二人の勇者
二人の勇者
その日の夜、マモルは夢を見た。
マモルは山の上に立っていた。地面には見渡す限り白い石が転がり、空には黒い闇が広がっていた。辺りは薄暗く視界があまり利かなかったが、周囲には何もないのが分かった。ただ空間だけが果てしなく広がっていた。
「ここはどこだ?」
マモルは周囲を見回しながら呟いた。彼はファルを呼び出すため胸を三度叩いたが、彼女は出て来なかった。何度か同じことを繰り返したが何の反応もなかった。
「あいつはいないのか? どこに行ったんだ?」
マモルは不安になった。
「ファルがいないことがこんなに不安に感じられるなんて…そう言えば、この世界に来てからずっと一緒だったもんな……いつも傍にいる人が突然いなくなる…この感じ…カオルの時とは……」
その時、突然声が聞こえた。
「ずっとお前を待っていた」
「待っていた…どうして?」
マモルは辺りを見回しながら訊ねた。
「お前に託したい物があったからだ」
「託したい物? お前は一体誰だ!?」
「私の名はモト。優心村の守護を司っている者」
その声が名乗ると突然辺りが明るくなり、地面には花畑が広がっていた。マモルから少し離れた所に、真っ白な体毛に覆われた仙獣族と思われる大きな虎が四足で彼の方を見つめていた。そして彼の両脇にはそっくりな顔のエルフ族の女性が、笑顔で彼を見つめていた。
「モト………一体これはどういうことだ!? ファルはどこに行ったんだ?」
マモルは夢を見ているようにも感じられたが、あまりにも意識がはっきりしていた。
「この剣を受け取って欲しい!」
モトがそう言うとマモルの目の前に一振りの剣が現れた。
「これはエンシャソード…どうして…」
マモルは慌てて左腰を見下ろした。そこにはちゃんと仙獣族のバンライ王から貰ったエンシャソードがあった。
「エンシャソードは元々、双剣として作られた物。その一振りを私が持っていた。ある人から託されて」
モトは説明した。
「ある人?」
マモルは目の前のエンシャソードを手に取った。
「彼の名はステラ」
「い、今、何て言った!!? ステラと言ったのか!?」
マモルは一歩踏み出して大声で訊ねた。
「そうだ。遥か昔、私は彼にその剣で困っている人たちを救って欲しいと頼まれた」
「何だって!?」
「彼はこうも言っていた。エンシャソードは『封印の剣』だと」
「どういうことだ? 敵を封印できるということなのか?」
「私には分からない。私は長い間その剣を使っていたが、敵を封印する力はなかった。だが持つに相応しい者が持てば剣はその真の力を発揮する。私はお前が大東原に現れた時からお前の力を感知していた。だからお前を待っていた。私の意志を継ぐ者はお前しかいないと」
「俺はかつてステラと呼ばれていたらしい。だけど能力も記憶もまだ元に戻らない。どうしたらいいか教えてくれないか?」
「私には分からない。だが今何百年もの時を経て二つの剣が揃った。きっと何かが起きる筈だ。それを信じるしかない。お前の顔はかつて私が出会ったステラにそっくりだ。私は今、私の選択が正しかったと確信している。自分を信じろ!」
「あなたは一緒に戦ってくれないのか?」
「私は既に生物としての生を終えた者。この村に魂を留めてここを守り続けることしかできない。お前が世界を守るんだ!
いいか、よく聞け! 今、アルビトリウムは危機に瀕している。この世界はこのままではいつか消滅してしまうだろう」
「消滅って…一体、どういうことですか!?」
「妖獣皇帝サムン・マールムの力が世界に崩壊を齎す。奴を滅ぼさなければ、世界に平穏は訪れない。奴の力はお前の想像を超えているぞ。その気になればいつでも世界を消滅させる力を持っているんだ。この世界の裏側にあるマテリアも一緒にだ!
だが危機はそれだけじゃないかもしれない。私は最近妙な力の存在を感知し始めた。今まで感じたことのない異質な力だ。それが何のかは分からない。だが…それは恐らくサムン・マールムを遥かに超える力かもしれない」
モトは真剣な顔をして言った。
「マテリアも?」
マモルは愕然とした。
「そうだ。アルビトリウムとマテリアは同じ世界の表と裏。表がなくなれば、裏もまたなくなる」
「そんな…そんな大変なことを俺にやれっていうんですか!? 出来ると思ってるんですか!?」
マモルは叫んだ。
「力を取り戻せ、お前はステラだ! そして彼を超えろ! そうでなければ世界は滅ぶことになる」
「そんなの無理だ!! 出来る訳ないだろ! 彼に追い付くことさえできていないのに、彼を超えるなんて…」
マモルは大声で怒鳴った。
「諸族の城に行くんだ、ステラ! そこに行けばかつての自分と出会える筈だ!」
モトはそう言うとエルフたちと共に姿を消した。




