勇者モトの伝説 前編
勇者モトの伝説 前編
「少し昔話をして差し上げよう――」
仙獣族の老人はそう言って石像を見上げた。
今から何百年も前のことじゃ。この村に仙獣族の勇者がおった。その頃、この一帯には何万人もの人々が住む大きな町があった。町は『陽光の塞』と呼ばれ、立派な城壁に囲まれた城郭都市だったのじゃ。ちょうど仙獣族とエルフ族の境界に位置した交通の要衝だったため、旅人や商人たちの宿場町として賑わい、町には富が入り活気に満ちていた。そして諸族から強い傭兵を雇い、町の治安に務めて貰っていたのじゃ。
ところが、ある時から妖獣王『炎の角』率いる妖獣族の一派がこの地域に襲来して来た。『炎の角』は頭に炎に包まれた大きな二本の角を生やした恐ろしい妖獣で、背丈は木の高さほどもあり一撃で岩を砕くほどの怪力の持ち主じゃった。
奴らは周辺の町を席巻し『陽光の塞』に目を付けた。最初の内は傭兵たちの活躍もあり何とか町は無事に済んでいた。じゃが、奴らは援軍を呼び集め数万もの大軍で押し寄せて来たんじゃ。傭兵たちは数千しかおらず数で劣る上に相手は強力な妖獣王率いる恐ろしい妖獣族の集団。一溜まりもなかった。城壁は奴らの妖術や魔法によって忽ち破壊され妖獣たちが町に雪崩込んで来た。人々は逃げ惑い、踏み潰され、殺されていった。
そこに颯爽と現れたのが仙獣族の虎族『モト』という名の勇者じゃった。彼は行商人の護衛として雇われていた傭兵部隊の隊長じゃった。彼は偶々(たまたま)この町に来ていた雇い主の行商人たちと一緒にこの町に宿泊していたんじゃ。彼は事態が只ならぬ事を察して行商人たちに逃げるように言い渡し、自分は傭兵仲間と共に妖獣族の大軍に立ち向かって行った。彼の仲間は全部で十二人、とても勝てる相手ではないと思われた。しかし彼の持っていた剣は一振りで数百体もの敵を焼き尽くした。僅かな時間の間に数千体もの敵が焼き尽くされ、彼の活躍により敵は撤退して町は何とか全滅を免れた。しかし町は惨憺たる有様じゃった。
それから彼は町の人々に懇願されて町の傭兵となり町の防衛に当たることになった。その後も妖獣族は小規模ながらも町に襲来して来たが、その都度モトと仲間たちによって押し返された。
そんな彼に恋をした二人の女性がいた。エルフ族のユリアとルキアという双子の姉妹じゃった。二人とも町では美人で評判の娘たちでの。いい寄る男は巨万とおった。そんな彼女らは別の種族の男であるモトに恋をしてしまったのじゃ。当時は異種族間の結び付きは珍しい時代での。周囲の目も厳しかった。彼女らはそんな周囲の反対を尻目に自分たちの心に従った。
ユリアとルキアはそれまで仲の良い双子の姉妹じゃった。じゃが、同じ一人の男性を好きになってしまい、いつしか相争うようになっていったんじゃ。
モトは彼女たちから言い寄られて悩んでいた。そんな彼に彼女たちから振られた男たちが嫉妬心から、彼の所為で仲の良い二人が争い合っているから、きっぱりと申し出を断るように言ったんじゃ。
そんな時、妖獣王『炎の角』が再び何千もの兵を引き連れ最後の決戦を挑んで来た。モトたちは今度こそ『炎の角』を倒して町の禍根の根を断つつもりで戦いに挑んだ。戦いは過酷を極めた。妖獣族も精鋭部隊ばかりでモトの仲間は一人二人と命を落としていった。そして遂にモトだけが残った。彼は『炎の角』と一対一の勝負で勝敗を決することを申し出た。妖獣王はそれを受け入れ、彼らは戦い始めた。しかしモトは疲れ切っていて圧倒され掛けていた。遂に彼は意を決し最後の力を振り絞って彼に取り付き、妖獣王の身体を蹴り上り炎の角を斬り落とした。彼は最後の賭けをしたのじゃ。もし彼が角を斬り落としても妖獣王が生きていたら自分の負けという。そしてその賭けは彼の勝ちじゃった。『炎の角』の心臓は角にあったのじゃ。
モトは町の英雄になった。町に平和が戻って来た。しかし町はもう再建することができないほどに荒廃していた。僅かに生き残った人々はそこに小さな村を建てることにした。それがこの村の起源じゃ。
そしてモトに残されたのはユリアとルキアの気持ちにどう答えるかだった。実を言うと彼は二人とも愛していた。だが異種族の娘であり、どちらかを選ぶということも難しかった。
村の建設も終わりを迎えようとしたしていた頃、モトはユリアとルキアからそれぞれ手紙を貰った。――同日同時刻にそれぞれ違う場所で待ってる。どちらかに会いに来て欲しい。会いに来てくれた方をあなたが選んだことにしたい――という内容の手紙だった。
そしてモトは苦悩した末に結論を出した――




