アルビトリウムのこと
アルビトリウムのこと
マモルたちはエルフィナとの接見を終えると一旦宿舎に戻った。彼らが戻る途中でアイルが樹海城を見物しに行こうと言い出した。皆は同意したが、マモルだけは少し休みたいという理由で宿舎に残ることになった。彼はファルに偶には一人で自由に楽しんでくるといいと勧めた。彼女は少し躊躇したが、すぐに危険に迫っている訳でもないので渋々ながらも彼の勧めに従った。
本当のことを言うと、マモルは一人で考えたかった。あまりにも色々な事があり過ぎて考えを整理したかった。彼はベッドに横になって考え始めた。
「諸族の城か……一体どんな所なんだろう……ファルの話から推測すると大東原の首都みたいな感じがするんだが……モト…死んでるのに何か幸せそうだったな…でも、アルビトリウムって一体何なんだろう? 人間以外の知的な種族がいて、しかも皆、マテリアのどんな生物よりも強くて魔法とかも使えて…考えてみるとおかしな世界だよな……それに住人たちが自分たちの世界の広さを知らないなんて…果てがないということなのか?
待て! またちょっと何かが…そうだ…見方を変えてみるんだ……俺は元々ここの住人だった…そうだよ…そもそも俺はマテリアに行って生まれ変わった。だからここが……そう言えば、マテリアの図書館で気になることが書かれていた本があったな…確か…イ…デ………うーん、思い出せんし、考えが纏まらん……」
「わっ!」
「うわぁあああ!!」
マモルは思考の世界に浸っていたため、カオルが部屋に入って来て彼の傍に立っていることに気づかなかった。
「私が部屋に入って来たのも気づかないんだもん。だから、悪戯してみたくなっちゃったの! あはっ!」
カオルはそう言ってちょこっと舌を出した。
「あはっ、じゃない心臓が飛び出るかと思ったぞ。まったくぅ…」
マモルは心臓を押さえながら言った。
「どうしたの、何か考え事?」
カオルは彼が皆と一緒に出かけなかったのは、きっと何か悩んでるのではないかと思った。彼女は彼の重荷を軽くしてあげたいと思い、皆と出かけた途中で用事を思い出したという理由を作って抜けて来たのだった。
「まあな、色々あったんで頭の中がゴチャゴチャしてたんで整理してたんだ」
マモルはそう言って上半身をベッドから起こした。
「ねえ、マモル、もし私にできることがあったら言ってね! 私何でもするから!」
カオルは笑顔で言った。
「じゃあ、肩揉んでくれ!」
「えっ!? そういう事じゃなくて…」
「何でもするって言ったろ?」
「んもう! 分かったわ。じゃあこっちに背中向けて頂戴」
マモルは彼女の言葉に従った。
「何かエルフィナ様を見て思ったんだけど、エルフ族っていうのは他の種族にはない威厳があるって思わなかったか? 神々(こうごう)しいというか、逆らえないような魅力というかさ」
マモルは気持ち良さそうに目を瞑った。
「そうねぇ、エルフ族は昔、今とは比べ物にならない位の勢力を誇ってたみたいだからね。そういう種族としての誇りみたいなのがあるんじゃないかな」
カオルが答えた。
「そうなんだ。それは知らなかったな」
「かなり昔のことらしいけどね。エルフ族は大東原のほぼ全域を支配していたらしいわ。でも次第に魔力が弱まってしまって、諸族の反撃にあって勢力が衰退していったんだって」
「へえ、さすが俺より長くこの世界にいるだけあってよく知ってるな」
「ウフフ! 分からないことがあったら遠慮なく訊いてね! でも、この世界にはまだ沢山の謎があるらしいわ。だれもこの世界の大きさを知らないし、どれくらいの種族がいるのかも分からないんだって」
「それは聞いたことがあるな」
「大東原の東は海でしょ! 西には妖獣族が支配する『骨片の砂漠』が広がって、更にその西は大東原のように諸族の国が林立してるってことよ。北の雪原にも寒冷地を好む種族が沢山いるらしいし、南は火山地帯が広がっていてそこにも色々な種族がいるんだって。問題なのは妖獣族が好戦的な種族でその支族が沢山いるってことね。『骨片の砂漠』では王を中心とした集団が国を作って同族同士でも領土戦争がずっと続いてるらしいわ。その所為でその更に西側の諸族とこの大東原は交流ができないでいるのよ」
カオルは説明した。
「じゃあ、妖獣皇帝サムン・マールムって一体何なんだ? 妖獣たちを纏めてる訳じゃないのか?」
「そこが諸族の常識が通用しないところね。好戦的な妖獣族は別に同族を大切にするという概念がないらしいの。ただ力と欲望だけが全てなの。皇帝は自分の気が向いた時に妖獣たちを集めて大軍勢で押し寄せて来るんだって」
「なんて危ない種族なんだろう…それでその皇帝はどこに住んでるのか分かってるのか?」
「『天破城』という城に住んでるという記録は残ってるけど、それがどこにあるのか誰も知らないらしいわ…」
「ふーん…ありがとな、色々と教えてくれて。随分すっきりしてきた!」
マモルは嬉しそうに言った。
「じゃあ、今度は私の番ね!」
カオルはそう言って後ろから彼に覆い被さって来た。そして甘えたように頬ずりすると彼に口づけをした。




