■第22話 満たされない心
ショウタは、不甲斐ないちっぽけな自分にどうしようもなく苛立っていた。
自分がシオリを支えて癒して笑わせなければならないのに、逆に負担になって
いるかもしれないと思うと、次第に思い悩む時間が増えていった。
(なにが出来る・・・?
俺になんか出来ることないのか・・・?)
シオリもまた、ショウタに会えない寂しさと辛さを勉強に集中することで
誤魔化そうと必死になっていた。
(ゼッタイ、なにがなんでも合格しなきゃ・・・。)
互いの顔には、満たされない心による疲れの色がありありと表れはじめていた。
やっと数日振りに会えた、とある夜。
シオリ父ソウイチロウが帰宅したらマズいので、ショウタの実家には行かず
シオリの家の前でこっそり隠れて立ち話をするふたり。 久々のふたりきりが
嬉しいはずなのになんとなく互い余所余所しく感じ、どこか居心地の悪さを
感じるのは立ち話だからというだけではないだろう。
明らかにシオリの顔はやつれて元気がない。 顔色だって良くないしなにより
ずっと笑顔を見られていない事にショウタの心はチクチクと痛みを憶える。
シオリの事が心配で心配で仕方がなかった。
『ちゃんと食って、寝てんの・・・?
・・・あんまりムリしすぎんなよ・・・。』
シオリの細い肩にやさしく手を置き、覗き込むように体を屈めてその顔を
もっとよく見ようとする。
しかし、ショウタのやわらかい声色も肩に置かれた手のぬくもりも疲れている
シオリにはどこか押しつけがましく感じてしまう。
『ダイジョウブだよ・・・。』 シオリはなんとか明るく返したつもりだったが
その返事ですらショウタにとっては明らかに心細い、それ。
『根つめ過ぎないようにしないと・・・
先は長いんだしさ・・・
・・・体壊したら、それこそ大変なんだからさ・・・。』
『・・・ほんとに、ダイジョウブだってば・・・。』
『いや、マジでちゃんと自分の体のこと考・・・』 ショウタが尚も言い掛け
た時それをシオリが目を眇めて遮った。
『今がんばんなくて、いつ頑張れって言うのよっ!!』
暗い住宅街にシオリの苛立った声色が響き渡って消えた。
耳がキーンとするようなシオリのはじめてのそのトーン。
そして刹那、闇は無音になる。
ショウタはその声色に明らかにショックを受けた顔を向け哀しげに目を伏せた。
シオリはブーツの足元に目を落とし、口をぎゅっとつぐんで決してショウタを見ない。
暫くの居心地が悪い ”間 ”が通り過ぎた後静かに静かに口を開いたショウタ。
『俺は・・・ 心配もしちゃいけないの・・・?』
ショウタのその声色は、悲哀とほんの少しの失望を含んでいた。
シオリを責めるような色を込めてしまった事に、ショウタ自身気が付いていたが
やり切れない思いに、自分でもどうしようも出来ないまま結局はシオリに当たってしまう。
暫くふたり、無言のまま立ち尽くしていた。
ジリジリと込み上げるような、苛立ちと哀しみ。 息苦しいほどの沈黙。
ふたりにまとわりつく険悪な空気に、いたたまれなくなったショウタがそれを
なんとか振り払おうと、なんとかシオリを笑わせようと、必死にどうすれば
いいか考えあぐねる。
手持無沙汰に指先に目を落とし意味も無く爪をはじき、明るい話題を探す目は
落ち着きなく空を彷徨っている。
その気配に、シオリは更に苛立った。
(ダイジョウブだって言ってるのに・・・。)
『あ!あのさ、今日・・・』 言い掛けたショウタに、シオリが呟いた。
『ごめん・・・ 今夜はもう帰るね・・・。』
その疲れ切った細い背中は一度も振り返ることなく、自宅の玄関の中へと
消えて行った。
互い、モヤモヤした気持ちを抱えて苦しげに顔を歪めて俯いていた。




