鉄壁の魔性
私は高校生になった。ユキ兄が受け入れてくれて、でもお嫁さんは三人になる。
私と、お姉ちゃんと、コト姉。
みんなでみんなを愛する。そう、みんなで決めた。
みんなは直接言ってくれないけど、私が社会人になったその時は。やっと一つになれる。そのために、私はユキ兄に甘えてはいけないらしい。
私たちの邪魔をする悪い人たちに攻撃材料を与えないために、私が私の意思でユキ兄と一緒になるって決めたって証拠を示さないといけないらしい。
それが、弁護士の羽田野さんから教えてもらったプラン。
「朋ちゃーん」
高校で新しくできた友達が私を呼ぶ。
「何?」
「週末遊びに行こー」
「どこ?」
「カラオケー」
スマホで予定を確認。今週末はコト姉とお姉ちゃんの日だから、私は別に外に出てもいい。家に居れば一緒に構ってもらえるからそれはそれでいいんだけど、そうしすぎると依存って言われるから誘われたら外に出た方がいいって羽田野さんが言ってた。
「いいよ。何時?」
「んー、昼過ぎから夜まで? その後みんなでご飯かな」
ご飯もかぁ。ご飯は家で食べたいんだよねー。みんなで仲良くしてるって感じがすごくするから。
「ご飯はパス」
「えー、いいじゃん行こうよー」
その後だいぶ食い下がられて、私は了承した。
週末が来て、私はレースの黒キャミにダメージジーンズ、その上にユキ兄から貰った色カッターシャツを胸の下で縛って、お姉ちゃんのおさがりの鎖のイヤリングをつける。
ユキ兄と行ってらっしゃい行ってきますのキスを頬にして、私は中心街に向かった。
集まったのは私が最後だったらしい。でも私に謝る気は全く起きなかった。
「椛。私、男子がいるって聞いてないんだけど」
私が聞いていた面子は私を含めて四人。私と、椛と、奏と紗雪。ここにはそれに加えて同じクラスの男子二人と、男子の先輩が二人。先輩は両方三年だったはず。
「だって男子がいるっていうと朋ちゃんこないし。でも朋ちゃんいると男子の集まりいいし」
私をダシに使ったなコノヤロー。よく見たら先輩のうち一人、確か椛の好きな人だ。
私使って呼んで意味ある? 私に釣られて来たってことは私に掻っ攫われるって可能性高いよ?
まぁ、絶対に靡かないからそういう使われ方をするんだろうけど。
「まぁまぁ、二海さん、だよね?」
その顔と名前がおぼろげですって感じ、嘘くさぁ~。絶対私の名前知ってるくせに。
「せっかく来たんだし、みんなで楽しもうよ」
「はぁ」
「かたいかたい。もっとフランクにしよ? ほら、笑った方が可愛いよ?」
うざぁ。今すぐユキ兄の胸に顔埋めて何も見えなくしたい。
これがイケメンって噂だけど、絶対にユキ兄のほうがかっこいいし可愛い。
椛もこんなののどこがいいのか。
ただまぁこういう付き合いを拒否し続けてもあんまりよくないらしいっていうのはなんとなく雰囲気で理解してるから、深ぁい溜息をついてジト目を送るだけで許しておく。
三年の先輩が名乗ってくれたけど興味ないからスルー。
「杜若椛でーす」
椛の苗字はカキツバタ。初見じゃ読めないし、最初聞いた漢字が分からなかった。
「長塚奏でぇす」
「奥野紗雪でっす」
奏でも沙雪も媚びとる。中学校から部活一筋で一緒だった親友が男に媚びる姿はなんとなく見たくなかった。
いやまぁ、みんな部活はガチでやってるけど。ちなみにみんなバスケ部ね。
そんな自己紹介の間に私は胸元で縛っていたシャツを解いてボタンを全部閉める。縛ってた部分がくしゃっとなってちょっとダサいけど、中のキャミを見せるよりマシ。
ユキ兄守ってください。お願いします。いや、ホントに。
「モミジちゃんにカナデちゃんにサユキちゃんね。二見さんは名乗ってくれないの?」
うっぜぇ。
「……二海です」
「警戒されてるねー。まあ、ゆっくり仲良くなろうよ」
無視する。
私には心に決めた人がいるの!
とりあえずカラオケ店に移動。予約してあったのでそのまま部屋に。
流れで座らなきゃいけなかったからしょうがないけど、舌打ちしそうになるのを堪える。でも中学の時みたいに嫌な子相手でもニコニコするのはやめたからものっすごく不機嫌な顔を顕にしておく。
だって三年の先輩二人が私の脇をかためてるんだもん。
みんなが適当に曲を入れていく。私は入れない。こんな状況で歌う気分じゃない。
無理矢理デュエット曲を入れられてマイクを渡されるのを無視してスマホをぽちぽちし続ける。
あれ、始まったの私の十八番……。
「あ、朋ちゃん入れといたよ」
椛のやつ~!
歌う状況を作られてしまったので仕方なくマイクを手に取る。
私の歌はそんなにうまくない。普通に人並。
ちなみに普段のちょっとした歌声を聞いてる感じ、うちの家族を比べると越えられない壁の上にコト姉、下におじさん、その下にお姉ちゃんとおばさんと私が同じくらい。最後にユキ兄ってなる。
ユキ兄は音痴じゃないけど、すっごく微妙。口笛はめちゃくちゃうまいけど。
熊蜂の飛行とか何で吹けんの?
「ふふ」
「お、二海さんが笑った。俺の歌のおかげかな~?」
「ちげーし。俺のおかげだし」
勝手に先輩がはしゃぐ。自然に手が伸びてきたので、立ち上がってそれを防ぐ。
「飲み物取りに行く?」
「いいえ。ただ、今私に触れようとしましたよね?」
「そんなことないよ?」
「そうですか。ならいいんですけど。許可なく触れるなら、覚悟してくださいね」
「殴るの? 暴力はよくないなぁ」
「いいえ。法的手段に訴えます」
そう言って私は羽田野さんから貰ったお守りを見せる。嫌なことを断るときに使いなさいって、言い方と一緒に貰ったもの。実際に助けてもらう時はお金がいるけど。
「名刺?」
「朋絵、それちょっと見せて」
奏がそう言ったので名刺を向ける。パシャリと写真を撮り、QRを読み込む。そしてギョッとしたような顔に。
「先輩、その名刺多分ガチです。というか、一回その名前調べた方がいいです」
慌てて先輩が検索。そして同じようなギョッとした顔に。
あ、私を挟むようにしてた体を離した。
羽田野さんすごい。いや、この場合弁護士さんっていう職業?
「朋絵ぇ~。なんでこんな人の名刺持ってんの? 最強の男避けじゃん」
「え? 多用厳禁にされてるけど普通に貰った」
「いや普通に貰ったって、貰えるもんなの?」
あ、そういえば最初はくれなかったような……。
くれたのはユキ兄の闇を取り除いた後だ。たぶん、つながりのあるコト姉と、ユキ兄の元で同格になるから。
「……無理かもしんない」
「でしょうよ。CMこそしてないっぽいけど大手の事務所のトップじゃんその人」
「うそぉ?」
奏のスマホに表示された画面を見る。ホームページに乗ってる人の顔は、しっかり知っている羽田野さんの四角い顔。
羽田野さん、凄い人だったんだ……。あでもコト姉の実家考えたら当たり前か。
「まぁ、私は泣き寝入りするような女じゃないってことで」
暗にヤリ目は無理だぞと脅しをかけて、私はすとんと腰を下ろした。
その後様子を見て、男連中が露骨に私を避けるようになったのを見て、私は安心してカラオケを楽しんだ。
昔からの、というか、ユキ兄への想いを知ってる奏と沙雪はなんとなく事情を察してくれたみたい。ユキ兄と親戚で兄妹で一緒に住んでることやコト姉のことは知りようもないけど、私があの時の淡い想いを抱いたままひた走ってるってみんな思ってる。
本当は、頬にだけどちゃんとキスしてもらってから出てきたんだけどね。でもそれは、誰も知らない私たちだけの真実。
フリータイムとはいえ深夜帯料金に変更になるになる時間が切れるので、そのままお店を出る。
「じゃ私はこれで」
「あれ、朋絵はごはんいかんの?」
「いや行く必要ないでしょ。さっきので私をどういう目で見て接してたか分かった訳だし」
そう言って鋭い目を男子四人に向けると、三人が露骨に目を逸らす。
おろ? 三人?
「どーも西崎君は違うっぽいね」
「あ、いや、俺は」
「どうする? 私はあなたのモノにはならないけど、誠実な人とならごはんぐらいは一緒に行くよ? 二人っきりはダメだけど」
「朋ちゃん。それは小悪魔が過ぎるよ……」
だまらっしゃい。友達ならほしいんだよ、友達なら。
別に西崎君悪い子じゃないし。女の子の友達多いらしいから遊んでる風には見えるけど。
「じゃあ、いっしょに食べに行かないか?」
「おっけー。じゃあいこっか」
女子三人の呆れたようなため息が響く。
その日以降、私に手を出すのはヤバいっていう噂が立った。それでもお近づきにって子はいたけど、みんな誠実だった。
連絡先は交換してないけどね。




