■第44話 怒鳴るようなすがるような
仄暗い虚ろな目で、シオリがショウタを射抜くように見つめる。
そして、震える指先で薄桃色のブラジャーの肩紐を細い肩からはずそうとした
シオリの手首をショウタが慌てて掴んで、それをやめさせた。
『ちょ・・・ ま、待った!! ・・・ま、まじで、どうしたの?
な、なんか・・・ 変だよ、ホヅミさん・・・ どうしたんだよ?』
真っ赤な顔をして、必死にシオリのふくらみから目を逸らそうとするショウタ。
華奢な手首を掴んだその大きいはずの手は、小さく小さく震えている。
シオリは感情のない声色で呟く。
その顔は、一時停止ボタンを押したかのように唇以外は静止して静まり返って。
『こうゆう事させてあげるから、もういい加減あきらめてくれない・・・?』
『・・・ぇ?』 耳に聴こえた信じられないその一言にショウタが言葉を失う。
目を見張り瞬きも忘れて、たった今シオリの口から出たそれに呆然と固まる。
純粋でやさしいシオリの口から出るとは思えない、そのむごたらしい言葉。
なにかの聞き間違えではないかと、何度も何度も他の意味を必死に探る。
真意をはかろうとそっとシオリの顔を覗くも、まるで感情のない人形のような
それ。
あの冷酷なコウをふと思い出すような、真っ白く美しく哀しい能面のようで。
頬をピクリとも動かさない無表情なシオリの顔を目に、ショウタが首をもたげ
うな垂れた。
失望したように背中を丸め、何度も何度もかぶりを振る。
いまだ布団に入ったままの脚の上で握り締めた拳が、ショックで小刻みに
ふるふると震えている。
『そりゃあさ・・・こうゆう事、したいよ・・・
本音を言えば、ぶっちゃければ・・・ したい
したくて、したくて、堪んない・・・
ホヅミさんに触ってみたい、けど・・・
でも・・・ こんなの違うだろっ!
なに、想い出作りみたいな言い方してんだよっ!
進行形だろ・・・
これから・・・ もっと、ずっとずっと一緒にいて、
いっぱい手ぇつないで・・・
いっぱいキスもして・・・
そんで、抱き合うんじゃないの・・・?
ふたりの気持ちが重なって、そん時に抱き合うんじゃないの・・・?
なぁ・・・? そうゆうもんだろ・・・?』
ショウタの怒鳴るようなすがるようなその声色に、シオリは泣き出しそうに
なるのを必死に堪えていた。 顔を背け決してショウタとは目を合わせない。
喉の奥にぐっと力を入れて呼吸を止めると、漏れそうになる嗚咽に体が震えた。
(泣いちゃダメ・・・ ぜったい、ここで泣いちゃダメ・・・。)
すると、シオリはゆっくりと静かに顔をあげ口を開いた。
『もう、ほんとに終わらせたいの。』
凍りつくように冷たいその切り捨てるような声色に、 『やだよぉ・・・。』
ショウタは何度も何度も首を横に振って、シオリの言葉を拒絶する。
噛み締めすぎた唇が痛いほどだったが、食いしばる力は抑えることが出来ない。
慌ててシオリの小さな手を、その大きな不器用な両手で包み込む。
まるで思い直してくれとでもいう様に、ふたりの間にあった気持ちを思い出して
くれとでもいう様に、その手の平の温度を伝えようと必死に。
『・・・もう、ムリ・・・。』 横を向いて吐き捨てるように呟いたシオリ。
その大好きなあたたかい大きな手を、汚いものにでも触れられたかの様に
振り払った。
心の底から疲れたような低い声色に、ショウタが震えながら涙声で訊いた。
『もう・・・ 俺のこと、嫌いになったの・・・?』




