妖獣王ハイロウ
妖獣王ハイロウ
妖獣王ハイロウは風谷国に入城すると、味方に安獣城の周辺にある砦を攻略するように命じて自分はその城壁に玉座を運ばせ戦況を眺めていた。味方の『ロックタイガー』の部隊が、遠くで仙獣族の人型の女性兵士を踏み潰しながら前進している光景を楽しそうに見つめていた。
「アッハハハハ!!!」
ハイロウは大声を上げて満足そうに笑うと、髭の根本を摘み毛先に向かって撫でた。
「前衛部隊が間もなく強狼砦を落とせそうだということです」
妖獣族の伝令ガラスが報告した。
「そうか…それで人族の援軍はどこまで来ておる?」
ハイロウは隣りにいた総司令官に訊ねた。
「既に我々の後衛部隊『ヘルボーン』五千体と交戦中です」
「そうか。それで戦況は?」
「まだ報告がありません。恐らく部隊の規模から言って我軍の優勢は間違いないものと思われます」
総司令官はほくそ笑みを浮かべた。
「ムフフフ! まあ当然だな。ではワシも強狼砦の方に本陣を移動させるとするか。バンライ王の泣きっ面を見たくなった」
ハイロウはそう言って立ち上がった。
「それでは今、衛兵を用意しますので少々お待ちを!」
司令官は伝令ガラスに目で合図した。
「いや、それには及ばん。ワシも久々に戦いたくなった。このままお前らも付いて来い」
ハイロウは城壁の縁に立つとそのまま飛び降りた。
妖獣王ハイロウは前に人族を襲ったバンロウの兄だった。身体の大きさは弟よりずっと小さく人間より少し大きい程度だった。だがその力はバンロウを遥かに凌ぎ、走る速さも風のように速かった。常に身長の三倍はある長く重たい金属の槍を兵に持たせて側に置いていた。それを振り回して何十人もの敵兵を薙ぎ払うのが好きだった。
ハイロウの取り巻きも彼に続いて地面に降り立つと、城門が開き中から彼の愛馬『バイコーン』が引かれて来た。彼はそれに騎乗すると槍を携え強狼砦へと馬を進め始めた。戦場に密集していた兵たちは彼の前に道を作り、王はその道を悠々と五体の部下を従えて進んで行った。
「フフフフ!」
ハイロウは満足そうに笑った。その時、伝令ガラスが彼の元に飛んで来た。
「陛下、後衛の『ヘルボーン』部隊が全滅致しました! 只今、本陣の後方部隊『ボーンファイター』三千体と交戦中です!」
「何だと!? 一体どういうことだ? 敵は七百ほどじゃなかったのか?」
ハイロウは動揺した。
「はい。それは間違いありません! ところが敵兵の中に異常な働きをする者がいまして、その敵が味方の兵士たちを次々と倒して進撃し、味方の陣形は総崩れになりそこに人族の本隊が襲い掛かり、味方は呆気なく全滅してしまいました」
伝令ガラスはそう伝えた。
「そんな馬鹿なことが……ちょっと待て! おい、司令官、バンロウは確かたった一人の兵士に倒されたという噂があったな?」
王は訊ねた。
「はい。ですがそれは単なる噂とする説が有力です。人族が自軍の兵士の強さを誇示するために大げさに吹聴しているに過ぎないと」
司令官は答えた。
「もしそれが本当だったとしたら?」
「…本当だったとしたら……一人の兵士がバンロウ王を倒すほどの強さを持っているとすれば…恐らくは…我が軍の中で敵うものは、王をおいて他にはおりません」
司令官は声が上ずっていた。
「ほう。それは久しぶりに面白いことになりそうだ」
ハイロウ王は笑みを浮かべた。
「面白い…ですか…?」
司令官は不思議そうに訊ねた。
「そうだ。ワシが自ら戦わねばならないような奴がいるとすれば、ステラぐらいしかおらんかった! だが奴は……ん? …そう言えば、奴が帰って来たという噂もあったな……そうだな、司令官?」
ハイロウは少し緊張した面持ちで訊ねた。
「まあ、確かにそんな噂もありますがが…たぶんそれは噂に過ぎないかと…仮にもしここに奴がいるとしたら、今頃我々は消し飛んでるでしょう」
「うむ、そうだな…あいつが……」
その時、王の後方で味方の兵士たちが、慌てて雪崩れ込むようにして後退して来た。その後方に赤く光る人影が飛んだり跳ねたりしながら炎の柱を放っていた。その上、時々空中から大きな岩石が現れ兵士たちを圧し潰したり、炎の雨が兵士たちを焼失させたり、凍り付いて砕け散っていた。
「一体あれは何だ?」
ハイロウは事態が飲み込めず愛馬『バイコーン』の上で動けなくなっていた。




