小魔人の洞窟
小魔人の洞窟
樹海城から冥塔までは三十日ほどの道程だった。冥塔に到着した日は朝から雨が降っていた。
戦場に到着したエルフ族の攻城部隊は早々に投石器による攻城戦を開始した。城壁の上に陣取った妖獣族の部隊は矢の雨を降らしてきた。何百人ものエルフ族の兵士が倒れた。敵は城壁の上に弩を二十台余り設置していた。一射で何十人ものエルフ族の兵士が討たれた。
エルフ族射型の弓部隊五千人が空中を飛び城壁の上の妖獣族兵士たちに弓を放った。放物線を描いて飛ばす矢は命中度が悪いからである。彼らは矢を持つ必要がない。弓から矢が放たれると弓の力で矢が自然に番えられる。彼らは目が良く能力を使って、遠くの標的を捉えることができた。出鱈目に射つのではなく狙いを定めて射つのである。そして彼らは狙いを付けて矢を放つまでの速さが普通の人の二倍以上に速い。次々と矢が放たれ矢が空中を真っ黒に染めた。風の影響で狙いが逸れる矢や甲冑に弾かれる矢も多いが、一撃で急所を射抜かれた何千もの敵兵が城壁から落ちて行った。しかしここは敵の本拠地である。城内には何万もの敵兵がいた。次から次に城壁に新手が現れてきた。
三十台余りある投石器から次々と石や鉛玉が放たれ城壁と冥塔に当たり、または城壁の中に落ちて行った。城壁が振動し数百体もの妖獣兵が城壁から落下していたが、冥塔や高く分厚い城壁は砕けた瓦礫が崩れ落ちるだけで破壊までには至らなかった。
雨の中で緒戦から双方とも激しく攻撃し合って一歩も譲らなかった。
エルフ族軍が攻城戦を開始した頃、マモルたちは『小魔人の洞窟』という洞穴に向かっていた。彼らは木が鬱蒼と茂る薄暗い森の中を草や小枝を掻き分けながら進んだ。彼らの前に少し開けた空き地が見えてきた。その向こう側には灰色の岩肌の崖があり人の二倍ほどの高さはありそうな大きな洞穴の入口が見えた。その幅は人が十人ほど並んで歩けそうなほど広かった。彼らはその前に立って中の様子を窺ったが、中は真っ暗で視界が全く利かなかった。
「これが『小魔人の洞窟』ってやつか?」
マモルがシンジに訊ねた。
「ああ、多分な。俺も来るのは初めてだ。ただ地図によるとここに間違いないな」
シンジが地図を見ながら答えた。
「マモル、パーティー全員に『クシア』を掛けるわ!」
ハルカが笑顔で言った。
「何だ、その『クシア』って?」
マモルが不思議そうに訊ねた。
「『クシア』は霊型の支援魔法の一つよ。このパーティー全員に掛けることができて、それぞれが持っている全ての能力を増幅させる魔法なの。これを掛けておけば全員が今持っている力以上の力で戦うことができるわ。勿論防御力も上がるわよ。但し一定の時間が経つと効果は消えてしまうけどね。その時はまた掛けてあげるわ。でも一日に何回も掛けられないの。精々三、四回ってところね。それ以上掛けると私の方が参っちゃうから」
ハルカが説明した。
「へえ、すげぇな、霊型って! そんな事ができるのか!」
マモルは尊敬の眼差しで彼女を見つめた。
「ウフフ! さあ、掛けるわよ、全員私の近くに集まって!」
ハルカがそう言うと全員が彼女を囲むように集まった。彼女は腰から彼女の武器『風光の法剣』を抜き放ち剣先を空に向けて腕を伸ばした。そして目を瞑って詠唱し始めた。
「シルヴェストル シティウス アルティウス フォルティウス センペル シント イン フローレ アタラクシア!」
全員の頭上に光の粒子が降り注ぎ、それぞれの身体の中に入っていった。すると、彼らの身体が光を帯びて輝き始めた。
「何だ、これは! 凄い綺麗だ! これなら暗闇でも歩けるぞ!」
マモルが身体を見回しながら言った。
「何か身体が軽くなった感じがするわね」
カオルが嬉しそうに言った。
そしてマモルたちは洞窟の中に一歩を踏み入れて行った。




