アイルの力
アイルの力
マモルたちは全員武器を構えた。ティグリスは足の遅いハルカのことを考えて二足になり彼の武器『雷閃の双斧』を両手に構えた。
「じゃあ、アタイが敵の目を逸らすからその隙にあの部屋に突撃するといい」
アイルが提案した。
「目を逸らすってどうやって? まさか一人で突っ込む気か?」
マモルが訊ねた。
「冗談! 嫌だよ、あんなのに囲まれるのは…アタイが幻獣を召喚してあの部屋に突進させるんだ。そうすれば奴の目を引き付けることができる」
アイルが説明した。
「そんな事ができるのか?」
「百聞は一見に如かずさ。じゃあ、始めるよ! 皆用意はいいかい?」
アイルが皆を見回した。
「よし!」
全員が声を揃えて応えた。
「エルゾセレツ カンタント ア フェステジャロ バン アムサ ベウ メリンドローザ」
アイルが自分の武器『光輪の短杖』を背中から抜き詠唱を始めた。すると彼女の頭上に全身火に包まれた大きな鳥が現れた。
「凄い!」
全員驚いた。
「行け!」
アイルが命じると、火鳥が小魔人の部屋に飛んで行った。小魔人たちは火鳥の突入に混乱し始め、部屋を飛び回る鳥に矢を放ち始めた。部屋にいた鳥たちは殆どが飛べない二足歩行の鳥だったが、飛べる物は火鳥に襲い掛かっていた。火鳥は嘴から炎弾を吐き出して応戦していた。
「今だ、突撃!」
マモルが命じると、それぞれ隊列を作って部屋へ突撃して行った。
ティグリス隊は丘の右側へ走って行った。ティグリスは二足になると走る速度は人並みだった。ハルカでも追い付ける速度だった。彼は襲って来る敵を斧で薙ぎ払いながら進んだ。ハルカは生きた心地がしなかった。
「キャアアア!!!」
彼女は絶叫しながら必死にティグリスの後に付いて行った。敵の物凄い形相に生きた心地もしなかった。それは無理もないことだった。魔人たちの死体は見ていたが、動いている彼らは当に魔人そのものだった。
皺だらけの緑色の肌を持つ顔は小さな身体の割には異常に大きく、目は黒光りして瞳がなく吊り上がっている。手には斧や剣を持ち、耳まで裂けた口を大きく開けて涎を垂らしながら、彼女らの方に向かって突き進んで来るのだ。ティグリスでも閉口するような気味悪さだった。斬り付ければその身体から真っ黒い血が飛び散り彼らに降り注いだ。ティグリスたちは全身を真っ黒に染めながら進んだ。
ティグリスは部屋の真ん中辺りで足を止め、四足になると彼らに向かって来る敵を全て引き付けるため、左右に蛇行して殴り飛ばしながら敵を自分の周りに集め始めた。ハルカとアイルは彼の意図を察し詠唱を開始した。
ハルカは『テンペスタス』の上級魔法『テンペスト』を使った。『テンペスタス』は狭範囲魔法で『テンペスト』は広範囲魔法だった。風の威力も段違いで部屋に横向きの竜巻が発生しているような状態だった。彼女の腕から発せられた風は真っ直ぐに進みながら敵を巻き込み、或いは吹き飛ばして部屋の奥へと空き進み壁に打ち当たると消えていった。だがそこに至るまでに数百の魔人や獣たちを巻き込んだ。
一方、アイルは召喚魔法以外にも毒魔法を駆使することもできる。火鳥は独自の判断で動けるため操作する必要がない。まだ空中戦を展開し敵の鳥たちと戦っていた。だが一定の時間が経つと消滅してしまうため、再び幻獣を召喚する必要があった。でもそれまでの間、彼女は自分の攻撃に集中することができる。
アイルは『ベネヌム』を発した。『ベネヌム』とは広範囲に毒気を発生させて敵を毒殺する魔法である。彼女は『ベネヌム』を唱え、自分とハルカの周囲に毒気を発生させると白豹に変身した。毒に耐性のある敵が近寄って来た時に対処するためである。人型は獣に変身すると獣型ほどではないが、物理攻撃に対する防御力が上がる。その鋭い爪や牙を使った物理攻撃を行うこともできるのだ。毒気は一定時間その場所に留まる。ハルカには護符を持たせてあるのでアイルの魔法は無効化される。
ティグリス隊はこうして敵を次々と倒していった。




