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八千代と紗江と雅助と翔太の物語り【七】

「………………」

 状況把握する前に一つ。最近のウチ目覚めるごとに何かあるんだけど、これって何? 何かに取り憑かれているのか……。

 後ろ手で手首と足首を縛られ猿ぐつわをされている。

 一瞬、翔太さんに連れ戻されたのかと思ったが、場所が雅助さんの家の小屋だったのでそれはなさそうだ。

 と言う事は雅助さんがこんなことをしたのか? いやいや、そんな事をする人には見えないし思えなかったけど……どうなのだろうか。

 しかし実際に考えなければいけないことは他にある。この状況をどうするかだ。悩んでいるだけじゃ解決しない。

 ひとまず近くに何かないかと探ると、錆ついてボロボロになっている鎌を見つけた。どうにか移動してそれを手に取り探りながら縄を切る。それ程苦労する事なく縄はあっさりと切れた。

 それから足の縄を外しいると誰かが近づいてくる気配がしたので慌てて足の縄を軽く縛り、手もクルクル巻いて縛られている様にした。

 “ガチャガチャ カチン”と錠が外れる音がして入って来たのは雅助さんだった。

 しかし、雅助さんはウチの縛られた姿を見ても驚きもせずにいる。反対によく砥がれた鎌を手に握りしめていてウチが目を見開いて驚いてしまった。雅助さんが犯人で間違いないらしい。こんなことをする人とは思わなかったのでちょっと悲しくなる。もしかしたら何かの作戦かもしれないけど。

 でも、それもあっさりと打ち破られた。

「申し訳ない、こんなことをして。しかし逃げられては困るんだ。許してくれ」

 と申し訳なさそうに謝られた。

「…………」

 雅助さんは近づいて来て「声を上げないでくれるか?」と聞いてきたのでウチはコクリと頷く。すると猿ぐつわを解いてくれた。

 ウチは手足の縄に気付かれないかと心配したが、それは大丈夫のようだ。

「どうしてこんなことを……?」

 ウチは雅助さんを恨めしそうに見て聞くと、雅助さんは視線を下に落としながら、

「恨まれるとはわかっている。それに華がよく似ているだけでどうなのかもわからない。しかし、ボクはそれでも華には逃げられると困るんだ……」

「……似てる?」

 また誰かと勘違いされているんだろうか? もしそうならこれで三人目だ。世の中には三人似た人がいると言うが、こうも不幸な人生ばっかりって、ウチの人生も心配してしまう。

 でも勘違いなら勘違いで早く解放してもらわなければ。幸い確信は持たれてないようなので勘違いしていることもすぐに分かるだろう。

「もし誰かと勘違いしているんだったらそれは本当に勘違いですよ。だって、ウチはこの村に初めて来たんですから。雅助さんとだって初めて会いましたし」

 きっちりはっきりと似ているという人じゃないと否定する。

 それを聞いた雅助さんは、

「ああ、それは分かっている」

 とやけに素直に認めてくれ、続けざまに、

「だって、その娘はボクが――殺したのだから」

「…………えっ?」

 衝撃的な告白にウチは固まってしまった。

 殺したって、雅助さんが殺したのだろうか? いや、ちゃんとボクが殺したと言っている。なんで? 雅助さんはそんな殺したり恨んだりしそうにないのに、どうして? もしかしたら間接的という意味で言っているのだろうか?

 ウチはもう訳が分からなく、何かを言いたいのに声も出ないほど混乱していた。

 そんなウチを雅助さんは見て、

「ボクが鎌でその娘を殺したんだ」

 と手に持っている鎌を見てポツリと言った。

 そして静かに語り始めた。

「その娘の名前は(すみれ)と言っていた。そして菫は……言っても信じてもらえないだろうけど、座敷童だったんだ」

「座敷……童……?」

 ウチはそれを聞いてポカンとなってしまう。

「そう。二年ほど前のある日に菫はこの村の近くで生き倒れていたらしい。これはボク達村の人間は誰も知らなくて聞いた話だから断定して話せないんだけど、それでも菫を八千代が家に連れて帰り助けたんだ。八千代というのは翔太の妻の事だ。当時は翔太もあんな大きな屋敷に住んでいなくボクの家みたいなボロボロだった。冬だったために食料もあまりない時期だったにも関わらず八千代は懸命に解放したんだ。そしたら徐々に菫の体調も戻って元気になり始めた。そんな矢先だったらしい、翔太が山の大木の根元から千両箱を見つけたのは」

「…………」

「はじめは何も言わずそんな事は知らなかった。だから家を建て替えると言ってあの屋敷が出来て使用人まで連れて来た時には驚いたものだよ。それで理由を聞いても「ちょっとな」とはぐらかすばっかりだった。それで菫も八千代の元から姿を消して、唯一菫の存在を知っている翔太は「もう元気になったし、急いでいるから行きます」と言っていたと八千代に伝えたらしい。八千代もそれなら良かったと後でボクに話していたよ。その後、翔太と八千代にさらに良い事がずっと続いた。土を掘れば温泉が湧き、不作の年でも立派な実を付けた野菜や果物がぎっしりと採れた。初めはただただ運がいいんだなとボク達は思っていたんだ。けど、そうじゃなかった。翔太と八千代は運が良いわけでも日頃の行いが良いわけでもなかった。これもそれも全部、全て座敷童のおかげだったんだ。それは初めは確信じゃなかったのかもしれない。けど、良い事が起こり始めたのはある事があってからで、そしてもうこの地を離れたという人物が本当はまだその家には居たんだよ。菫という座敷童子が。ボクもそして八千代も菫はもうこの地にいないと思っていた。けど、本当は違った。翔太は菫から何かただならぬモノを、あいつはそういったモノに敏感だから感じたんだろう。そして、あろうことか捕まえていたんだ」

 それを聞いてウチはあの地下牢を思い出す。あの一つだけあった地下牢。あの中に菫を閉じ込めていたんだろう。

「…………」

「そのおかげで裕福になった。自分の力ではなく、他人の力を借りて幸せになったんだ。それが、それが――許せなかった!」

 雅助さんは吐き捨てるように言った。

「…………」

「あいつばっかり幸せをむしり取って行く。ボクが好きだった娘も、お互い好きだったはずなのに引き裂かれて奪われた。仕事もあまりやらなく押し付けたりするくせに、何かと自分の取り分や欲しい評価はちゃっかり自分のモノにしていく。さらに自分の都合が悪ければ逃げ出す始末。そんなことをこれまで、この村に生まれてからずっとそんな仕打ちを受けて来た。それでもまだあいつばっかり幸せになる」

 雅助さんの拳が怒りのために小刻みに震える。顔も親の仇でも思い浮かべるかの如く怖かった。

 しかし、その想いはウチにも分かる。この二日程のことだけでもよくわかるぐらい翔太さんは自分のことしか考えていない。本当にムカつくという感じしかしない。いつか痛い目を見るんだろうなぁと、思っていても逆に良い目しか見なかったら本当にやりきれないだろう。

「だからボクはあいつの元からを菫を逃がしたんだ」

 そうしてしまうのも無理はないことだ。しかも囚われているのだから雅助さんは菫を助けた。囚われていたウチのように。

 そう思って、そしてこの話はこれで締め括られれば良い話しで済んだ。

 だがしかし、雅助さんがした事はそれだけにとどまらなかった。今まで積りに積もった恨みがそれを許さなかった。

「そして今度はボクが菫を閉じ込めようとした。ボクにもその力を使ってちょっとでも楽を、幸せが欲しかった。今まで散々な人生だった。いい目を見てもいいだろう。それなのに、その座敷童は何て言ったと思う。『逃がしてくれ。私は普通の人間だからこの村から逃がしてくれ』と言ったんだよ。しかも菫もまだお腹は小さかったけど身籠っていた。当然翔太の子供だ。あいつのところには現れて、勝手に捕まって、富を与えて、それを助け出したら今度は逃げたいと言ったんだ。――ボクは、ボクはもう許せなかった。もう少し誰かボクを想ってくれる人間がいてもいいじゃないか……」

「…………」

 雅助さんは全身を震わせ、そして手に持った鎌を見ながら、

「ボクはそれを聞いてカッとなって、そして――座敷童である菫を殺したんだ……」

 その顔は、もう優しい雅助さんの面影も何も無く、ただの嫉妬に狂う狂人でしかなかった。

「それからすぐに翔太の家の使用人の一人が財産を奪って逃げたとかで、一文無しになったよ。土地や物があってもこんな山奥じゃあ誰も欲しいと思わないしね。それで使用人はみんな出て行って、そして――あいつも、八千代も病に倒れてすぐに死んだ」

 本当に悲しそうな顔をした翔太さんは俯いてやりきれない顔をしていた

「ざまあみろと思ったよ。あいつが得たモノを全部ぶち壊してやったんだからさ。そして今回はボクが華を見つけた。菫と同じ顔と容姿をした君を。――正直に応えて欲しい。華、君も座敷童なんだろ?」

「…………」

 ウチが座敷童なはずがなかった。だって自分でも気付いていなくて本当は座敷童子だったとしたら、おじいと繭と住んできたこの10年以上で色々なことがあっただろうけど、全くそんなことは起きてない。昔からボロボロの家に住んで今でもボロボロの家のままだ。それに千両どころか一両の小判すら見たこともないんだから座敷童なわけがない。

 そう、ないのだ。ないのだが、

「う……うん……」

 ウチは手足を縛られたフリをしていて動けばバレてしまうかもしれないが、そんなことは関係なく身をよじりながら体を後ろへと退いて、そして――ウチは首を縦に振ってしまった。

 雅助さんの眼が尋常じゃなかったからだ。否定すれば殺される。それが分かるぐらい、何かに取り憑かれたような異常な眼をしていた。

 菫さんの二の舞になる。それが分かったからウチは同意してしまったのだ。

「どのみち一週間ほど居てくれれば、はっきりと分かる事だ。それまでは悪いけど此処にいてもらうよ」

 雅助さんはそう静かに、低い声で言うと鎌を持ったままゆっくりと近づいてきて、切れ味が良さそうな鎌が首の後ろに回された。

 ウチは身体が硬直して動かない。いや、動けなかった。猿ぐつわをされるだけなんだけど、もし鎌で首を切られたらと思うと怖かった。

 そして猿ぐつわをし終わるとゆっくり鎌が顔の横を通り抜けて行き、そのまま雅助さんは立ち上がって身を翻して小屋から出て行った。

 その後、錠が落ちる音と共にウチも崩れ落ち、仰向けに倒れた。


最近忙しく体調も崩していたために更新が遅れてすいませんでしたm(_ _)m

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