しては考え続け、遂に納得できるような答えを出せずに彼を苦しめ続けてきたことだった。それが今、香の姉の遥の口から聞かされるとは思ってもいなかった。彼は彼女の言葉の意味を理解した瞬間、心から口へじかに飛び出してきたような疑問を感情のままに発してしまった。

 「…すみません…つい大声を出してしまって…」

 護はすぐに落ち着きを取り戻して遥に謝罪した。

 「いいえ、多分こうなるだろうと思ってましたから。では、その理由を知りたければ、明日この時間にもう一度ここに来て下さい。その時に真実をあなたに教えます」

 「どうして明日なんですか?」

 護は腑に落ちない顔をして訊ねた。

 「今日はあなたに会って、あなたのことを知っておきたいと思っただけです。時間が経ってしまったので、あなたの心が変わってしまっているかもしれないと思いましたから。でも、あなたがまだ香のことを忘れていないことが分かりました。だから彼女の死の理由をあなたに話すことにしました。でもそれは明日にしましょう。渡したい物もあるので」

 遥はそう言って日も沈みかけた夕暮れの中を、紅黒く染まった街並に向かって去って行った。



 護は家に帰ると早めの夕食を済ませた。そして平服に着替えると時間を見計らって家を出た。丘に着くまでの五、六分間、彼は昨日の遥との出会いを振り返りながら、思いを巡らせた。

 警察の調べでも分からなかった香の謎の死の理由わけを彼女の姉である遥が知っているというのはどういうことだろうか。香の死に彼女が何らかの形で関わっていたということなのだろうか。それとも彼女の死について何か手がかりが見つかったということなのだろうか。彼は汎ゆる可能性を考えてみたが、どれもあり得そうなことにも思えるし、あり得ないことにも思えて結局結論は出なかった。だが彼はそんな事を考えても無駄だと分かっていても、気づくとそのことばかり考えていた。

 彼は遥のことを考えることにした。香に瓜二つの姉。背丈も体形も殆ど変わらない。違うところは髪の長さだけだった。香は肩下の背中に僅かに掛かる程度のセミロングだった。遥は肩甲骨の下まであるロングヘアだ。ただ外見は似通っていても、性格は違っているように思えた。一度会っただけの印象だが、香が活発な雰囲気を漂わせているのに比べると、遥は落ち着いている雰囲気を感じさせる。声も似ているが話し方は違う。香は声に張りがあって表情があるのに比べると、遥はあまり感情を表に出さない落ち着き払った話し方をする。それでも二人は何か共通するものを持っている。言葉には表せないような同じものをその内面に持っている。魅力、価値観、そして考え方、言葉にするとそれらが一番近い。

 「双子だから当然か……」

 護がそんなことを考えながら歩いている内に『運命の丘』が見える通りへ差し掛かっていた。

 夕焼けの紅に照らされた丘では、地面の落ち葉が穏やかな陸風の中に舞い上がり、波のの中で踊っていた。

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