■第52話 いつも笑っててほしいから
ショウタは、微笑んでいた。
あの、大好きな朗らかな、バカがつくほど呑気なやさしい顔で。
あたたかいやわらかい笑顔で、シオリに微笑んでいた。
『ホヅミさん・・・
ちゃんと食って、ちゃんと寝て、
で。 あんまりガンバリすぎんなよ・・・
また怒られるかもしんないけど、でも・・・
あんま、ムリしないでほしい・・・
そんで・・・ そんでさ・・・
ちゃんと、いっぱい・・・ 笑えよ・・・。』
シオリの瞳から限界とばかり、大粒の雫が次々とこぼれ落ちる。
両手で顔を覆い、漏れる嗚咽を必死に堪えるもその反動で肩は切なく震えた。
『ホヅミさん、
笑った顔、むっちゃくちゃ可愛いからさ・・・
まじで、あの・・・
困ったハの字の眉毛で、笑う顔・・・ すげえ可愛いから・・・
ホヅミさんには・・・
・・・いっつも、
笑ってて・・・ ほしい、から・・・。』
その瞬間、ショウタもまた涙声で詰まり慌てて顔を背けた。
壁掛け時計の秒針が進む音しか響いていない静まり返った部室内に、ショウタの
涙を堪える荒い呼吸と、シオリの哀しい小さな嗚咽が耳に痛い。
そして、肩で息をして震えながら最後の最後に囁くようにそれは発せられた。
『・・・元気でな。』
その後はスローモーションのようだった。
部室の引き戸が大きな音を立てて開けられると、弾かれるようにショウタが
廊下へ駆けてゆく。
その大好きな不器用な背中は、一度もシオリを振り返ることがなかった。
廊下向こうにどんどん小さく、あっという間に消えてゆくブレザーの背中。
ショウタの止まらない涙で小刻みに震える肩と、遣り切れない想いに強く握り
締めた拳がやけにシオリの脳裏に焼き付いた。
(ヤスムラ君が・・・ 行っちゃった・・・
・・・もう、ほんとに・・・ 逢えなくなるんだ・・・。)
シオリは腰が抜けへたり込むように汚れた床にぺたんと座る。
もう誰もいない、部室。
シオリひとりぼっちの、部室。
卒業式の今日は、もちろん、部活動の音も響いてはいない。
無音の部室に、シオリのすすり泣く声だけが反響した。
『どうやって・・・
どうやって笑えってゆうのよ・・・
ヤスムラ君が・・・ ヤスムラ君がいないのに・・・
・・・どうやって笑えばいいのよぉ・・・。』
両手で顔を覆い肩を上下して、その泣き声は小さく次第に大きく響きしゃくり
上げる。
泣き続けるシオリのその手の中に、ショウタから渡された包みがあった。
頬から伝う雫で、その包みも少し濡れてよれてしまっている。
そっと震える指先でテープで留めてある袋の口を剥がし、中を覗いた。
そこに、あったもの・・・
シオリが悲鳴のような泣き声を上げて、天井を見上げこどものように
泣きじゃくった。




