■第43話 間違っていると感じる感触
母親が来たとばかり思い気怠く横たわったままのショウタの目に、静かにドアを
開け入って来るシオリの姿が見え、ショウタは慌ててベッドに横になっていた
上半身を起こした。
熱をもつ額に貼った冷えピタが、ぺろんと剥がれて顔にかかり手で払う。
『ど、どうしたの・・・? まだガッコあるでしょ・・・?』
壁掛け時計に目をやり今は午後の授業中なはずのシオリに、ショウタは咄嗟に
眉根をひそめ申し訳なさそうな所在無げな顔を向ける。
『別に、あの・・・ ただの寝不足だから・・・
ごめん! 見舞いなんか、もう、ぜんっぜん良かったのに・・・
・・・ごめん、まじで・・・ ごめん・・・。』
何度も何度も ”ごめん ”と謝る、そのやつれた顔。
シオリはなにも言わず、ただまっすぐ瞬きもせずにショウタを見つめていた。
乱暴にキスをしてしまって以来、自己嫌悪に陥りまともに見られなかった
シオリの顔。
好きで好きで仕方がないその愛しいシオリは、どこかいつもと様子が違う。
『・・・ホヅミさん・・・?』 顔色を伺うように覗き込むと、シオリは一旦
俯きひとつ息をつくと、再び顔を上げてまっすぐショウタを見つめた。
そしてブレザーのボタンを全てはずすとそれを肩から脱ぎ、襟元のグリーン基調
のリボンタイもはずして乱雑に床に落とす。
散らかったショウタの部屋の、そこかしこに放置された漫画本やゲームソフトの
上にシオリの制服が覆いかぶさる小さい音を立てた。
その指先はゆっくりと白いシャツのボタンを、ひとつずつひとつずつはずしてゆく。
『ちょ・・・ な、なにしてんの・・・?』
目を見張りそれを呆然と見ているショウタ。
ゴクリと息を呑む音が、シオリの耳にも分かる程ハッキリ響いた。
シオリの白シャツのボタンが上から4番目あたりまではずされ、肌蹴たところで
シャツの奥にある透き通るような真っ白な肌が覗き見えた。
薄桃色のレースに包まれた小振りだが柔らかそうなふくらみが目に入り慌てて
目を逸らすショウタ。
パチパチとせわしなく瞬きを繰り返すその目は、それを見てはいけないと分かり
つつ見たくて見たくて仕方ない衝動とせめぎ合う。
ジリジリと体の芯が熱くなる。
頬も耳も首も、そのふくらみの残像に熱を帯びる。
すると、尚も無言なままのシオリが近寄り、ベッドの上に膝立ちになって
ショウタと向き合った。 慌ててショウタは顎を上げ至近距離のふくらみを
視界からはずす。
シオリは胸のふくらみを押し付けるようにショウタのTシャツの胸に抱き付き、
目をつぶって顔を傾けると、乾燥してざらつくショウタの唇におもむろに自分の
それを重ねた。
瞬時に口内に感じる蕩けるほどに熱を持った舌先の感触。
それは先日ショウタが乱暴に重ねたそれより濃厚な味がした。
その時、今まで幸福以外のなにものでもなかったはずの唇が重なるその感触が、
なぜかショウタには直感的に間違っていると感じた。
虚しさだけが込み上げるその絡み合う粘膜の温度。
『こうゆう事、したいんでしょ・・・?』
そっと濡れた唇を離し、シオリが瞬きもせず小さく呟いた。




