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八千代と紗江と雅助と翔太の物語り【六】

 というか何故に屋敷に牢屋なんてものがあんだろう。そっちも気になるけど、今はそんな事を気にしてもどうにもならない。これからの事だ。

 ここは地下なので窓などなく、入れられてからどれだけ経ったか分からないけど多分感覚としては三・四時間といったところだろう。そろそろ雅助さんが帰ってくるはずだけど紗江さんは大丈夫だったかな? それにいきなりいなくなって心配しているかもしれない。逆に紗江さんの事を頼まれたのに放っているので怒っているかも。でも翔太さんがウチの事を言っているのなら分かってくれているかな。まあそれでも紗江さんのことを見れなかったのは申し訳なく思うんだけどね。

 そんな、これからの事を考えようとして後ろばかり見ているウチの元に誰かが階段を下りてくる音が聞こえた。

 そして戸が開き、現れたのは翔太さん。

「飯を持って来てやったぞ」

 そう言ってウチが入れられている牢屋の方へと歩いてくる。

 この地下は半分のところで格子がされていてウチがその中に入っているのだ。

 「ほれ」と格子の間から渡されたのは干し芋と今日釣って来た魚だった。

「……ありがとうございます」

 ウチはそう言って差し出されたモノを受けとる。

 惨めだ。惨め過ぎる。遊郭の時でももうちょっとマシだったと今の状況を見れば思えてしまう。ウチは受け取ったモノを横に置いてすると、

「色々考えた末、ひとまずここで働いてもらう事に決めたから」

 と翔太さんに言われた。

「…………」

 売り飛ばされたりしないだけマシと言えばマシだけど、

「最初は逃げ出さないように調協をしないとな」

 そしてニヒッと悪戯っぽく笑う。まあ、そうなるだろうなとは思っていたけどね……。

「………………」

 ウチは無言で、無表情で翔太さんを真っ直ぐ見た。

 こういう時は何を言っても無駄なものだ。熱くなるから相手も熱くなるのであって、冷めた目でそれがいかにつまらないものかという事を示せば、相手も熱が冷めるというものだ。

「……………………」

 だからウチは無表情で見続ける。――のだが、

「今日は久々にヤれるぞお~。あの皿は三十両程したからな、その分たんまりとしてやらねばな。飯を食い終わって戻ってくるのが楽しみだ!」

 翔太さんには通じなかった。逆に、

「そんな顔をするなって。いつまでも居たくなるようにしてやるからよ」

 そう言って「ハッハッハ」と笑い地下室を出て行った。

 ……ウチの人生ここで終わるかも。おじい、繭、ウチの事はいつまでも忘れないでね。

 そう思いながら横に倒れて、またしくしく泣くしかなかった。


 どれくらいウジウジと泣いていただろうか。たぶん5秒くらいかな。それからどうにか出られないかと格子を蹴ってみたりしたけど、全くもってどうにかなりそうになかった。考えても良い考えも浮かばない。

 それに出たところで三十両なんて大金ウチにはどうにも出来ない。それこそ遊郭に身を置いて一生掛ってどうにか返せるかだろう。ウチの価値なんてお皿一枚のモノなんだね。もうちょっと価値がある人間だと思っていたんだけどなあ……。

「しくしく……っ!」

 またちょっとの間泣いていると、地下の戸の向こうから階段を下りる音が聞こえてきた。ついに運命の時がやってきたみたいだ。

 身にギュッと力が入り、強張りながら戸を開けられるのを待つ。

 そして、とうとう戸がギーッとやけに響く音を立てて開き、その先にいる人物を見てウチはどう反応していいのか分からず戸惑ってしまった。

「……雅……助さん」

 そう、戸の向こうに立っていたのは雅助さんだったのだ。

 どうしてここに? とウチが言うよりも早く、

「ここから出よう」

 雅助さんが急いで格子の向こう側に置いてある棚を探って鍵を見つけ、そして格子に掛った鍵を外してくれた。

「…………」

「さっ、早く」

 ウチの手首を掴み格子から出そうとするがウチは立ち上がらない。

 だってそれはウチが、

「……お皿割っちゃったから行けないよ……」

 遊郭の時はウチと藤を間違えられてたから逃げ出したけども、今回は全面的にウチが悪い。しかもちょっとした物ならまだしも三十両もするような貴重なものだ。自分が同じ目に合ったと考えたらおいそれと逃げ出すわけにはいかない。

「だから……」

 折角助けて貰った雅助さんには悪いけど、ウチは立ち上がらずに顔を下に向けた。

 しかし、そんなウチに雅助さんは、

「大丈夫だ。それはあいつの力で手に入れたものじゃない。この屋敷にあるのは何ひとつあいつの力じゃ手に入らなかったモノばかりだ! だから無くなろうが壊れようが関係ない」

 雅助さんにしては珍しく声を荒げて、強引にウチを格子の外に引っ張り出した。

 ウチは雅助さんにこんな一面があるんだと、ただただ驚き、されるがままに付いて行ってしまった。

「…………」

 階段を上りだだっ広い屋敷の廊下をずんずん歩いて行く。ウチの手首を血が止まらんばかりに掴んでいて、それだけでもわかるけど、それ以上に後ろ姿が威圧的で物凄く怒っているという事がわかった。

 ウチは黙ったまま連れられ、そしてたまたま襖が開いていた部屋に目をやる。

 その部屋は広い畳が張られた部屋だった。ウチはこんなに広い部屋を見たことが無いので全く何のために使う部屋なのか分からないけど、それでも豪華な部屋だった事はわかる。いや、今でも大きな屏風や掛け軸などがあり十分に豪華な部屋なのだろうが、それでもどこか殺風景であり、価値が無くなってすたれた部屋にしか見えなかった。

「…………」

 それから広い屋敷のどこをどう歩いたのか分からないけど、程なくして裏の門扉に続く庭へと出た。

 そして雅助さんの家の方へと戻り、小屋の中へと入れられた。雅助さんの家の中には翔太さんがいるらしく、上機嫌で自慢話をしているのが聞こえている。

「悪いけど、今日はここで寝てもらえないか。あいつに見つかると面倒なことになるから」

 そう言われてウチは頷いた。それは重々分かっている事だ。

 雅助さんは小屋を出ると戸に錠を掛けて家へと戻って行った。

 それから少しして翔太さんが雅助さんの家から上機嫌で出て行き帰って行くのが、小屋の板の隙間から見えた。

 ウチはその光景を見つからない様にと願うドキドキと、逃げ出したというモヤモヤした罪悪感を感じながら見送った。

 そして、すぐにまた翔太さんが周りをキョロキョロして何かを探すようにしながら現れ、小屋の方へとやってくる。ウチは小屋の中にあった大量の藁の中に身を小さくして隠した。

「…………」

 小屋の扉の前までやってくる気配がし、そして“ガシッガシッ”と錠を弄る音が聞こえたが、しっかり掛っているのを確認すると離れて行く。

「……はあ」

 それからしばらくは誰も、雅助さんもやってくる気配は無く、少しの間じっとしているといつの間にか眠気が襲ってきた。こんなところでも眠くなるなんて、人間の体は凄いなあ、などと考えているうちにウチは眠りについた。


 目が覚めると小屋の中は板の間から光りがもれて、明るくなっていた。

 そして、ウチは――縛られていた。


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