↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/33

共同戦線

 最近ずっと、お姉ちゃんがふさぎ込んでいる。

 パッと見は普通。でも、私は血のつながった姉妹だから分かる。

 ユキ兄が私たちを振ったからだ。

 告白してごめんなさいとかいう軽いもんじゃない。そんななら私は唇の一つでも奪って既に妊娠している。

 告げられたのは、誰も愛さないという答え。

 前までのユキ兄とは違う。愛せないではなく愛さない。

 正確には違う。過去に自殺した同級生にみさお? っていうのを立てたって言った。ようするに、その人を追い続けているから私たちのことを見てくれない。

 これは一大事だ。もう死んじゃった人には何をしても勝てない。

 私は諦めるつもりはない。でも、お姉ちゃんは違うみたいだった。

 なんとなくじめじめしている。

 私と同じでユキ兄のことが大好きになっちゃったくせに、諦めようとしている。

 恋心を自覚させたときもそうだったけど、お姉ちゃんは自分を二の次にすることがある。相手が大切なら特に。

 だからお姉ちゃんの前では私が一番。でも、お姉ちゃんはユキ兄もとってもとっても大事だから、ユキ兄の言うことを諦めようとしている。

 その弱気が、許せなかった。

「たのもーっ」

 定番になりつつあるセリフを言いながらお姉ちゃんの部屋に入る。いつものツッコミは飛んでこない。

「朋……」

「お姉ちゃんは私のこと大事だよね?」

「当たり前でしょ?」

「じゃあなんでうじうじしてんの?」

「うじうじなんて……」

「してるじゃん。ユキ兄がキスもダメハグもダメって言ってその通りにしてるじゃん」

「だって、紀行さんに迷惑がかかるから……」

「お姉ちゃん!」

 お姉ちゃんの体がビクッとなる。そのせいで胸がぷるんって揺れる。

 くそぅ。

 いや、そんな場合じゃなかった。

「ユキ兄のこと好きじゃないの⁉」

「……好きだよ」

「私のことは⁉」

「好き」

「じゃあなんで私と一緒にユキ兄と幸せになろうっていう最初の想いを諦めるの⁉」

「……だって」

「なに?」

「紀行さんの迷惑になりたくない」

 私は深く深くため息を吐いた。

 お姉ちゃんは賢いくせに、なんでこんなことも分らないのか。

「あのね、お姉ちゃん。ユキ兄の歩いてる方向は誰も幸せにならない地獄なの。責任をとるってのは立派だと思うよ? でもあれは過去まだ縛られてるだけじゃん! 私はユキ兄が独り寂しく孤独に死んじゃうなんてやだ!」

「朋、今……?」

「何?」

「あ、なんでもない……」

「あれなら誰かに奪われる方がマシ! お姉ちゃんは! ユキ兄が! つらいままでいいの⁉」

 お姉ちゃんの目に、光が宿った。

 まずは情報収集だ。

 と言うことでおばさんの所に向かう。

 シートパックをしているおばさんにお姉ちゃんと一緒に土下座して、ユキ兄の自殺した知り合いの神無月美紀と言う人について教えてもらう。

 神無月美紀さん。ユキ兄の大学の同級生で、ユキ兄が好きなまま死んじゃった人。

 ユキ兄の友達がユキ兄に惚れすぎないように女の子の恋心を調整していたらしい。他の男と恋愛させるとか、ユキ兄の好きな人を伝えて見守ってやってほしいって言ったりとか。

 気持ちはわかる。

 でも死んじゃったらそこで試合終了なんだよ。

 だから私はあきらめない。お姉ちゃんと、私と、ユキ兄。三人で幸せになる夢を。

 学校の合間にいろいろ調べたりユキ兄にアプローチしてみたけど、結果は惨敗。

 おばさんもおじさんもなんとかしてあげたいみたいけど、神無月さんに繋がるのは当時連絡してきた弁護士さんの連絡先があるだけ。

 ユキ兄は多分もっと何か持ってるだろうけど、取り合ってくれない。

 流石に私とお姉ちゃんだけじゃ限界があった。

 打つ手なし。八方ふさがり。

 ただ収穫があったのは、おばさんの話だ。

 神無月美紀さんは、ユキ兄を呪って死んだわけじゃない。

 ユキ兄が好きで、愛して、救われて、それでも他のいろんなことが嫌で死んじゃったって聞いた。

 ユキ兄の話と食い違っている。

 ユキ兄は、神無月美紀さんに恨まれてると思ってる。

 その恨みを晴らさない限り、自分を許せないでいる。

 でも、おばさんの話す神無月美紀さんは恨むどころかユキ兄にありがとうって言って死んでる。

 鍵は、神無月家。

 でも、私たちじゃそこにはたどり着けない。

 おじさんとおばさんは、表立って動く気はないらしい。

 向こうと連絡を取るのが怖いって言ってた。もしかしたら、本当は恨まれてるかもしれないって。

 だから私は、ライバルを頼った。

 卒業して迎えた四月。入学式の前日。私は卒業式の時に貰っていた連絡先にメッセージを飛ばして母校に向かっていた。

 処辺琴葉。私の中学三年のときの担任で、ユキ兄が好きな人。後おっぱいがおおきい。

 卒業式のあと連絡先ちょうだいって言って貰ったって言ったらユキ兄が頭を抱えていた。

 よくある展開なのにダメらしい。コトちゃん先生は三年生担当は初めてで知らなかったらしい。珍しくユキ兄が自分から電話して怒ってた。

校門前でコトちゃん先生に連絡を送る。コトちゃん先生はすぐにやってきた。

「ユキ兄のために協力してほしい」

「! 私に何かできるの⁉」

「わかんない。でも、ユキ兄のために動いてくれそうな大人がコトちゃん先生しか思いつかなかった」

「なんでもするよ。あ、でも、隠れながらだけど。教師って表立って動くといろいろまずいから」

「あ、そういやユキ兄に怒られたでしょ?」

「あ、うん。連絡先の件ね。めっちゃ怒られた。というか、いろんな人に怒られた」

 やっぱりダメなことらしい。やっちゃうところがコトちゃん先生らしいっちゃらしいんだけど。

 そう言えばコトちゃん先生の授業はユキ兄と似ていた。いろいろ教えてもらってたらしい。まぁ、ユキ兄よりは授業に関係ある豆知識や雑学のレパートリーが少なくて面白くなかったけど。授業自体は分かりやすかった。

「私から話すわけにはいかないだろうから、今度の土曜日に中心街のファミレスに来てほしい」

「ファミレスいくつかあるよ?」

「えーっと、駅の西側の……だめだ。お店の名前が出てこない。あのストライプの壁のところ」

「ああ、あそこ……わかった。午前は部活だから、午後なら空いてるよ」

「ありがとう。時間はまたメッセージ飛ばすね。ところでさ」

「なに?」

「これ、合うのも問題だったりするの?」

「わかんない。でも、よくは無い気がする」

「でも来てくれるんだ」

「紀行さんのためだから」

「ありがと。じゃあ、一時休戦ってことで」

 私が差し出した手を、コトちゃん先生はしっかりと握った。


 土曜日。私はおばさんを連れて、例のファミレスに来ていた。

 三人で、後で一人来ることを説明して席に通してもらう。

 しばらくして、コトちゃん先生がやってきた。

「コトちゃん先生ー」

 呼んだらすぐに気づいてこっちにやってくる。

 っていうか衝立でわかんなかったけどやっぱおっぱいでかぁ。世の中は理不尽だ!

「え、処辺先生?」

「ご無沙汰しています、時野さん」

 おばさんとコトちゃん先生は初対面じゃない。私の三者面談と進路懇談会で会ってる。

「朋絵ちゃん、協力者って、学校の先生を頼ったの?」

「おばさん。そうだけど、そうじゃないんだよ。コトちゃん先生はライバルだから」

「なんの?」

「恋の」

「え? え?」

 おばさんが胡乱な目でコトちゃん先生を見る。

「処辺先生が、うちの紀行を、好き?」

「は、はいっ」

 真っ赤になって答えるコトちゃん先生。

くそぅ。大人でおっぱいばいんばいんなのに可愛い。

「あの子、愛されてるのね……」

「あの、私が聞いても、いいんですか?」

「あの子を助ける糸口になるなら。好き、なんでしょ?」

「はい」

「どれくらい?」

「ここに来るのがヤバいと理解してここにいます」

「そう。……本当に愛されてるのねあの子。それなのになんであんなことに……」

 おばさんが泣き出す。背中をさすりながら、コトちゃん先生に話をしてもらう。

「相手の弁護士さんの連絡先ってわかりますか?」

「ええ……。スマホの連絡先に入ってるから。何かあった時にはって言ってもらってるから」

「弁護士さんが絡んでるなら羽田野のおじさんに相談してみます」

「はたののおじさん?」

「うん。たまに来る人。あ、実家にね? 弁護士やってるの」

「いや、でもお金かかるでしょ? もちろん払うけど……」

「ああ、大丈夫ですよ。ストーカーの相談とかしてましたけど、お金とられたことありませんから。多分友達の娘だから簡単な相談は乗ってくれてるんだと思います。お金が必要になるならその時は相談させてもらっていいですか? お給料、あんまりないんです……」

「わかるわ。旦那も息子もそうだから……」

 先生のお給料の実情を知っている二人がずーんってなってる。

「コトちゃん先生。とりあえず任せていい?」

「あ、ちょっと待って。ここで聞いちゃうから」

 そう言ってコトちゃん先生が電話をかける。

 しばらく話して、通話を切った。

「どう?」

「全部話した訳じゃないからなんとも……。来てくれるみたいです」

「来てくれるの? ここに? 弁護士さんが?」

「弁護士ってそんなフッ軽なお仕事だっけ……?」

「さぁ? ウチもお世話になってる訳じゃないから……」

「呼んだら割とすぐ来てくれますよ?」

 ストーカー被害に遭った時、夜中でも話を聞いてくれたらしい。

 なんだろう。忙しそうっていうイメージが崩れていく。

 店員さんに一人増えることを伝えてしばらく待つと、スーツをしっかり着込んだ年配のおじさんがやってきた。

 なんというか全体的に四角い印象。

 その人が柔らかい印象でコトちゃん先生に話しかける。角のない四角になった。

「お待たせしました。琴葉さん、依頼人の紹介と言うお話でしたが、ご紹介願えますか?」

 コトちゃん先生が私たちを紹介してくれる。私は頭を下げるしかできなかったけど、多分これが普通だと思う。

 だってこの人めっちゃできる人感あってコワイ。

「で、こっちが羽田野さん」

「ご紹介にあずかりました。弁護士をしている羽田野和道と申します。早速ですが、お話をお聞かせ願えますか?」

 促されて、私が話す。

 今回の件。依頼者は私になる。

 羽田野さんは少し驚いたような顔をしたけど、話は真剣に聞いてくれた。ユキ兄の過去に関する部分はおばさんに任せて、また私が引き継ぐ。

「承知いたしました。では、その神無月家から言われた遺書の内容の再確認が、今回のご依頼と言うことで宜しいですか?」

「はい」

 そう言うと、羽田野さんは姿勢よくしていた背を少し丸めてテーブルで手を組んだ。

「今回の件、その紀行さんに関係するお話になりますので、ご本人の承諾が必要になります。しかし彼には内緒で事を進めたい。その認識で構いませんか?」

「はい」

「その場合、ご両親の承諾が必要になります」

「私が母です」

「畏まりました」

 そうやって話を進めていくが、やはり壁がぶち当たる。

 おばさんは、相手の真意を聞くのを怖がっている。だから、依頼をすることが出来ない。

「羽田野さん。代わりに私が聞くってできますか?」

「お母様の承諾さえあれば。お母様が一切関わらずに済ませることも可能ですよ」

「時野さん。私は、紀行さんのためなら何でもします。私に、任せてもらえませんか?」

「処辺先生……」

「もう二海さんの担任じゃありませんよ。紀行さんのことが大好きな、一人の女の子として扱ってほしいです」

「……琴葉、ちゃん」

「はい。お義母さん」

「コトちゃん先生その字はちょっと違くない? 怒るよ?」

「二海さんしーっ、しぃーっ」

 一時休戦中とはいえ油断ならぬ。

「ふふっ。……お願い、できる?」

「はい」

 少しだけ間を開けて、羽田野さんが口を開いた。

「では委任状を作成いたします。後日見積書とともに郵送させて頂きますので、住所と電話番号をお教え願えますか? あと、先の話にあった先方が雇われていた弁護士の連絡先もお願いします」

 羽田野さんは、メモ用紙を取り出して連絡先をメモして仕舞う。

「では、書類はしっかりと内容をご確認の上、返送して頂ければと思います。その他、今回の件で気になっていることやお困り事はございますか?」

「あの、どれくらいかかりますか……? その、費用」

 おばさんがおずおずと問う。

「今回の件ですと、弁護士同士のやり取りで済む可能性が高いのでそこまで高くはありませんね。二十万から三十万を想定して頂ければと」

 そんなもんなの? 五十万くらいかかると思ってた。おばさんもそう思ってたみたい。

「ははは。それは法廷に出張った時の、裁判を一回やり終えたときの金額ですね。裁判は弁護士の華ですが、それだけが我々の仕事ではありませんから」

「あ、お金発生しちゃった……。ごめんなさい」

「いいのよ琴葉ちゃん。これであの子が立ち直れるなら安いものだわ」

「ご期待に沿えるようにさせて頂きます。他に気になることはございますか?」

 私とおばさんは揃ってないと答える。

 そうすると羽田野さんはふっと肩の力を抜いてコトちゃん先生に話しかけた。

「しかし、男に怯えていたあの琴葉さんが男のために私を動かすとはね。世の中何があるかわからないものだ」

「おじさん! 昔のことはいいっこなし! あと男の人はまだコワイ!」

「ははは。わかったよ。この件は父君にも伝えさせてもらうけど、いいよね?」

「うん。いいよ」

「では私はこれで失礼します」

 そう言って羽田野さんは伝票を持っていく。

 止める間もなかった。

「いい……のかな?」

「大丈夫だよ。おじさん、経費で落とすつもりだから」

 そうなんだ。

 とりあえず祈る気持ちでコトちゃん先生に任せて、その日は帰った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。