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あなたが好きです

 新年度がやってきた。

「内藤先生ぇ!」

「処辺ちゃん、どうどう」

 ずっと待てをされてきました。もう待てません。

 早く。早くグループ作って!

 その日のうちにグループが出来て、皆が参加します。

 最後に時野先生が参加して「お久しぶりです」とメッセージが飛んできました。

 あ、アイコン猫ちゃんといっしょに寝そべってる写真なんだ……。

 とりあえず、私は内藤先生を睨みます。

「何で今日って言わないんですかぁ!」

「ちょいちょいちょい。まだ仕事中。土曜の方がゆっくりできるでしょ?」

「うー……」

「このクソ忙しい時期に平日はキツイって」

「だってぇ」

「処辺ちゃん。もうちょっとの我慢だ」

「加藤先生ぇ~」

 もう職員室には私が時野先生のことが好きなのはバレているので誰も私の奇行を止めません。むしろ生暖かい目で見られます。

 とりあえず時野先生は友達登録しちゃいました。

 飲み会の土曜まで、待てるかなぁ……。

 待てませんでした。

 土曜日。いつも通りに現れた久しぶりの時野先生を見て、私は挨拶もろくにできずに泣きつきました。

 もう私の気持ちなんてバレていいもん。

 むしろバレて下さい。そして気づいてください。

 いつのまにかお座敷に座っていました。

 時野先生によしよしされて、泣きじゃくりながら時野先生の匂いを堪能します。

 この時野先生が想い過ぎた私の妄想じゃないか確認して、でも時野先生は妄想みたいに動いて。

 頬から鎖骨を撫でられて、正面を指さされて。みんなの前だって思い出して私は飛び上がりました。

 時野先生のいじわる!

 話を聞いていると、どうにも怪しい雰囲気です。

 え、うそ。嘘だよね?

 時野先生。二海さんのこと。

 やだ。

やだよぅ。

私をちゃんと見て。

ここにあなたが好きな子がいるのに。

こんなに好きなのに。

届かない。

 ああ。時野先生は本気で二海さんを想ってる。

 でも。

 時野先生は。

「俺は誰とも幸せになれない」

 そう言いました。

 え、二海さんのこと好きなんですよね? ついでにお姉さんも。

 受け入れられない? どういうこと?

 心の傷?

 時野先生。その傷、まだ痛みますか?

 その全てを諦観したような表情はすごく痛そうに見えて。

 力になりたい。

 そう強く思って、声に出ていました。

 時野先生は私の頭に手を置いて、そのままでいいと言いました。

 私に、できることは無いの……?

 飲み会が終わって、帰って、重要なことを忘れていました。

 デート! デートの約束!

 いえ、時野先生はそんな場合ではありません。

 でも、デートで、気分転換にでもなれば……?

 私が、時野先生に何か残せたら。

 そう思って、スマホに指を走らせました。

 約束を取り付けて、友達に相談して。

 迎えた当日。

 三十分前に待ち合わせ場所について、まだ着いてないだろうに想い人の姿を探します。

 あ、連絡。

 灰色の綿パンに白のシャツと黒のジャケットは分かります。

でもオッサンがよくつけてそうな時計って何⁉

とりあえずゴツイ時計じゃないってことかな……。

案外すぐにみつかりました。

あ、オッサンがよくつけてる時計ってこれ……。

安いって言っても有名なメーカーの奴です。

オッサンって言うよりかは、安月給でお小遣い制のお父さんの強い味方ってイメージ。

私のお父さんも似たようなのをつけていました。

服を褒められました。

時野先生の大人なカジュアルって言ったらいいのか分かりませんけど、落ち着いた、年齢をいい様に解釈させるそのカッコイイ格好と比べると野暮ったさが否めません。

 と言うか言葉が甘い。

 びっくりしたらデートモードだと教えてくれました。

 それでいて下さい。それでお願いします。

 名前?

 あ、そうか。先生って呼ぶと職業暴露してるじゃん!

 やらかしたー!

 皆さんごめんなさい!

 とりあえず呼び方を変えろと。なんでもいい?

 紀行さんって呼んじゃいますよ?

 あ、いいの?

 私は琴葉でお願いします。

 並んで街を歩きます。

 とりあえず、もうぶっちゃけて聞きます。

 どんな女性が好みですかッ!

 だってだってぇ。

 みんなが私は下手打つからストレートに行けって言うんだもぉん!

 あ、教えてくれるんだ……。

 やっぱり派手目な子が好きなんですね。残念。

 え、染まるって何?

 このお店入るんですか?

 ちょっと待ってここコワイ!

 陽の波動がする!

 服と一緒に試着室に放り込まれました……。

 これがあの時野先生の好みの格好……。

 とりあえず着替えます。

 なんでお腹出てるのぉ⁉

 私腹筋バキバキだからやだぁ!

 女らしくないからヤダぁ!

 あ、はい。出ます。

 ……。

 何かいってぇ~……。

 あ、見惚れてた。そうですか。なら仕方ないか。

 ……。見惚れてた⁉

 時野先生が? 私に?

 これは、脈ありですか?

 購入? どうしましょう。

 好き、なんですよね? こういう服の女の子。

 買います。

 え、お高い?

 ええい! 買います!

 え、このままおそとでるの?

 このふくいやらしくみられない? ほんと?

 胸ばいーんのおなかどーんなのに?

 信じましょう。

 お店の人に行ってタグを切ってもらいます。そのままお支払い。

 私の服が入った袋は、時野先生に奪われました。

 店の扉の前で躊躇する私を時野先生が勇気づけてくれます。

 笑わせてくれて、おそとに出て、やっぱコワイ!

 背筋を伸ばせと言われて伸ばします。前を向けと言われて向きます。

 時野先生の腕にしがみつきながら歩いて、時野先生がかけてくれた言葉で、感じている視線にいやらしさを感じないことに気づきました。

 普段より露出強いのになんでぇ?

 あと女の人が羨ましそうな顔で見てくぅ。

 男の人、特にいつも遠慮のない粘ついた視線を送ってくる同じ陰の者の視線を感じません。

あ、違う。私が見ると露骨に目を逸らしてる。

なんでぇ?

説明すると言って怖い所に連れていかれました。

並んでいいんですか⁉ 私呪文の詠唱できませんよ⁉

あ、お任せします。

注文、あんなふわっとしたのでいいんだ……。これなら私も……いや無理。まずお店に入れない。

席に座ってきゃらめるまきあーとを頂きます。

奢ってもらえました。

あ、これ甘くておいしい……。

時野先生から見られなかった理由を教えてもらいました。

普段の服と動作からエロさがにじみ出ている……だと……⁉

そんなバカな……。いやでも現に……。うーむ。

あ、このバッキバキのお腹が目立つから胸に目が行かないんだ……。

むしろ隠すとえろい。理解しました。

モザイクあると無修正よりえっちにみえるのとおなじですね。

違う? そうですか。

とりあえず腹筋見せつければいいんですね? 恥ずかしいけど。

お店を出て、リサーチしていたお店に行きます。

自分で選んだお店だけど入るのに勇気がいりました。

その後も街をぷらぷらしながら時野先生の好みの女性像を聞きだします。

どんどん現実の私と離れていく。

私が悲しんでいると、時野先生が私を嗜めました。

理想になったら見てもらえない? 何でぇ?

個性?

私の個性が潰れる?

その言葉に、本来の私を大事にしてくれていることが分かって嬉しかった。

え、自分の変化?

あ、そういえば背中丸めてない……。いつもより時野先生の顔が近です。

もう時野先生の理想を追い求めるのはやめです。

私は私らしく。晩御飯も、ちょっといいところって考えてましたけど自分の好きなハンバーガー食べちゃいます。

ああ、うん。着飾らないほうが楽しい。

当たり前ですよね。背伸びしてたらしんどいもん。

等身大の幸せを、あなたと。

時野先生。ううん。紀行さん。

わたしは、あなたが。

「処辺さん」

 今日が、終わってしまいます。

 しってる。

 わかってる。

 わかってるよ。紀行さん。

 幸せになれないなら、一緒に不幸になればいいんです。

 諦めません。

「私は紀行さんが好き。これからもずっと好きでい続ける」

きょうはごめんなさい。

 私は今の紀行さんを見ていられませんでした。

 だから。

「さよなら」

 別れを告げて、シュウにぃに今日のお代をツケてもらって。

 逃げるように、お店を出ました。


 週が明けて、月曜日。

 もう担任の仕事は始まっています。

 終学活が終わって、一人の生徒が近寄ってきました。

「二海さん」

 私のライバル。

 でも何か様子がおかしいような気がします。

 こんなに敵意をむき出しにするなんて。

 手招きされて、顔を寄せます。

「ユキ兄に何したの」

「何の、ことですか?」

「とぼけないで! あなたとデートに行くって言って、ユキ兄は帰ってこなかった!」

 帰って……来なかった……?

「紀行さんは、今……?」

「病院。意識不明」

 え?

 うそ。

 うそだよね?

 噓だって言ってよ。

 誰か。

紀行さん。

「私、あなたを許さない」

 思わずへたり込みました。

 何事かとみんなが寄ってくるけど、私は恋敵に小声で喝を入れられます。

「普段通りにして。私たちの日常を壊したらユキ兄が悲しむ」

 紀行さんが悲しむ。

 その言葉に、足りない力で足を踏ん張らせます。

 おねがい。起きてよ。

 お願いだからせめて謝らせてよ。

 その後。一ヶ月経っても、二海さんから連絡はもらえませんでした。


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