忍びの三 風間蘭丸 挨拶!
「はーい。静かにー」
曽我が担当する一年三組。
蘭丸は今日からこのクラスに入り、紫原小町を護衛する。
教室の外で待つ蘭丸にも、中のざわめきはよく聞こえていた。
「じゃあ、噂の転校生君! どーぞ!」
蘭丸は引き戸を開け、教室に入った。
「初めまして。今日こちらに転校してきました、風間蘭丸です。よろしくお願いします」
頭を下げると、教室に拍手が響いた。
「小さくて可愛いね」
「ガリ勉って感じでもないな」
「どんくさそうじゃね?」
拍手に紛れ、そんな囁きも聞こえてくる。
もっとも、その小声まで聞き取れたのは、耳の良い蘭丸だけだったが。
当の蘭丸は、自分への評価など意に介していない。
うーん。紫原さんは、どこの席だろう。
教室を見渡し、目当ての少女を探す。
いた!
窓際の一番後ろ。肘をつき、窓の外を眺めている金髪の少女だ。
おばあちゃんの絵は墨で描いてあったから分からなかったけど、金髪なんだ。でも、やっぱり絵が上手だなあ。顔がそっくりだ。
護衛対象を見つけて、まず祖母の画力に感心する蘭丸。
「風間君の席は、窓際から二列目の、一番後ろね」
紫原さんの隣の席だ。
良かった。これなら見守りやすいね。
蘭丸は指示された席へ向かう。
その途中、通路脇の男子生徒がニヤリと笑った。蘭丸を転ばせようと、さりげなく足を突き出す。
が、
蘭丸は足元を見ることもなく、歩幅をわずかに変えた。
何事もなかったように、そのまま通り過ぎる。
「……あれ? え?」
男子生徒は、自分の足と蘭丸の背中を交互に見た。
空振りする足!あしぃい!
蘭丸は席に着き、左へ顔を向ける。
小町は見向きもせず、窓の外を眺めていた。
「はーい。じゃあ、授業やるわよー」
曽我は背伸びをしながら言った。
一限目は滞りなく進み、やがて授業終了の鐘が鳴った。
「はい。じゃあ、ここまで。次は体育だから、女子は更衣室に移動してね。風間君、男子はここで着替えるから」
「はい」
曽我が教室を出ると、小町も荷物を持ち、足早に出ていった。
まだ挨拶できてないなあ。
蘭丸がその背中を見送っていると、前の席の男子生徒が振り向いた。
「風間君。俺は飛山渡。よろしくね」
「うん。よろしく」
「さっそく紫原に目をつけたのか?」
「えっ?」
「分かるよー。顔は本当に可愛いし、スタイルも良いもんな」
飛山は腕を組み、うんうんと頷く。
「でも、やめときな。氷の城主だから」
「氷の城主?」
「そう。高校生活が始まって、もう二カ月ほどだろ? なのに、誰とも話そうとしないんだぜ」
飛山は小町の席へ視線を向けた。
「それでついたあだ名が、氷の城主ってわけ」
「へー」
「あっ、それとな……」
飛山が身を寄せ、声を落とす。
「この学校、勉強で入ったやつばっかじゃないんだ。剣術の推薦で入ったやつも結構いる。そういうやつらには血の気が多いのもいるから、気をつけなよ」
「へー。うん、ありがとう!」
「可愛い顔で笑ってるけど、本当に理解したのか?」
飛山は呆れたように言い、それから教室の時計を見た。
「って、ヤベッ! 早く着替えなきゃ遅れちまう!」
「僕はもう着替えたから、良かったら一緒に行ってほしいな」
「おう! ……ん? え?」
飛山の視線が、蘭丸の顔から足元へと下がる。
さっきまで制服だったはずの蘭丸は、いつの間にか体操服に着替えていた。畳まれた制服が、机の上にきちんと置かれている。
「いつの間に?」
「話してる間に。ちゃんと聞いてたよ?」
そういう問題ではない。
飛山はしばらく呆然としていたが、すぐに我に返った。
「と、とりあえず待っててくれ!」
「うん!」
急いで着替え始めた飛山を、蘭丸はにこにこと待っていた。
次回 運動と蘭丸 にんにん




