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■第20話 ふたりでいられる時間


 

 

せわしない毎日に追われ、曜日の感覚も時間の感覚もないまま時が過ぎてゆき

気が付くと新しい年はもうとっくに始まっていた。

 

 

結局は、 ”ふたり、ずっと一緒にいる ”為にはどうしたらいいかの答えなど

そう簡単に出るはずもなく、ただただ焦る気持ちばかりが募っていく。

 

 

明確な答えは出ないけれど、ふたり、少しでも一緒にいる時間を増やそうと

躍起になった。


シオリは夜に病院から戻ると、自宅前まで迎えに来ているショウタの自転車に

乗ってショウタ実家へ毎晩のように通い詰めた。

 

 

あの夜以来こたつが大好きになったシオリは、あたたかな安らぐショウタの

実家にやたらと来たがった。


シオリはショウタの両親ともどんどん慣れ親しんでゆき、愉しそうに笑い合う

3人の姿を目に、ショウタが嬉しくないはずはない。

こんな時間が永遠に続けばいいのにと、ショウタは目を細めどこか物寂しげに眺めた。

 

 

花で溢れかえる狭い居間のこたつにふたり、身を寄せ合って座る。


少しも離れたくなくて互いの二の腕がくっ付く距離で並んで座りほんのわずかな

時間でさえも大切に愛おしそうに、色んな話をして笑い合った。

 

 

 

とある夜、こたつで日本茶の湯呑を白い手で包みながらシオリが言った。

 

 

 

 『私ね・・・


  取り敢えず、ゼッタイ医大には入らなきゃいけないから


  塾の時間を増やそうと思ってるんだ・・・。』

 

 

 

実は最近シオリは、ユズルの病室に籠る時間も参考書片手に常に医大受験に

向けての勉強をしていた。 本当ならば病院から戻った後の夜の時間帯も

勉強しなければならないのだけれど、どうしてもショウタとの時間を作りたかったシオリ。

 

 

冬休みはもうすぐ終わる。


そうなったら、日中に病院に通い詰めることは出来なくなる。 母マチコを

ひとりにしてしまうことに不安はあったが、通常の生活リズムに戻す頃には

しっかり受験対策を構築し実践していかなければ、いくら成績優秀のシオリ

とはいえど目の前の壁は高かった。

 

 

 

 『時間を長くするってこと・・・?』

 

 

 

ショウタはそっと手を伸ばして、シオリが羽織っているショウタ母の袢纏の肩に

手を置き覗き込むように見つめる。

 

 

『ううん。』 シオリは首を2回横に振って、ショウタのその視線からバツが

悪そうに目を逸らした。

 

 

 

 『残念だけど・・・ 部活は、辞めようと思ってる・・・。』

 

 

 

『え・・・?』 あからさまに落胆する顔を向けてしまったショウタ。


週に2回のシオリとの書道部の時間は、いつしか大切な時間になっていた。

ふたり机を並べて座り、シオリがスっと背を伸ばして美しい横顔で筆を半紙に

落とすその姿を見るのが大好きだった。


書道になど全く興味が無かったショウタも、自分が好きな字を好きなように

書いて隣のシオリをクスクス笑わせるのが、堪らなく愛おしい時間だったのに。

 

 

そうやってどんどんふたりでいられる時間が奪われていくのかと思うと、

ショウタの胸には底の見えない恐怖とどうしようもない焦燥感が込み上げる。 

 

 

 

 

   奪われる。


   どんどんシオリが奪われてゆく。

 

 

 

 

俯いて一言も口をきかなくなったショウタを、シオリが哀しげに見つめそっと

手を伸ばして、駄々っ子のようにぎゅっと固く握りしめているその大きなゴツい

手をやさしく掴んだ。

 

 

『ごめんね・・・。』 小さく呟くその寂しげな声色。


シオリだってショウタとの部活の時間が大切じゃないはずがない。

本当はこのまま一緒に部活を続けたい。 でも、何かを得るためには何かを

我慢しなければならない事ぐらい痛いほど分かっていた。 

そして、それはショウタにも分かっている事で。

 

 

 

 『何曜日が塾になるの・・・?』

 

 

 『・・・日曜以外は・・・。』

 

 

 

週に6日も塾に通って勉強をするという、ショウタにとっては考えられないその

スケジュールも、あと1年と少しで受験本番を迎える事を考えると決して常軌を

逸したものではなかった。

 

 

更に更にショウタがしょんぼりとうな垂れ、首が体にめり込んでしまったかの

ように肩の間に頭が埋もれる。 


シオリはそっとこたつから出ると、その今にも泣き出しそうな大きな体を

やさしく抱きしめた。

まるで幼いこどもをなだめる母親のようにその胸に抱き留め、ショウタの頭に

頬を寄せる。

 

 

 

『ごめんね・・・。』 シオリが呟くその声がやさしすぎて、あたたかすぎて、

ショウタはぎゅっと目をつぶり唇を噛み締めて、その華奢な体に抱き付いた。

 

 

 


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