↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/33

同じって難しい

 俺は、男としての一大イベントを迎えていた。

 彼女の家に挨拶に行く。

 彼女三人のうち二人は俺と親が同じになるので親父に対して「娘さんたちをください」からの「娘たちはやらん」を大真面目にやって白い目で見られた。

 何はともあれ琴葉の家である。余り人目につかないように注意しつつついたその家は、和モダンなこじんまりとした一軒家。

「何かイメージと違う」

「そうですか?」

「いや、人目の付かない旅行をなんとかできる人が住んでるなら豪邸とばかり……」

「うちは普通の中流家庭ですよ? 夏のお昼はお歳暮のおそうめんでしたし、スナック菓子も食べます」

「そう……なん……?」

 でもあの弁護士の人、すっごい親身だったのが気になるんだよなぁ。

 とりあえず琴葉がインターホンを鳴らす。女の人が応対して、玄関の鍵が開く。

「お帰り琴葉。そしていらっしゃい。未来の義息子と義娘たち」

「あれ、お母さんもう知ってるの?」

「大楽さん伝手にね」

「そのおとうさんは?」

 今の会話的に琴葉のお父さんの名前はダイラ。覚えた。

「客室で待ってる。早く行ってあげなさい」

「はーい」と言って消える琴葉に続いて、家の中に招かれて客室へ。

 中は畳敷きで、黒い重厚感がある木の座卓の向こう側に俺と似たような体形の年配の男性が座っている。

 外見のタイプは俺や親父と同じ。だが、威圧感が違う。

 娘を取られそうな父親のプレシャーかと思ったら違う。この場の琴葉以外が感じている、本物の男の大人としての貫禄だった。

 よく見れば背は俺より低そう。それなのに、大きく感じるほど。

 琴葉の紹介で、俺たちは名乗る。

「で、こっちがうちのおとうさん」

「琴葉の父の処辺大楽だ。よろしく」

 重い。こう、プレッシャーが腹にずんっってくる。

 え、これデフォルトなの?

「まあ座って」

「失礼します」

 俺が座ると、琴葉のお母さんが人数分のお茶を入れて持ってきてくれる。

俺は礼を言って茶が置かれるのを見届け、口をつけづに義父になって欲しい人を見据える。

「さて。話は聞いているが、私も一人娘の父親だ。法的な問題を潰したとはいえ、娘が三分の一の愛情しかもらえず悲しむ姿は見たくない」

「おとうさん!」

「琴葉。私は時野君と話している」

「……」

 琴葉が「むー」とむくれる。

 ははは。可愛いやつめ。

「では、だれか一人ではなく全員を選んだ理由を聞こうか」

 え? それ聞くの? というか、もっと責めなくていいんですか? お義父さん。

 俺は質問の答えを述べる。

 その答えは、あの夜あのバーで誰か選んでと迫ってきた三人に対しての答えと同じ。

 誰かだけを選べば、俺たちは完成しない。四人でやっと満足できる、欲張りな心になってしまったからだと。

「それが、君の、いや、君たちの答えか。未来は厳しいぞ? 世間の目も、経済的負担も」

「承知の上です」

「子供が出来て、その子が困るようなことになったら? それが琴葉の子だったら?」

「その時は」

「……」

「恥も外聞もなく頼らせてもらいます」

「一人でなんとかすると、四人で自立するとは言えないのかね?」

「厳しいのはもう分かってるんです。それまでは何とか頑張ります。でも、使えるものは何でも使います」

「ほう? 苦しくなったら切り捨てるのではないのか? 其方の二人は事実婚になるのだろう?」

 ちょっとイラっとした。香苗と朋絵を見捨てる? ふざけんな。そしたら琴葉が一番悲しむだろうが。

「土下座しようが、靴を舐めようが、泥水を啜ろうが子供たちと自分たちのためにあがきます。俺たち四人と、その子供たちが一緒に居るのが、きっと俺たちの幸せだから」

「それでも足りなかったら?」

「……」

「どうする?」

「……最後の最後まで考えて、多分何も思いつかなくて、みんな一緒に死んでいくかもしれませんね」

 俺の言葉に、三人の意思が重なったのを感じた。

「琴葉」

「なに?」

「何でこの子、というか四人ともそんなに覚悟決まってるの?」

「たぶん、私たちが三人で追い詰めて私たちも切羽詰まった状況が続いたから。もう掴んだこの手を放したくないの」

 琴葉の言葉に、三人で頷く。

「そうか……」

 大楽さんは茶を啜り、ぼんやりと天井を見つめた。

「君たち歪んでる自覚ある?」

「それは俺たちの共依存ともとれる心理状態がですか? それとも四人で一緒になろうと言うこの状態がですか?」

「ああ、どっちも自覚あるんだ」

「そうでなければ俺たちは出会わなかったし、誰もこれ以上幸せにはなれなかったと断言できます。互いが互いの歪みを愛おしく思っています」

「そうか。あくまで君たちの閉鎖的な関係を続ける、と」

「互いが互いを看取って、全員が仲良く息を引き取るまで」

「子供にもそれを強要するのかい?」

「いいえ? でも、一緒に居た方が幸せだと思わせてしまう自信があります」

「時野君。君、教師にあるまじき狂った思想を語ってるって自覚ある?」

「大いにあります。でもそれが、俺たちの幸せが行きつく先の一つです」

「他にも選択肢があると?」

「夢みたいな話ですけどいいですか?」

「どうぞ」

「お金さえなんとかなるなら、きっと毎日笑顔で、嬉しくて、どうしようもなくそれを皆に返したくなる日々が待っていると思ってます」

「そのお金はどこか当てがあるのかい?」

「ないです。だから多分、お金の無心をすると思います」

「うちは普通の一般家庭だ。出せるお金はない」

「それならそれで構いません。僕たちはどのみち幸せなままで居られますから」

「琴葉を切り離すと言ったら?」

「抵抗します。でもできることはほぼ無いと思うので、僕のことはどうでもいいんで三人が円満に終われる方法を見つけて下さい」

 俺がそう言うと、三人が「一番欠けたら駄目な人が欠けてどうするんだ」と咬みついてきた。

「琴葉。お前の幸せは彼の隣にあるのか?」

「そんなところにはないよ。四人の側にならあるけど」

「そっちの二人も一緒かい?」

「はい」

「私たちは一人欠けたら完成しません」

「そうか……」

 大楽さんは、それそれは大きなため息を一つついた。

「三人に平等に注がれる深い愛と自己犠牲。安易になんとかすると言わない慎重さ。最悪のシナリオも想定済み、か。……時野君」

「君、もうちょっと自分を大切にできない? じゃないと琴葉もそっちの二人も悲しむんだから」

「いいんですか?」

「正直思うところはある。ところで、うちを見てどう思った?」

 はて? 何の話だ?

「何か変だなーとかない?」

 ああ、そういう話……。

「失礼を承知で言わせてもらっていいんですね?」

「いいよ。何でも言ってごらん」

「琴葉の普段の姿と所作のギャップ。家の外観から見るより少々どころではない気がするこの部屋の調度品。あなたの一人の人間としてのプレッシャー。琴葉のためにすぐに動いてくれる弁護士がいる事実。その他諸々から多分そうなんだろうなーとは思ってますけど、琴葉にも隠しているようでしたのでちゃんと一般家庭のお義父さんにお願いするつもりで行きましたよ?」

「洞察力もあるか……。ちなみに羽田野さんの事務所調べた?」

「いいえ。相当優秀な方なんだろうなとは思ってましたけど、多分あの人僕の件に関わるような立場の人じゃないですよね?」

「そこまで分かってて、最悪を想定しつつ言わないのか……」

「だから無心はするって言ったでしょう? それが俺の出来る唯一の手ですから」

「本当の姿の私に挨拶をし直すとしたら?」

 俺は席を立って大楽さんの座っている座卓の角あたりに。指をついてきっちり土下座をして一言。

「僕たちはまだ未熟です。自分で自分たちを支えることが出来ません。どうか、僕らに手をお貸し願いたい」

「まあ、素直過ぎる気がするけど判断は間違ってないから合格にしておこうか。最初のはそれはそれで本気さが分かったし。というか、本当は当てがあるんじゃないの?」

「全員働いて狭い家でギリギリって考えてましたね。四馬力ならそれなりになりますし、それはそれで幸せだったんじゃないかと」

「やはり想定していただけで最悪のシナリオは回避できていたか」

「まぁ、僕に何があるか分かりませんから。生命保険は入ってますけど、三人とその子供にどれだけ残してやれるか……。それに受取人は琴葉になるから分配厄介だし」

 それはそうだと笑う大楽さん。

 琴葉はずっと変な顔をしているが、この子は実家のすごさを分かっていない。

 ほっぺをむにぃっとつまむ。

「なにふるんれふか」

「琴葉のおかげで、俺たちはゆったりと暮らせそうだ」

「どういうことですか?」

「琴葉。お前の実家、超が付く金持ち」

 目が点になる琴葉。

「え、でも私、好きな玩具全部買ってもらえませんでしたよ? お給料仕送りしてましたよ?」

「うん。琴葉に気づかせないための配慮だね。お金に囲まれて過ごすとろくなことにならないから。いい親御さんだと思う」

「えおとうさんどういうことなの?」

「あー、お前の住んでる中心街にデパートあるだろ?」

「うん」

「あそこの土地、土地だけだけど全部うちの」

 飲んでいたお茶を鼻から出しかけた。

 うっそだろおい。想定外だ。億超えるぞ。

「それで、籍入れたら琴葉にあげる」

 流石に噴いた。

「ちょっとそれはいくらなんでも貰い過ぎじゃあ……?」

「ああ、大丈夫大丈夫。あの辺の駅前の土地、ほとんどうちのだから。建物はだいたい刑部家が全部所有か管理してるからほったらかしでいいよ。働きながら生活していくならあそこで多分十分だから。というか、他まで渡すといっぱい税金で持ってかれるから私と妻が死ぬまで待ってくれ」

 絶句ってこういうことを言うんだな。

 と言うことはあのジャズバー、もしかして修治さんの持ちビルか?

「驚いてるところ悪いけど、その他いろんな地域の土地や、果ては海外にも所有している土地があるから私たちが死んだら全部琴葉の所に行くよ。あと刑部の名前でやってる会社が勝手に土地増やそうとして行くから適当にハンコ押すと増えるよ」

「あははははははははは……。嘘でしょ?」

「ホント。だぁいじょうぶ。だいたい全部羽田野さんみたいなプロに丸投げでいいから」

 遺産で揉めないようにしっかり子供に教育しようと思う俺だった。

 改めて処辺家に歓迎され、歓待を受ける。大楽さんは親父と違ってイケる口のようだ。酒の趣味も合う。

 男で語り合ってたら嫁さんたちから嫉妬の視線が飛んできていたが、こういうのも必要だから許してほしい。

 そう言えばの話。俺は琴葉がこの家に連れてきた時点で合格だったらしい。単純にどういう考えでいるのかを確認するためのテストだったそうだ。

「あそうだおとうさん」

「なんだ?」

「私たち……っていうか、朋絵ちゃんと紀行さんの関係がややこしいのは知ってるよね?」

「ああ。羽田野さんからだいたいは」

「人気のないところに旅行行きたいんだけど」

「んー? 島でも貸切るか? ほら、前に一回気分転換って無人島リゾート行っただろ?」

「もしかして小学校くらいの時? ストーカーされてちょっと不登校になった時の」

「たぶんそれだ。あの時斗真に相談したから、また確認しておく」

「トウマさんって誰?」

「伯父です。おとうさんのお兄さん」

 なるほど。

 しばらくゆっくりさせてもらって帰宅を始める。

 今後は俺と琴葉の入籍のタイミングや朋絵と香苗の養子縁組などをタイミングを計って迅速に行っていく予定。

 ちゃんとお金を払って弁護士の羽田野さんに手伝ってもらいながら。琴葉が絡んでいるから、お安くはしてもらえてるけど。

 とりあえず帰って。俺は軽く荷物をまとめて中心街へ。

 向かうのは、琴葉の家。

 不公平をなくすために来い&行ってこいと。そう言われた次第です。

 出迎えてもらって中に入る。

 朋絵とのことがあるのでしばらくは全員と表面上はプラトニックに。することは平等に。隠していても、性交渉や前戯は禁止。

 この辺のことがあるから琴葉の家に上がり込む許可は大楽さんから貰っている。

 今更いるか? と聞かれたが、一応聞いておいた方がいいと思って。

 初めて見る部屋着の琴葉は、なんというか芋臭い。ヨレヨレのジャージ姿。

「普段それなの?」

「楽ですよ?」

「そりゃそうだけどさぁ」

 とりあえず、なんとはなしにダイニングに。そう思ったら、手を引かれて入ったことのない扉の向こうに。

 案の定そこは寝室で、ゲーム機とPCが鎮座していて、マンガが散乱していて、フィギュアが飾られていた。

「やっぱりこっちの子か」

「嫌ですか?」

「ううん。こういう部屋も考えないとな」

「はいっ」

 何とはなしに琴葉はゲーム機をつけて、でもずっと床に座った俺を見てそわそわしている。

 まぁ、普段できない、というかしてこなかったから触れ合いたいんだろうな。

「来たいか、来てほしいか、どっち?」

 琴葉は俺が移動するのを選んだ。

 部屋の隅では座卓が置かれ、ゲーム機とPCが一代のモニターに繋がれているらしい。

「これどっちのモニター?」

「共用ですよ」

 指定されたところに座り、俺の胡坐の間に琴葉がおさまる。

 もう昔の俺じゃないから、遠慮なく堪能させてもらう。

 ゴリゴリの腹筋を撫でながら、腕で下乳をたわませて遊ぶ。

「……ノーブラ?」

「楽ですよ?」

「いや、言いたいことは分かるけど崩れない?」

「……気にしたほうがいいかな?」

「伸びて垂れるって聞くけど」

 一回、香苗あたりを泊まらせてレクチャー頼んだ方がいいかな……。

 何と言うか、体のケアとかそういう方面の知識が疎い。

 それでも香苗や朋絵と匹敵する肌と髪と言うのはどういうことなのか。

 琴葉の頭の匂いをいっぱいに吸い込みながら、琴葉がゲームをするのを眺める。

 二人でできるのもあるらしいが、コントローラーを買っていないらしい。

 だから俺はゲームで遊ぶ琴葉で遊ぶ。

 別にゲームの邪魔をしたりはしない。腕で下乳をちょっと持ち上げて重いなぁって思うだけだ。

「揉む?」

 すごく魅力的な発言だが、それをやると朋絵に不公平だからね。

だからタプタプだけさせて。

しばらくそうしていると画面に通知らしきものが映った。

「あ」

「どしたの?」

「友達が、ログインしたみたいで」

「ふーん。そういうの分かるんだ」

「本当にやらないんですね、ゲーム」

「うん。あんまり興味が無かったからね。多分俺はこうやって琴葉に触ってる方が楽しい」

「やん」

 服の裾から手を入れて魅力的なお腹を撫でたらくすぐったかったのかなかなかいい声が出た。

 うーん。改めて触って分かる腹直筋。

「えろい」

「お腹がえろいんですか?」

「あ、口に出てた?」

「はい」

「俺、琴葉のお腹に惚れたとこあるから……」

「そうなの?」

「そうだよ」

 正直抱いてみたい。でも朋絵を我慢させているから我慢我慢。

 代わりにお腹と腿を堪能する。

 また画面に通知。こやんの? と書かれている。

「いまの、まさか何かお誘い?」

「んー。友達が。喋ろうって」

「行かないの?」

「今は紀行さんがいるから」

「俺は別にいいよ? 喋れって言われたら喋るし」

「あー……じゃあ、喋る?」

 琴葉がヘッドセットを俺に付けてくれる。のはいいのだが、おっさんに猫耳ヘッドホンはキツイ。

 琴葉がイヤホンをセットしてスマホを操作。

「やほー。……。うん。スマホ。あのー、人呼んでいい? ……。……うん。まさかのその人。今背もたれになってる」

「……!」

 盛大に音漏れして何か聞こえた。

「うん。私のヘッドセットつけてもらったから。いい? ……じゃあ呼ぶね」

 琴葉がコントローラーを操作するとヘッドセットに音の出力が切り替わる。そのまま操作音がいくつか鳴り、話し声が聞こえた。

「来た」

「来た?」

「来た!」

「ほら、紀行さん」

「こんばんは」

 そう言うとしばらく静寂があったのち。

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ‼」

「うわびっくりした」

「みんなダメだよ。紀行さん、ネットミームとかも分んないから」

「あ、そなの?」

「あと完全に陽の人」

 何故息を潜めたように黙る。

「琴葉、俺、どうしたらいい?」

「暇だったらまたたぷたぷしてて」

「おい琴葉おまえどこタプタプさせてる?」

「わたしのむだにおっきいおっぱい」

「やっぱりかこのやろう!」

 元気な子たちだなぁ。

「というか自己紹介もまだだったか。俺は時野紀行。琴葉の婚約者だ」

「琴葉婚約まで行ったの⁉」

「コトちゃん今度お祝いに飲み行こう!」

 ワイワイと騒がしい子たちに名前を教えてもらって、しばらく会話に耳を傾ける。

 人の作ったグループに入った時は空気感を読むのが大事だ。いきなり話さないとノリ悪いってところもあるし、逆に話すと何コイツってとこもある。話題の傾向でなんとなく察せるが。

 ここのグループはどちらかと言えば後者寄り。喋ってもいいけど、変に喋ると多分俺では話題が噛み合わない。

「彼氏さん彼氏さん」

 この短時間で俺の呼び方は彼氏さんに統一されていた。

「なんだい?」

「琴葉のどこが好きなん?」

「どっちの話題がいい? 外見か内面か」

「じゃ内面で」

 琴葉の魅力は外見だけではない。意外と行動力があるし、おどおどしているように見えて案外度胸がある。俺たちのことなら色々と飲み込んでくれる懐の深さもあるんだけど、なんというか、ほっとけない感が消えない。

「そういうところが可愛いと思う」

「割とガチな回答が来てビビった」

「じゃあ外見は?」

「腹」

 即答である。

「腹?」

「あー……」

「花咲音どした?」

「いや、ナッチーは大学からだから知らんと思うけど、コトちゃん陸上ガチだったから腹筋バッキバキだったんよ」

「琴葉おまえ同志かよ! 筋トレ誘えよ!」

「私走り込みと体幹トレーニングしかしてないよ。夏葉ちゃん腕立てとかベンチプレスでしょ」

「あー……」

「どしたの紀行さん」

「いや、あいつと合わせたら相性良さそうと思って……」

「あいつ……。あー……」

「なに男紹介してくれんの?」

「んー。機会があったらね」

「で? お腹のどこがいいの」

「え? えろい」

「え胸じゃなくて?」

「おっさんはね、胸や尻で騒げなくなるの。あと琴葉は腹出ししてるとスポーティな印象になるからマジカッコイイ」

「いやでもコトちゃん腹出しとか無理でしょ」

 あれ、琴葉、あの服の事言ってないの?

 恥ずかしい? そっか。

「コトちゃん見せて。イケイケなコトちゃん見たい」

「写真撮ってないよぉ」

「今着替えて撮ればいいじゃん」

「むー……」

 むくれながらクローゼットを開ける琴葉。って俺が居たまま着替える気か?

「琴葉出るぞ俺」

「……後ろ向いててくれればいいよ。ちょっとでも一緒に居たい」

 開いたジャージの胸元のシャツがばいーんってなっている。俺は大人しく視線を画面に固定した。

 衣擦れの音が聴こえて、琴葉が着替えていくのが分かる。

「紀行さん撮って」

 はいはい。

 俺は自分のスマホを構える。琴葉にポーズを指示して一枚。

 琴葉の側によって腰を抱いて、インカメで一枚。

「ツーショット?」

「あれ、嫌?」

「ううん」

 そうだよね。案外とノリノリだったし。

「でもそれも下さいね」

「両方見せてあげれば?」

「……ツーショットは恥ずかしいです」

 琴葉が着替えて、さっきの体勢に戻る。

 また琴葉の腹筋を愛でつつ下乳を弄びながら、姦しい女子の会話に耳を傾ける。

「えこれで外でたの? コトちゃんが? 嘘でしょ?」

「意外と胸見られなかった」

「ああ、うん。これは私らみたいな陰の者は目ぇ逸らすわ」

「やっぱりこんな格好してたらこやぁんっ」

 あやべ。ぐーって持ち上げてたらばるんって滑った。

「オウなんだいまの声」

「紀行さぁん」

「ごめんて」

「なにあがった!」

 そんな感じで、夜は過ぎていく。

 ゲームを終えて、のんびりまったりと二人でイチャつく。

 琴葉のベッドで並んで寝転んで、互いに欲求不満が募らない程度のいろんなところを触り合って愛情を確かめる。

 だが俺たちの状況は現状そうした方がいいからというもの。互いに性交渉をしたくない訳ではないので、枯れかけている俺はともかく琴葉にはやはり我慢をさせることになってしまう。

「んうぅー……」

「ごめんね。我慢させて」

「私たちが決めたことだから。朋絵ちゃんのためだから」

 琴葉がきゅーっと俺の胸元で丸まる。その姿はまるで大きな猫を彷彿とさせた。

 包むように抱きしめて、琴葉の頭頂部に口をつけてふーっと息を吹きかけた。

「んぁっ。なんかそれゾクゾクする」

「まぁ、この辺シャワーとか当たると変な感じがするところだからな」

 個人差はあると思うが。

 琴葉がずりずりと上がってきてその張り詰めた胸元が目の前に。そして目の前が真っ暗に。ボディソープの香りと琴葉の匂い。ただ、ジャージから香る琴葉の体臭が物凄く濃い。

 臭いんじゃない。濃い。そこは間違えてはいけない。

 少し体を離した琴葉が上まで閉めていたチャックをジーッと開けていく。お腹の所まで開けて、大きな丸みとその下の美しい筋肉の肌色がしっかり見えた。

 さっき触りまくってた時に、着替えた後シャツを脱いでたのは知ってるんだけどさ。

「直ジャージはどうかと思うよ?」

「うん。擦れてちょっと後悔してる」

 ああ。まぁ、しっかり浮いてるしな……。気にしたら気になるから気にしないようにしてたけど。

 ちょっとだけさきっぽだけ弄ってとせがまれたけど、鋼の意思で断る。

 ここで流されてしまうのは簡単で、どれだけ甘美かと思う。

 でもそれをしたら、多分互いに後悔する。

 みんなでって誓ったのだ。俺と琴葉を信じて、二人が送り出してくれたのだ。

 それを裏切ることは俺にはできない。

 代わりに、朋絵が社会人になったらみんな壊れるくらい愛し合うって決めている。

 朋絵には、そこからやっとお付き合い開始ねって言ってあるけど。

 だから俺の抱くこの男のどうしようもない欲望を皆は知らない。

 香苗あたりは聡いから知っているかもしれないけど、知らないふりをしてくれている。

 我慢が出来なくなった琴葉が俺の頭をその豊満すぎる胸に抱え込む。

 青い血管がうっすらと見える肌に口と鼻を塞がれる。埋まっているのは谷間の奥なので息が出来ないわけではないが、知っている感触と比べると少し硬いような印象を受ける。

 まぁ、胸の柔らかさなんて体質とかもあるだろうしな。

 というか、ボディケアなんかも完璧にやっている香苗と比べて少々硬いイメージを受けるというだけなので、別に気にすることではないのだが。十分に柔らかい。

 とりあえず息を吸い込んで、琴葉の匂いを堪能。

 安心するってことはやはり俺は彼女が好きなのだろう。今更疑う余地もないが、こういうところでまざまざと見せつけられる。

 それがまた、嬉しかったりもするのだが。

 三人にそれを同じくらいしっかり感じることで、本気で俺が三人を愛していると感じられるから。

 琴葉の胸を揉まないように持ち上げてどける。

 揉むとね。なんとなく歯止めがきかないような気がするから。

 谷間から顔を上げて琴葉と視線を合わせる。

 あー、なんだろう。

 琴葉、すっごく嗜虐心に満ちたような蠱惑的な表情をしている。

 一瞬、ウツボカズラに入ったカエルが浮かんだ。

 これあれかな。食われるか共生関係になれるかはお前次第だぞっていう暗示かな。

 なんとなく、つかまえたって言われた気がした。

 俺もずりずりと動いて琴葉の胸から抜け出す。

 名残惜しいし、今考えていることを考えたらやはり俺はどれだけ口で言ってても意志が強くはないのだろう。

 琴葉と目線を合わせて、上唇を啄んだ。

「いいの?」

「二人。特に朋絵には何か報いる方法を考えないと」

 そう言ったら、琴葉も俺と同じようにしてきた。

 二人で額を合わせて、笑い合う。

「私も、言い訳考えなきゃ」

 そして二人で、眠りに落ちた。


 朝起きて、抱いているのがあまり馴染みがない感触で、でも匂いにすごく安心して琴葉の家で琴葉と眠りについたことを思い出す。

 同時に起きたらしい琴葉が体を起こし、うーんと伸びをした。

 圧巻である。

「なに?」

「香苗も大きいけど、琴葉はさらに上をいってるなと」

 あと香苗は身長もあるからね。腕とかが埋まると分かるんだけど、ぱっと見では実サイズに比べてすっきり見える。

 琴葉が目を閉じて寝転んだままの俺の顔に唇を寄せる。

「こーれ」

 俺は人差し指でその唇を止める。

「いや、口に含んで舐めるなよ」

 変な気分になるだろうが。

 琴葉の口から指を引く抜き、拭く。

「あ~」

「あ~ってなんだ、あ~って」

「代わりにもうちょっと舐めさせて」

「代わり?」

 琴葉の視線が俺の生理現象で膨らんでいる股間へ。

「ああうん。分かったしそういうプレイがあるのは知ってるけど、普通嫌がるもんじゃないの? というかまだ琴葉処女だよね?」

「私は興味ある」

「琴葉って……、変態?」

「成人コンテンツに染まったオタクはね、もっとすごいのネットで見てるから。舐めるくらい忌避感ないの。二次元は何でもかんでも自由だから」

「俺、普通のしか見ないから分かんないや……。ちなみにしてほしいことってどれくらいのこと?」

「……」

 おいなぜ黙る。

「お尻の開発」

 あー、まぁ、あるね。本当に気持ちいいのかどうか知らんけど。

「紀行さんの」

「俺の⁉」

 怖い怖い怖い!

 お尻の穴がきゅってなった!

「ほじりながらしこしこしてメスイキさせてみたい」

 そんな初キッスで身もだえする女の子みたいな表情と仕草で訳の分らんことを言わないでほしい。

 あとメスイキって何。

 男性が女性のように。はぁ。あ、射精しないこともある。はぁ。ああ、前立腺をお尻から直接刺激することで快感が。なるほど。

 理屈は分かったけどそれだいぶアブノーマルだよね?

 俺、精々が縛ったりだと思ったよ。

 果たして俺は琴葉の性癖を受け止めることが出来るのだろうか。心配だ。

「あとコレ」

 そう言って琴葉はスマホの画像を見せる。

 刺さってる。先っぽに。なんか、細い小さなボールが連なった金属棒が。

 血の気が引いた。

「あの、お付き合いの仕方を考え直してもいいですか?」

「え、お別れ……?」

「捨てない捨てない。ずっといっしょだから。でもちょっと夜の生活は相談させてください。あの、子供も作るしいっぱい愛すしイチャイチャも望むだけするんで快楽を得るだけのセックスは控えさせて頂けると……」

「じゃあ紀行さんの開発は諦める」

 よかった。

「女の子もいろんな穴があるから」

 ん?

「乳首以外はだいたい何とかなるし」

「俺に異常性癖はないよ⁉」

 たぶん。あと乳首の穴って何。乳腺? 二次元ってそんな所まで挿れんの?

「だめ?」

「体に負担がかかることはやめよ?」

「好きな人にめちゃくちゃにされたいって思うのはダメ?」

「それ意味合いが違うよね? めちゃくちゃになるくらい愛されたいって意味だよね普通。物理的にめちゃくちゃにしたらダメでしょ」

「じゃあ二本差しとイラマで我慢する」

 それならまぁ……。あんまり無理やりはしたくないんだけど……。

とりあえず、解禁されるまでの残り六年かけて矯正しよう。

個人の趣味趣向をとやかく言いたくは無いのだが、流石にこれは個性とか言うレベルじゃない。外部、つまり俺に直接的な被害が及ぶから。

男なのに後ろにも前にも突っ込まれるのはいやぁ!

「とりあえず朝から濃い話してないでメシ食べよう。あーでも冷蔵庫の中身が無いのか」

 琴葉の家の冷蔵庫は相変わらずすっからかんだ。

 昨日の晩飯は、琴葉が作れないなら俺が作りたかったのだが、そもそも調理器具すらこの家にはないので断念したのである。

 食べたのは出前のピザ。

 前までの関係性ならキレた時限定だった。だが今は婚約者と言う立場。

 流石に。流石に、俺は口を出して良いと思う。

「琴葉」

「なに?」

「うち来ない?」

「朝ごはん食べにですか?」

「いや、それもだけど、一緒に住まない?」

「え?」

 琴葉が固まる。

「いいの⁉ いいの⁉ いいの⁉」

 襟首掴んで揺さぶるな。

「一応大楽さんに許可取ってからな」

 俺がそう言うと光の速さでスマホを操作する琴葉。

 静かにコール音が鳴って、大楽さんは出ない。

 この部屋、窓が無いから気づかなかったけど、スマホに表示されている時間は五時前。

 下手したら起きてないなぁ。

 十回コールしなおして、電話の向こうの人が応答する。

「おとうさん私紀行さんと同居するけどいいよね⁉」

 しばらく間があって、琴葉がスマホをハンズフリーに。

「あー、紀行君?」

「おはようございます。朝早くからすいません」

「いや、いいよいいよ。大事な話っぽいし。でなんでこんな時間からそんな話に?」

 俺は琴葉の食生活が心配過ぎることを説明する。

 大楽さんは、知らなかったらしい。

「紀行君」

「はい」

「君が琴葉を悪いようにしないのは分かってるから言うんだけどさ」

「はい」

「娘に何してもいいからご飯だけはしっかり食べさせてやってくれ」

「じゃあ連れてっていいんですね?」

「引っ越しの手続きはこっちで進めるから、もう連れてってくれないか?」

 そうしたいのは山々だが部屋がもうない。

 寝るスペースだけは探せばリビングのソファなり、その後ろのスペースに布団を敷くなりすればあるので、俺の部屋を明け渡す気でいるのだが。

「じゃあ家買っちゃう? 出すよ? いやなら無利子で貸すよ?」

 いきなりスケールデカくなったな。

 大楽さん、琴葉が家の事情知ったから自重しなくなったんだな。

 というか、無利子で貸すって言っても大楽さんの考えてるレベルって俺多分返済しきれないよね。そしてそれはそのまま琴葉に相続されるから、婚姻関係を結んだ次点でその借金消えるよね?

「斗真に物件探すように頼もうか?」

「ちょっっと待って下さい」

「どうしたんだい?」

「一般人には荷が重いです」

「こっちも一般人のフリしてたから言いたいことは分かるけど、今後のことを考えたら家は考えた方がいいよ? 今の時点で家に入りきれないからそういう話になってるんでしょ? 子供できたらどうするんだよ。一人ずつって考えても三人だよ?」

「ま、そうなんですけどぉ」

 お金がきつい状況で札束で頬を殴られたら頷くしかないのである。

 俺の意地を張っている場合ではないのだが、家を買え、いや、この場合は買ってやるか。そう言われて素直に二つ返事でお願いしますと言えるだけの図太さは俺にはない。

 というか大楽さん。結婚を認めてくれたのは諸々考えて娘のためと思うとしても、流石に次の日に別件で相談して解決策に家いる? はどうかと思う。

 なんというか、俺の事信用しすぎな気がする。

 その辺聞いてみると、まず琴葉のことを教えられた。

 処辺琴葉は美人である。それは疑いようもない事実である。その子供時代が、いかに可愛らしい存在であったかは語る必要も無いだろう。

 その結果が、男子の不躾な目線。女子からの妬み。ストーカー被害やいじめ。

 要するに、男なんて好きになれるはずもない琴葉が選んだ相手なら、無条件で認めるつもりだったのだ。この人は。

 もちろん対策はしていた。俺の身辺調査はしっかりと行われていたらしい。それも、俺が自分の闇から救い出される前から。

 多角的に情報を精査して、問題はあるが目をつぶれる範囲と判断されたらしい。

「流石に三人って聞いた時は面食らったけどね」

「すいません。ほんと」

「まぁ三人の方がいいって言うのも事実みたいだからね。羽田野さんからの後押しもあったから、何も問題がないんだろうっていうのも分ったし」

 あ、あの人根回ししてくれてたんだ……。

「とりあえず家はまた相談するとして、琴葉のことよろしく頼むよ」

「分かりました。それは必ず」

 別れを告げて通話を切る。

 とりあえず琴葉を連れて、電車に揺られる。

 ぴったりと、肩を寄せながら。

 家に着いて、香苗と朋絵の二人が出迎えてくれる。

 しっかり玄関を閉めると、二人が琴葉から俺を奪う。

 主観で自分を奪うって言うと何か変な感じだが、まさしく奪うと言う表現の他に思いつかなかった。

「ただいま」

「おかえりユキ兄」

「おかえりなさい」

 二人の唇が頬に触れ、俺もそれを返す。

「……」

 なにか言いたげな琴葉だが、言いたいことは分かっているし言えないことも分かっている。

 きっとそれはいいんですかと聞きたいが、昨夜俺が我慢しきれずに唇にしてそれをやり返しているので言ったら言い返された時に何も言い返せないとでも思っているのだろう。

 かく言う俺も同じ気持ちである。

 まあ、平等にすると誓った手前、ちゃんと申告するんだけど。

「二人に謝らなきゃいけないことがある」

「なに?」

「我慢できずに琴葉とキスした。唇に」

「それはどっちから? コト姉から?」

 コト姉?

「いや、俺から」

「ふーん……? じゃあ、んっ」

「まぁ、そうなるよなぁ……」

 この結論は昨日の時点で達していた。そして、回避するすべがないことも。

 仕方なく、俺は朋絵と唇を重ねる。

 がしっ。にゅるっ。

「んぐっ⁉」

「はむ、ちゃぷ……ぁむ」

 これは予想していなかった!

 下手に暴れて舌を噛むことを恐れた俺は、たっぷり蹂躙されて放される。

 去り際にちゅっと軽く触れるようにキスされて、解放された。

「ふふふ。これでもう隠れてなにかしようって気は起きないよね?」

「わかったよ。反省するから許して。もうキスしないから」

「キス……しない……?」

「うん。こうなるのを予測していなかった俺の落ち度だ。鋼の意思で我慢する」

「いや、ユキ兄。して? むしろして? ただ平等にしてくれればいいから」

「そうしたら多分、俺は朋絵と一線を越える。今その事実があるのは多分まずい。だからもうキスしない」

 俺の言葉に三人が絶望したような顔をする。

「朋絵ちゃんなんて余計なことを!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「……」

「はっ⁉ 紀行さん! 私ディープキスはしてもらってませんよ⁉ ここは平等にじゃないですかっ⁉」

 うんまぁそう言うと思ってた。最後だから楽しむといいよ。

「んっ……じゅる」

 琴葉のは……、キスって言うより唾液の交換な感じがする。

流し込まれて、吸われて、また流し込まれて。溜まった唾液をコクコクと嚥下される。

ぷあと放した表情はやけに恍惚としているが、唾液なんてそんな美味いもんじゃないだろうに。

だが、押し付けられた腿のせいで自分の状態を痛いほどに理解してしまう。

だが、今しがた誓ったところだ。ぐっと飲みこんで我慢する。

一瞬、琴葉が吐き出したものを全部飲み込んでくれるの想像したが、すぐに振り払った。

俺の嫁さんで唯一主張控えめな最後の一人を見れば、既に俺の袖を掴んで引っ張っている。

 俺への想いを自覚して以来、スキンシップ控えめになってしまった香苗だが、頬にキスくらいならしてくれる。だが基本的には待ち姿勢なので、今回も俺からいかないと事に及べない。

 まあ、してほしいって主張はするんだけどね。

 唇を重ねて、自分から舌を入れる。

 香苗とは、なんというかねっとりしている。朋絵ほどの乱暴さはない。琴葉ほどの変態さもない。ただただ求められてるっていう感じが強い。

 ものすっごく普通。でもいつまでたっても止めてくれないので適当なところで切り上げる。

 文句は言わないのだが、こう「ぁっ」ってか細い残念そうな声を上げて少し追い縋ってくるのがなんとも言えない。

 だがきっぱりとやめる。

「朋絵の大学卒業まで我慢」

 不満声が二つ。不満な視線が三つ。追い縋る手は、六つ。

「ユキ兄我慢するから! 一日一回で我慢するから!」

「紀行さんご無体ですぅ!」

「紀行さん……」

「……そんなにしたいもん?」

 たしかに充実感や幸福感はあるが、別に毎日しようって思うことは無い。

 俺からすることもほぼ無い。返礼として頬にしたことを除けば、というか、完全に自分からしたのは昨日の琴葉にしてしまったのが唯一ではなかろうか。

「したい!」

「したいです。そりゃあもう」

「……だめ、かな?」

「熱意高くない? たかだかキス一つで」

 そう言ってあきれる俺の袖を引く手が一つ。香苗である。

「どったの?」

「紀行さん。キスは美容にもいいの。最近やけに肌艶がいいのもそのせい」

「んなアホな」

「……。これ、データ」

「あー……。ホルモンバランス的な話でガチなのか……。え、胸もデカくなんの? ホルモンすげぇ」

 その言葉にキュピンと反応する比較的貧乳枠一名。

「ユキ兄やっぱりキスはしたほうがいいって」

 隣で赤べこみたいになる琴葉。

「でもしたいだけでしょ?」

「それはそう」

「でもやる気が出ます!」

 琴葉の意見には一理ある。なんとなく、がんばろうと言う気になるのは事実。

 俺はスマホをぽちぽち。調べもの。

「ああ、うん。やっぱり唇へのキスは今現状はしちゃだめだね」

「何で⁉」

「性感へのアプローチになるから。癒しとか、愛情表現ならむしろ頬へのキスの方が効果が高いらしい」

 AI調べだから鵜呑みは出来ないけど、ここで巻くには好都合。

 本来ならここからソースを参照したり新たに検索したりするのだが、自分に都合のいい状況かつこれ以上突っ込んで唇への方がいいってなると面倒くさい。

 と、思ったら琴葉がスマホをぽちぽち。

「くっ……。どれだけ調べても頬意外に誘導できる資料がないっ」

「諦めろよ琴葉」

「もっとじゅるじゅるしたいです!」

「生々しい表現をするなこのド変態」

 もう俺の中で琴葉=変態の図式が出来上がってしまっていた。

 それだけインパクトが強かったんだよ。男の方に刺すアレが。

しかも前だぞ前。どんなことされても萎える自信があるわ。

「とりあえず頬で我慢してくれ。ほら」

 そう言って俺は三人の頬に順番に唇をつける。

 若干二名むくれているが、納得したようだ。

 ……あれ? キスをやめるはずだったよな? いつの間にかどこにキスするかの話になってる? もしかして誘導された?

 いや、違う。なんだかんだと理由をつけても、俺も心ではしたかったのだ。

 とりあえず俺たちのやり取りを見ていた母さんは琴葉の分も用意してくれているらしい。

 だが、うちの椅子は五個しかない。とりあえず俺がソファに移動すると、琴葉と朋絵がついてくる。

 朝飯を食べながら琴葉を家に呼びたい旨を説明。やましい話でも普通に通るのだが、普通に食生活が心配で住まわせたいだけなのですんなり通る。

「あんたどこで寝るのよ」

「布団買って後ろのスペースで寝る」

「琴葉ちゃんとあんたの荷物は」

「とりあえず必要なものだけ持ってきてもらって俺の荷物はそのままかなぁ」

「というか布団買ってくるの? 大変じゃない?」

「んー。中心街で売ってるのは知ってるから。でも通販かなぁ」

「届くまでどうすんの」

「ソファで寝る」

「体痛めるわよ。三人の布団で順番に寝れば?」

 おい滅多なこと言うなこのクソババァ。

 それに今日日通販で三日もかからんだろ。不公平が出るの確定なのにどうすんだ。

「順番が回るまで一緒に寝ればいいじゃない。というか、布団買わずにずっと」

 母さんを讃える声が二つ。賞賛の目が三つ。

「朝食の席で言いたかないが俺も男だ! 我慢できなくなったらどうする!」

「トイレで発散しなさい」

 まぁ確かにトイレットペーパー使ってる限り詰まらないらしいけどさぁ。あでも風呂はダメ。タンパク質がお湯で熱凝固してホントに詰まるから。

 というか、真顔でそういう話を言うなよ母さん。同じ女でも姉貴とは違うんだぞ!

 というか、琴葉が反応しそう。

「出すなら下さい。飲んでみたいです。かけても欲しい」

 ほら。

 というか、小声だけど相当なこと言ってるからな? お前ちょっと自重しろ。処女だろ。ホントかどうか疑わしいぞ。

「私ほら、オタクだから」

「オタクでも変態じゃない奴をちゃんと俺は知ってる。琴葉はただただ変態……というかなんかこじらせてる」

 あと朋絵に悪影響だからホントに自重しろ。

「コト姉。そのまま口の中で出されて飲むのはわかるけどかけるって何」

「朋絵ちゃん。ぶっかけっていうジャンルがあってね」

「お前未成年になに語ろうとしてやがる」

 俺は琴葉の頂点に軽く拳骨を落とす。

「あ痛ぁい。DVぃ」

「常識考えろ。張っ倒すぞ」

 頬を両側からつまんでむにぃっと摘まみ上げる。気持ち強めに。

「いひゃいいひゃい」

「おば……おかあさん! ユキ兄とコト姉がイチャつく!」

「朋絵ちゃん。そういうのは自分でなんとかするものよ。あと琴葉ちゃんは書類上とは言え紀行と籍を入れる正妻でしょ? その辺は自分が率先して不平等にならないように調整しなきゃ」

 一人の妻、一人の母親としての貫禄を見せつける母さんが強い。

「なんでこんな特殊な家庭環境にアドバイスできんの?」

「後宮モデルにしたドラマとか見てるとその辺大事だなって分かるわよ」

 へー。そうなんだ。

 朝飯を食べ終えて、みんなでゆっくりまったりと。

 でも、ソファに座っていると俺の側は二か所しかないのでどうしたものかと考える。

 香苗がね。朋絵がいると強く出れないから。

 だから今も、むこうのテーブルに着いて大丈夫そうにじっとしている。

 どうするかなぁ……。

一人膝っていうのもね、ちょっと。彼女たちのサイズ的に。

あと絶対喧嘩になる。いや?

「香苗」

「はい?」

 席を立ってとことことやってきた香苗を膝の上に誘う。

「ちょとそれお姉ちゃんズルくない⁉」

「香苗ちゃんだけずるい!」

「あの、いいよ。紀行さん。朋を座らせてあげて」

 離れて行こうとする香苗の手を俺は掴んで離さない。

「香苗」

 ちょっと強めに命令。

 おずおずと、香苗が俺の膝に腰を下ろす。ただものすごく遠慮している。

「今から俺の膝はしばらく香苗専用にする」

「えっ」

「なんで!」

「むー」

 俺はため息をひとつ。

「あのねぇ。なんで香苗が向こうで食事してたと思うの。二人に遠慮したからでしょうが。香苗は自分で我慢しちゃうから、俺が甘やかさなきゃ公平にならない」

 みんなを平等に扱うのが俺の責務だが、あまりにも公平性を欠くなら調整しなければならない。

 今はそういう時だ。

 脇の二人の髪を弄びながら、香苗に強く言って俺に抱き着かせる。香苗と朋絵は薄着、というか比較的露出の高い部屋着なので、胸元のキメの細かい綺麗な肌が目の前に。

 それを俺は、唇で弄ぶ。

「ん……っ」

「ちょっとユキ兄それはお姉ちゃん優遇すぎじゃない?」

「二人がちゃんと自制して互いを思いやれるならこうはなってない。朋絵は香苗に甘えすぎだし、琴葉は年長者としての自覚を持て。香苗のポジションは本来琴葉がやるべきなんだぞ?」

 そう言いながら香苗のデコルテの、押さえつけられて盛り上がって柔らかくなりだしているところを啄む。

 香苗はするのよりされる方が好きだ。だがあのクリスマスの日に見えた嗜虐性は皆無であり、ただただ俺のすることを受け入れようとしてくれているのが見て取れる。

 まぁ、これが我慢したご褒美と言うか我慢させたお詫びになるのかは分からないが。

「香苗。してほしいことあったら言っていいからね。叶えられるかどうかは別として」

「もういろいろ貰ってるから大丈夫だよ」

 欲がないなぁ。

 二人と違ってガツガツ来ないから、どうしてもこっちから手を出したくなるのが難点だ。

 あむっと柔らかい部分を食む。

「っ」

「あ、嫌だった?」

「嫌じゃないんだ、け、ど……」

 香苗が耳を寄せる。

 ああ。なるほど。我慢できなくなると。じゃあやめとこうか。

「だから、たまに。ね?」

 あっ、ハイ。

 この子本質的には捕食者側だわ。ただ完全待ち型だけど。

うん。完全に女郎蜘蛛だね。俺多分、既に網にかかってる。

ちなみに朋絵はネコ科かな。多分チーターとかライオンあたり。スピード&パワー。琴葉はちょっと違って、あの子は多分元来捕食者的な立ち位置じゃない。多分、本当にただ変態なだけ。いろんな興味が勝って今はああなだけで、落ち着けばまた違った面が出てくると思う。多分。

しばらく香苗を堪能して、もういいよと言いたげに苦笑した香苗が俺の頬に口づけて膝から離れる。

それを見た朋絵が素早く俺の膝を確保して真っすぐに唇を狙ってくる。

「だからそれはダメだっていっとろうが!」

「お姉ちゃんだけズルい!」

「じゃあ香苗が我慢しないように立ち回ることだね」

 むーと唸った朋絵が顔面に胸を押し付ける。

 ふにゅっとした比較的つつましやかな感触が鼻先で潰れた。

 だからそういうのをやめなさいっての。

 朋絵を退ける。すると今度は琴葉が。

「あんまりしつこいと寝床の提供香苗にしか頼まないよ」

 ピキッと固まった二人が大人しく隣に着席する。

「そんな一緒に寝たいか?」

 俺寝相悪いから抱き枕コース確定だし。

「だって本当に一緒に寝たことあるのはコト姉だけじゃん」

「あ、そういえばそうか。でもなら琴葉はもう別に……」

 そこまで言って琴葉が頬を染めて腿をこすり合わせているのに気が付いた。

「何その反応。え、俺もしかしてなんかした?」

「いやー、そのぉー……。すごかったです」

 ちょっとまてホントに何した就寝中の俺!

「俺やっぱ三人と寝るのやめるわ。意地でもソファで一人で寝る」

 そんなぁ! という声が二つ。

 いやいやいや。寝てる間に何するか分らんのに一緒に寝てられるか。

 自分が怖いわ。

「ぜってー一人で寝る」

 結婚しても一緒に寝ない!

 俺の中で新居の最低限の部屋数が勝手に決定していく。

 あと早急に抱き枕買って来よう。

 そんなこんなで琴葉が家に来て、だが引っ越しの話は無しになった。

 琴葉の私物、というか、オタクグッズを置くスペースが無いからである。

 代わりに新居の計画が進行中。

 結局、金を大楽さんから借りることにした。朋絵の大学進学を期に移るつもりだ。その後その家で四年同居し、朋絵の社会人生活スタートを待って琴葉と入籍。という流れが、朋絵以外の俺たちの中で共有されている。

 朋絵に伝えていないのは、ある種の対策である。朋絵が俺への依存を絶った上で、その上で俺と一緒に居ることを選んだと言うための。

 詭弁であるのはみんな分かっているし、危うい橋だと言うのも理解している。だから同居は朋絵が成人してから。

 隠しておけるものでもないので朋絵も知っているはず。だが、ちゃんと知らないふりを続けてくれている。高校でも聞かれたら彼氏がいないと言っているらしいし、家に居続けることなく部活や友達との青春に精を出している。

 朋絵を含めて、外での俺たちは仲の良い他人だ。香苗や朋絵の友達と会っても事実上の肩書である兄貴を名乗っているし、琴葉とは限られた数名以外には友人付き合いを主張している。

 ただ、街中で話しかけて知り合いの中で朋絵の知り合いを名乗る奴の中に男がいるのが面倒くさい。対外的には俺と朋絵は兄妹なので、遊びに誘われた朋絵の付き合いを俺が防ぐのはおかしい。

 朋絵もちゃんと断るのだが、まぁ一定数食い下がる奴がいる訳だ。その場ではなく、後日遊ぼうと約束を取り付ける形で。

 中学の時はほぼ全員の連絡先を持っていたらしいが、流石に高校では人数が多いのと八方美人して周りをうまく収めようとする労力を俺の方に向けたために新たに連絡先を交換したのは十数人に留めたそうだ。

 まあ、なんだかんだでうまくやっている。

 ただそれとなーく学校長に相談と言う形で情報を小出しにしているが、今のところ怒られたり委員会から電話がかかってきたりはしていない。それが少し不気味だ。

 流石に元々朋絵と香苗の両方を受け入れることをある程度容認されていたとはいえ、もう一人増えたこととそれを俺が望み始めたことに対して何かしら言われると思っていたのだが。

 まぁ、藪を突いて蛇を出す必要もあるまい。

 季節は、夏を目前にしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。