ハイロウの最期
ハイロウの最期
「アッハハハハ!! どうやら俺の身体の方が頑丈だったらしいな! それにしても『エクリクス』とは巫山戯た名前だ」
ハイロウは皮肉っぽい口調で言った。
「どういうことだ?」
マモルは王を睨んだ。
「なんだ、お前自分の名前の意味を知らないのか? じゃあ、教えてやろう。『エクリクス』というのはステラが持っていた剣の名前だ。奴しか使えず、奴しか持ち得ず、『エクリクスに斬れない物、壊せない物があるとすれば、それは自分自身だけ』と言われた伝説の剣だ。そんな剣の名を自分の名前に入れるとはな。名前負けもいいところだ。アッハハハハ!!」
ハイロウは説明した。
「ふん! じゃあ名前負けしてなければいいんだな! 見せてやろうか、俺の能力を!」
マモルは彼を睨み付けながら薄ら笑いを浮かべた。
「ほう、面白い! 武器もなくどうやって戦う? 教えてもらおうか!」
王がそう言った時、頭上に火が灯った。彼が慌ててその火を消そうと両手を挙げた時、マモルは手で『嘴鶴手』を作りそれをハイロウの腹部に打ち込んだ。
――『嘴鶴手』とは人族の拳戦士の技で、手の指先を一点に合わせて鳥の嘴のような形を作り相手に打ち込む攻撃方法である。腕の運動エネルギーをその一点に集められるため、時に拳よりダメージを与えられる――
しかし身体の中で一番柔らかい部分とされる腹部でも、ハイロウの場合はかなりの硬さを持っていた。マモルは相当の力を込めて打ち込んだが、彼にダメージを与えることはできなかった。
「フフフフ! アッハハハハ! まさかそんな攻撃でこのワシを……ん? ……」
ハイロウが違和感を覚えて腹部を見下ろすと、マモルの手が炎に包まれていた。そして彼は手をそのまま腹の中に一気に突き入れた。
「ゴボッ!」
ハイロウは口から黄色い血を吹き出した。
「ウオォオオオオ!!!」
マモルは叫び声を上げながら一気に腕に力を込めてハイロウの腹部を背中まで貫いた。
「ば、馬鹿な…ゴフッ…ゴフッ…ボッ………ワシの鋼の身体が手で貫かれる筈は……」
ハイロウは血反吐を吐き腹を押さえながらバイコーンの背中にうつ伏した。
「やっぱりな。お前は身体の一点に力を集中させて、その硬さを調整しているんだ。今、お前の頭に点いた火で意識が逸らされた。だから俺はがら空きになった一番柔らかい腹を狙ったのさ。だがお前は腕などで身体を貫かれる筈はないと油断した。自信過剰と油断がお前の敗因だ!」
マモルが説明した。
「グッ…ゴボッ…お、おのれぇ……おのれぇえええ!!!」
ハイロウは血を吐きながら長槍をマモルに向けて薙ぎ払った。マモルはその槍筋を空中に飛んで躱し、ハイロウの頭の上に両足を着いて立った。
「クッソォオオ!! 王の頭に土足で立つとは無礼な!!」
ハイロウは激怒して両手でその足を掴み取ろうとしたが、それを読んでいたマモルは素早く後転して王の背後に回り込み、右手で再び『嘴鶴手』を作りハイロウの背中に打ち込んだ。彼の腕は王の胸を突き抜けるとその手に何かを持っていた。
「これがお前の心臓かぁああ!! 死んでいった者たちの無念を思い知れぇええ!!」
マモルはそのまま王の心臓を握り潰した。
「グギャアアアア!!!!」
妖獣王ハイロウは絶叫して絶命すると馬から身体がずり落ちた。
この様子をただ見ているしかなかった王の側近たちや兵士たちは、王が倒されたと知ると慌てて四散した。彼が敵わなかった者に誰も敵う筈がないと思ったからである。王を失った妖獣族の大軍は大混乱に陥った。マモルの近くにいた者たちは次に殺されるのは自分たちかもしれないと思い逃げ出し始めた。
そして前線で仙獣族と戦っていた者たちは後方部隊の混乱によって勢いを失い仙獣族が押し返し始めた。
後方で人族と戦っていたボーンファイター族は既に全滅し、人族の本隊は妖獣族の本隊を蹴散らし始めた。
「ありがとな、カオル。お前が王の頭に火を点けてくれたお蔭で奴の油断が生じたんだ。お前は最高の魔道士だ。これからも俺を助けてくれ」
マモルは戦いが終わって彼の後ろで支援してくれていたカオルに笑顔で言った。
「そ、そんな…私はただ少しでもあなたの役に立ちたかっただけよ。でも役に立てて良かったわ」
カオルは頬を染めて俯いた。
マモルのこの戦いの様子を少し離れた小高い崖の上から見物していた男たちがいた。
「あれが今評判のマモルとかいう奴か」
リーダーと思われる男が言った。
「ああ、ステラじゃないかって噂らしい」
彼の右隣りにいた男が言った。
「奴が帰って来たとなれば、面白いことになりそうだ」
リーダーの左隣りの男が言った。
「だが、ステラはあんな戦い方じゃなかった筈だ」
別の男が言った。
「ああ、あんな戦いならここにいる誰もができる」
さらに別の男が言った。
「伝説の戦士ステラ…か…フフフ…これからが楽しみだぜ」
リーダーの男が呟いた。




