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チャンスと残念会

 今日は研修会です。年次研修と違って教科の研修なので、時野先生にお願いして一緒に申し込んでもらい、一緒に来てもらいました。私はいくつかあるうちのどれかを選んで受ける必要があったので、無理を言って。

 面倒くさそうにしながらも時野先生は優しい人です。

 とりあえず隣で壁になってもらおうと思っていましたが、なんと研修は席指定。呆然とする私を見捨てて時野先生は自分の席に座ってしまいます。

 私も仕方なく自分の席に座りました。すぐに講義が始まって、話は真面目に聞きます。でも問題は、後半戦の話し合い。議題は各校の取り組みについて。

 なんとかスイッチを入れて乗り切ります。

 研修が終わってすぐ、私は時野先生のところに詰め寄りました。

 正直なところ何を言ったか覚えていませんが、可哀そうなものを見た目の時野先生がジュースを奢ってくれました。

 時野先生はなにやら電話をかけています。内容からして午後からお休みを取るそうです。

 お休みの予定ってその日に変えてもいいんだ……。初めて知りました。

 思うところがあって時野先生に教えてもらってお休みを取ります。その様子を見た時野先生が私を置いていこうとしたのでリュックの紐を掴みました。

 逃がしません。いっしょにご飯に行くんですから。

「お昼ご飯っ、一緒に、いきま、せん、か……っ」

 勇気を出して誘います。でも断られました。無念です。

いえ、いつもお弁当なのに内藤先生たちとはたまに食べに行ってるのを知ってますよ! 食い下がれ、私!

 やりました。一緒に行ってくれるみたいです。

 食べに行くにもどうせ中心街なので着替えさせて頂きます。

せっかくなので、あの、その……。で、デートっぽくしたいじゃないですか!

 着替えてメイクもし直して時野先生の元に行きます。

「で、どこに連れて行ってくれるんですか?」

 しまった。誘うことだけに意識を割きすぎてノープランです。

とりあえず悩んで、自分でお店を決めて行ったことも無くて、とりあえず一緒に居られればいいやと思っていつも通りのお昼を買いに行こうとしました。

時野先生もお弁当を消費したそうでしたし。

「ちゃんとした! メシを! 食え!」

 怒られました。私が失敗してもフォローして慰めてくれる時野先生にです。そしてそのまま雰囲気の変わった時野先生に連れられて外に出ます。

 着いたのは、焼き肉屋でした。

 珍しい。普段の時野先生なら服に匂いが付くとか細かいところを気にしてまず聞いてくれるのに……。いえ、お店に文句はありません。お肉は好きですし。……気をつけないと太りますけど。

 これ以上胸が大きくなるのはイヤ!

 時野先生が私をほぼ無視してどんどん注文していきます。

 お皿に勝手にお肉が盛られていく……。はっ。早く食べないと無くならない!

 強引な時野先生につられるようにいつもよりいっぱい食べて、私はお箸を置きました。

「もう、無理、です」

「そう? じゃあ残りはさらえるね」

 そう言って時野先生は残っていたものとまだ来てなかった注文を食べ進めていきます。

 お弁当の数倍じゃきかない量を食べてますよね……? 大丈夫なのかな……?

 大丈夫だそうです。

 席を立ってお会計。財布を出しましたが、時野先生が奢ってくれるそうです。

 え、今時カップル割なんてやってる飲食店まだあるんだ……。

 店員さんの言葉を時野先生が断る気配がして、私はそれがなんとなく嫌で時野先生の腕を掻き抱きました。

 カップル割、適応してくれるみたいです。生暖かい定員さんの目がちょっと心地いい。

 お店を出て、また時野先生が逃げようとしたので引き留めます。焦った私が向かったのは、ゲームセンター。

 そうです。私はゲーマーのオタクです。カフェでお茶とかしたことありません。いつも家でゲームをして、遊びに行くと言ったら専らゲームセンター。要するに陰キャなんです。

 でも時野先生は嫌な顔一つせずついてきてくれました。意外そうな顔はされたし、実際に「意外だ」とも言われたけど。

 と言うか、ゲームセンター自体には興味なさそうだけどこういう場所自体は慣れている? そんなちぐはぐな印象を受けます。

 好きなようにしていいみたいなので音ゲーコーナーに行きました。カードで筐体にタッチしてコインを投入。時野先生には私の後ろを守ってもらいます。

 下手なはずなんですけど、結構な確率で見られるんです。たまに話しかけてくる人も。いつも友達に背後を固めてもらって守ってもらっていました。

 1クレジット分プレイして後ろを見ます。待ってる人はいないようですけど、やっぱり見られてる……。

 2クレ目を終えるとついに声をかける人がいました。私は固まってしまって動けません。

 そうだった。いつもは友達がなんとかしてくれてたけど、今ここに居るのは時野先生だった。どうしよう?

 困っていると、時野先生が一歩私に近づきました。

 筐体についた手に手が重ねられて、耳元で名前を囁かれます。

 え、名前で呼ばれた⁉ なになになに⁉

「もう行こう? 二人きりになりたい」

 そう言われて私の頭はショートしました。

 どこでそういう雰囲気になったのか分からない。でも、でもでもでも! このまま恥ずかしいのさえ我慢すれば!

 ベッドの上でイロイロものすっごいことしてもらえる……!

 名前を呼ばれて我に返ります。もうホテルについたんでしょうか。ますはいっしょにシャワー?

 まだゲームセンターでした。さっきのはあの場を離脱するための方便だったみたいです。残念なような、ほっとしたような……。

 体を離した時野先生が私をからかいながらどうするか聞いてきます。

 音ゲーコーナーに今戻るのは恥ずかしいので、一つフロアを降りてクレーンゲームを見ることにします。

 あ、新作のフィギュア出てる……。

 私は筐体に吸い寄せられました。すると時野先生は私にアニメが好きなのか聞いてきました。

 好きか嫌いかで言えば好きですが、しばらく見てはいません。高校三年くらいからゲーム一本です。

 というかなぜいきなりそんな質問を……?

 フィギュアがアニメのキャラだと思われていたようです。ボイロだと説明すると今度はボカロと間違われました。

 あ、この人、多分完全に陽の人だ。いえ、今更時野先生を怖がったりしません。多分時野先生は私たち陰キャの趣味を馬鹿にしない。……多分。

 否定されたら泣いちゃう。お仕事行けない。病む。

 とりあえずフィギュアを確保。袋を貰いに行こうとしたら、時野先生がとある筐体に視線を向けていました。

 プライズの内容は、ミニ試験官セット。

何と言うか、何と言うか、何とも言えない。

 いえ、理科教員らしいっちゃらしいんですけど。

 音ゲーは壁が居ないとできませんけど、クレーンゲームはいっしょにプレイしてみたい。大学時代、いっしょにキャッキャしているカップルを羨ましく思った覚えがあります。

 時野先生が教えてと言ってくれたので私は調子に乗って教えます。ええ。他のことが意識から飛ぶくらい。

 時野先生の腕の間に入り込んで時野先生を私が操作します。これなら絶対に取れるから。

 取れました。別に欲しくはないけど、お揃いの小物はアリ。店員さんを捕まえてプライズを補充してもらいます。

 さっきよりもお金がかかりました。まぁさっきは誰かが取りやすい位置まで動かしてやめた跡がありましたし、仕方がありません。

 とりあえず袋を貰いに行って……、ナニコレ。全然ビニール袋の口が開かない。

 あう……。時野先生に温かい目で見られてる……。

「荷物もできたし今日はもう帰りますか?」

 時野先生がそんなことを言いだしました。

 逃がしません。逃がしてなるものですか。まだ一緒に居てもらいます。

 多分初恋なんです。ちょっと暴走気味な自覚はあるけど。

アピールの仕方が分からないから。長く一緒に居るしか、方法が無いんです。

 友達にはいざとなったらその胸を使えって言われて使い方もいろいろ教え込まれましたけど……。流石に無理。

その、結局そっち方面の話になるので。挟むとか。吸わせるとか。

 とりあえず言葉で引き留められる気がしなかったので物理的に引き留めました。逃がさないようにしてから考える。これしか私にはできません。そんな時でした。

「あれぇ~、紀行じゃ~ん」

 知らない男の人が時野先生に話しかけてきました。どうやら知り合いのようです。

 あ、やっぱり時野先生は私から逃げようとしてた。印象悪くしたかな……。

 時野先生が知り合いらしき男の人についていっていいかと聞いてきたので私は大人しくします。そして向かったのは、音ゲーコーナー。

 あ、同じ音ゲーマーだけどこのチョイスは陽キャだ。怖い。うわしかも魅せプレイしてるぅ……。しかも上手いぃ……。

 ブレイクダンスを踊ってそうな格好のその人は、全曲パーフェクトを取って録画機材を片付けます。しかも時野先生を取られました。無念。

 肩を組んでこそこそ会話する男の人に混ざる勇気は私にはありません。

 時野先生の知り合いにおっぱいちゃんと言われました。

 あ、無理。怖い。

 時野先生がグーで殴りました。

あれ、前に暴力は駄目って私に諭してなかったっけ……?

 話を聞くと、どうやらこの人、私から時野先生を奪うようです。

許しません。徹底抗戦です。でも構えを取る前に、時野先生の友達の言葉が飛んできて、時野先生の雰囲気が変わりました。

 あ、なんかいつもより女の子慣れしてる男の人感がすごい。

 そんな時野先生が私の小指を小指でとって絡めます。

……指切り? なんか子供っぽい。でも雰囲気は、なんかこう、別れ際の恋人のような。

そんな時野先生に私は何も言えなくなります。それを見て時野先生は、勝手に私の好きな時に私の好きな場所に行くという約束をしました。

 それって……次のデートの約束……ッ⁉

 いいんですか⁉ いいんですね⁉ 本気にしますよ⁉

 私は胸の前で手を組んだまま、時野先生についていきます。

とっても歩きやすくて、心地いい。

今日は終わりだけど、時野先生が次を約束してくれたから。だから今日は、終わらせてもいい。縋らなくても、ちゃんと次があるから。

 駅で改札を通り、振り返ります。時野先生はポケットに片手を突っ込んで、こなれた感じで手を振りました。

 いつも軽く上げるだけの手が、ゆらゆらと揺れている。

 それを見て、私も手を振り返しました。

 電車に揺られて一駅。最寄り駅で降りて、そこで私は気づきます。

歩ける距離じゃん! 家まで送ってもらえばよかった!

後悔先に立たずです。雰囲気にうまく乗せられて厄介払いされました。それくらい私でも分かります。

私はとぼとぼと家に帰って部屋着に着替え、ヘッドセットを装着してゲーム機の電源をつけます。

「あ、部屋が立ってる。はーいろっと」

 リアフレ限定のVC部屋を見つけて入ります。

「ん?」

「ありゃ?」

「おろ?」

「や」

 最後が私です。

「琴葉が平日の昼過ぎに来るなんて珍しい」

「んー。お休み取った。みんなは?」

「休み」

「右に同じく」

「私は今日夜勤」

 今皆がやってるゲームはバラバラです。無料RPGをやってる子、FPSをやってる子、ダークファンタジーRPGをやってる子。私は……ゲームは起動せずにPCを起動させました。ゲームとPCのモニターは共用なのでPCの画面に切り替えます。

 PC上で起動させたのは乙女ゲー。もちろん18禁です。ヘッドセットの中にイヤホンをインします。

 前回の続きからスタート。ちょうど付き合う前の初デートの別れ際のシーンで、さっきの時野先生とゲームの中の攻略対象がダブります。

「似てるなぁ……」

「どうしたのよ。独り言なんてして」

「コトちゃん、いつも通りなら乙女ゲーやってるよね?」

「乙女ゲーやって似てるなぁってぼやくってことは……男か⁉」

 あ、この流れはマズい。でも。

「うぅ……。みんなぁ……!」

「あ、コトちゃんが泣いた」

「琴葉泣くな! 面白そうだから喋ってから泣け!」

 私はみんなに名前は伏せて時野先生のこと、今日のことを話します。

「ついに琴葉が男に惚れたか~」

「コトちゃん、それ現実? 相手の人のイメージが乙女ゲーの攻略対象っぽいんだけど。そんなイケメンムーブかましといて受け入れ態勢OKなコトちゃんに手ぇ出さない男なんている? ウチなら速攻で喰ってるんだけど」

「現実だよ! 時野先生はほんとにそういう人だもん!」

「琴葉、ネットで名前晒すのはアカン。あと何回か言ってるけどもんはやめな? 子供っぽいから。でも花咲音には同感。胸押し付けたりしたんだろ?」

「……うん。でもあんまり反応されなかった」

「ひんぬー好きか」

「いや、どっちかって言うとロリコンじゃない? 真に貧乳好きはいないって話だし」

 そういえば、時野先生のことが好きな生徒がいたような……。はっ⁉ もしかしてその生徒と付き合ってる⁉

「こんな胸切り落としてやる」

「琴葉ステイ! 早まるな! お前はやりかねん!」

「コトちゃん。持たざる者のことも考えてね? また揉むよ?」

「琴葉の胸が大きくなったの、やっぱり花咲音のせいじゃないの?」

「それが本当なら私はAAAじゃない! 自分でも揉んだし今はカレシにも揉まれてるから!」

「あ、結局付き合ったのね……」

「いや、あーくんはアタリだった。愛情深いし見た目が割とオタクだからモテないし浮気の心配も無い。後デカい」

「それは花咲音の彼氏がただ当たりだっただけじゃないの? というかあんたでかいの受け止められんの?」

「無理。まだ毎回血が出る」

 想像して、痛そうという感想しか思い浮かびませんでした。というか私の話は……?

「流石ロリコンホイホイの合法ロリね。145だっけ?」

「148! 間違えんな! 大事なとこだぞ! あとちょっとずつ馴染んでるから!」

「それガバガバになってきてるだけじゃ……」

「いや、形がよくわかるようになってきたから決してガバくなったわけじゃない。お、トップスコア頂きー。で、何だっけ。コトちゃんがその人と一発ヤリたいって話しだっけ?」

「そうじゃないよ! 付き合いたいって話だよ!」

 花咲音ちゃんの言ってることも間違いじゃないけど。

この中で一番恋愛経験があるのは花咲音ちゃんです。見た目はどう頑張っても中学生なんだけど、その分がんばってお付き合いする人を見つけています。

 大学ではそのテの人ばっかり寄ってきて大変だったみたいですけど。

なんというか、端から見ててそういう人はキモチワルイ人ばっかりでした。

「花咲音ちゃん」

「何ー?」

「どうやったら男の人に見てもらえるの?」

「カエデ。ナッチー。今のはウチキレていいよね?」

「言いたいことは分かるけどキレるな。琴葉は真剣なんだよ。これでも」

「はぁ。とりあえず相手の好みを把握すること。何か知らないの、その人の好み」

 そう言われてハッとします。私は時野先生の趣味も、好みも、何も知らない。

 どんなタイプの女性が好きなのか。服装の趣味は? 化粧の仕方は? アクセサリーはある方がいい? ぐっとくる仕草は? 何も、知らない。

 今はただ、同僚として気遣われているだけ。

 好かれているかも、嫌われているかも、分からない。

「どどどどうしよう! 嫌われてるかもしれないぃ!」

「琴葉、会話をすっ飛ばすな。落ち着け」

「ぐす。夏葉ちゃん、私、あの人の事何も知らなかった」

「これからは好きになってもらう努力以上に相手を知る努力をしましょうねー」

「楓ちゃん……」

 楓ちゃんの言う通りです。私は時野先生の好きな所だけを見て、自分の好きを押し付けようとしていただけでした。

 見せてくれる以外の所を見ようとしなかった。

「でもまぁ一つはっきりしてることはあるよ」

「お、恋愛で苦労しまっくってる花咲音がなんか思いついたらしい」

「とりあえず一つづつ潰していこうか。まずどうしようもないのは本人の顔や体が好みじゃない場合。まず顔だけど、コトちゃんはメイクで綺麗系にも可愛い系にもなる上にそもそも美人から除外。B專だったらどーしょーもないけど。次は体のパーツね。あーくんみたいに極端なロリコンじゃない限りコトちゃんの体がNOってことは無いと思う。だから問題は、多分服」

「服がダメなの?」

「着てる服でイメージ替わるでしょ? コトちゃんの私服はゆるふわかわいい清楚系。だから地味とまでは言わないけど大人しい女の子に見える。でもその人が派手な子好きだったら? 例えば、金髪へそ出し生足さらけ出しのコッテコテのギャルが好みだったら」

 花咲音ちゃんの言葉に納得しました。確かに服でイメージはガラッと変わる。

「ちなみにその人いくつ?」

「三十三歳」

「おっさんじゃん! え、コトちゃん本気?」

「なによぅ! いいじゃない! 私がどんな人好きになったって!」

「いや、そりゃウチだってロリコンの変態選んだけどさぁ……」

「あ、やっぱ変態なん?」

「たまにランドセル背負わされる。わざわざ本物買ってまでお願いされて。大きな体を縮こまらせながらガッチガチにしてたから可愛くて断れなくて……」

「うわぁ~」と言う声が私を含めて三つ重なりました。

「何がキツイってウチの女児姿見て喜ぶあーくんよりも姿見見た時にぱっと見違和感なく現役の小学生に見えるのが一番キツイ」

「それはそう。でもしてあげるんだ?」

「……。ガッチガチになるから……」

 痛くても大きい方が満足できるのかな……。

「話戻すぞー。琴葉が年上のおっさんを好きになった件」

「昔あったスレタイみたいに言うのやめれ」

「歳の差は……十一歳差か。十分許容圏内でしょ」

「高三が小一と付き合うって考えたら相当だけどな」

「はいそこー。水差さなーい。社会人の期間は最低でも四十年近くあるんだから誤差誤差」

 楓ちゃんのフォローが温かい。

 でも本当に私、どうしたらいいんだろう……。

「どうしたらいいと思う?」

「何はともあれ情報収集! 情報を制する者は戦を制する! 恋愛遍歴なんか知りたいところだねー」

「あ、そういえば誰かと付き合ったことは無いって言ってた」

「うっそでしょ? さっき聞いたムーブしといて? その人絶対やめた方がいいって。絶対何か問題ある」

「花咲音に禿同」

「同じく」

 激しく手のひらを返されました。

「でも好きなんだもぉん……!」

「泣くな泣くな。ブスに……はならないな、琴葉は。クソが」

「まぁ困ってるのを助けられ続けて堕ちた後にそのムーブかまされるとそうなるのは乙女ゲー脳のコトちゃんなら分らんでも……あれ?」

「どったの花咲音」

「コトちゃん。ちゃんと考えて答えてね? そのイケメンムーブかまされたの、いつから?」

 そう花咲音ちゃんに聞かれた私は一旦泣くのをがんばってやめて考えます。

 最初の時野先生は優しかった。でも優しかっただけ。お酒で失敗したあの二回の時も。一線は引いてたような気がします。

ついでに一番大事なことを思い出しました。私、時野先生に可愛いとか美人とか言われてた! 特に可愛いは思いっきり警戒されながら言われたから多分嘘じゃない!

「私、可愛いって思われてた!」

「オウ、また会話がすっ飛んだな」

「コトちゃーん。質問に答えてー」

「あ、ごめん。んっと……多分、今日が初めて?」

「はい。終了~。かいさ~ん」

「え? 何? なに?」

「はぁ……。乙女ゲーやりまくってるくせになぜこの展開の結論を導き出せないのか……。いい? コトちゃん。男が態度を変える理由なんて二つしかないの。好きになったか、嫌いになったか。んで、嫌いになった相手にわざわざ好かれるような態度を取ると思う? しかも普段から優しい人が。嫌いなら壁作って優しいままでサヨナラだよ?」

 その言葉に私は考えます。

時野先生は私に対して態度を、その、彼氏みたいに振舞って。と、いうことは?

「私の事、好き?」

「少なくとも嫌いではないわね、話の流れ的に」

「好きですって言えば行ける⁉」

「そもそもコトちゃんそれ言える?」

「……むりぃ~」

「だから泣くな! なんか前より泣き虫になってない?」

 告白できれば行けるかもしれないけど、私に告白する勇気はありません。なのでなんとか告白してもらう方向にもっていかなければ。

「がざねじゃん。どうずれば、ごぐはぐ、じでもらえるの?」

「うわぁ、画面の向こうすっごい顔になってそう。これは流石のコトちゃんもブスでしょ。って、そうじゃないね。うーん。ロリコンどもは勝手に告ってくるし、ウチが付き合った時はウチから告ったしなぁ……。カエデとナッチーはどう思う?」

「喪女連合にそれ聞く? 喧嘩なら買うわよ?」

「んじゃとりあえずマッチ終わったら格ゲー起動するね。あーくん、アケコンとってぇ~」

「彼氏おるんかい! とりま画面配信ヨロ」

「というか、彼氏がいるのによくあんな会話できたわね、ボイチャで」

「んー? 真っ赤になってるの見て楽しんでた。多分今日は激しくして……え、覚悟しとけって? あ、ホントにソレ買ったんだ……」

 落ちたらするんだ……。花咲音ちゃんは昔からあけすけな所があったけど、なんかそうすることで高度なプレイをしてる気がしてきました。

「何買ってもらったん?」

「……リコーダー。多分ソプラノ。軽く歯型つけてって言われた。多分、咥えたまま鳴らさないようにしてって言われるんだ……あ、アタリ? そっかー……」

 また私たち三人の「うわぁ……」という声が重なりました。

「あんた何で付き合ってんの……?」

「問題はロリコンなことだけなの! 趣味も体の相性もばっちりだし……。ほんとにロリコンなことだけが……。あっ、あーくんの事はとっても好きだよ⁉ 凹まないで! ちょっと席外す!」

 ミュートをし忘れたのかドタバタと音が聴こえてきて、しばらくぴたりと止みました。

「おまたー。ミュート忘れてた。何か聞こえた?」

「何か聞こえることやったん?」

「……ううん。キスしてただけ」

 花咲音ちゃんのことだから絶対にそれだけじゃないような気がします。でも、それだけに羨ましい。

 そう。羨ましい。男の人なんて怖いだけだったけど、好きな人が出来た今ならそういうこと自体じゃなくて出来る相手がいることが羨ましい。そう思います。

「で、どうやったら好きになってもらえるの……?」

「そもそも琴葉がそれを言うのかって話なんだけどね……。というか胸で堕ちないんでしょ? じゃあお尻?」

「安易なエロは本命にしたい人は引かれるよ。相手の頭が中学生なら話は別だけど。やっぱ好きですって言うのが一番なんだよ。意識してなかったとしてもこっちが付き合いたいって思ってるって相手に理解させられるし」

「土俵に立てる?」

「そう、それ。あ、入ったんで招待ヨロ~」

 やっぱり告白するしかないのかな……。

 想像する。

 時野先生が目の前に居て、私の言葉を待っている。

「無理無理無理無理!」

「うぉびっくりした」

「コトちゃんうるさい」

「落ち着きなー。とりあえず、ちょっとずつ、アピールするしか、ないって」

「アピールってどうすればいいの……?」

「琴葉なら、やっぱ胸か?」

「だからエロは引かれるって。聞いてる感じを総合すると絶対真面目タイプ……というか本命以外に手を出さないタイプだから。会話から始めてみたら? ほいKO」

「うがーっ! リベンジよリベンジ! 次は勝つ!」

「カエがウチに勝ったことないけどね~。とりあえずあなたの事を知りたいですって会話をするの」

「それ言ったら好きってバレちゃわない……?」

「いやそのまま言ったらだめだよ。んーっと、例えば好きな食べ物聞いて美味しいお店リサーチして連れてくとか、家に呼べるなら作って食べさせるとか。趣味を聞いて合わせてみるとか。そういうこと」

 あ、それならできそう……。好きな食べ物とか趣味とか聞くだけだもんね。

できるかなぁ……?

 とりあえずがんばろう。動かなきゃ何も始まらないし。私は案外行動力あったからなんとかなる。

 ふんすと気合を入れて、私は止まっていた乙女ゲームのテキストを進めていきました。画面の向こうの攻略対象に、彼の姿を重ねながら。


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